表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
40/75

7話 異常



研究所での一件以来、私の胸中が晴れる事は一向になかった。

それをひた隠し学園生活を送っていた。



「見つけた!ルゥ姐さん、ソレンヌが……」



ヒロインであるラシェル嬢が学園に来て二週間。学園は徐々に不穏な空気へと変わっていた。

サビーヌを連れ立って図書室に向かっているとエドが慌てたように私の元へと駆けて来る。



「また、なのね」

「……うん」



苦虫を噛み潰したような顔で問い掛けるとエドも眉尻を下げて頷く。

事は三日程前から始まった。



「レナルド様、目を通して頂きたい書類が御座いますので生徒会室にお越し頂けないでしょうか」

「そんなもの、お前がすればいい事だろう。」

「レナルド様の許可を要するもので御座いますので、わたくしの一存では致しかねますわ」



中等部内にある中庭から声が聞こえる何度目だろうか。三日程前から始まったこの言い合い。

レナルド王子は中等部に進級すると共に生徒会に入り一年生では副会長を務め会長の元で一年かけて引き継ぎという名目で補佐を務め、二年生に上がり生徒会長へと就任した。



「ソレンヌ様、レニー様にも偶には息抜きが必要だと思います。自由がないなんて可哀想ですよ!」



この騒ぎの発端であるもう一人の人物が声を上げる。レナルド王子をレニー様と愛称で呼ぶ少女。


「ラシェルは優しいな。君は私の事を一番に理解してくれる。」

「ちょっと、レナルド。僕のラシェルに近付き過ぎだよっ」



なんだこの花畑空間は。

思わずそう思っても仕方ないだろう。ベンチに座る三人の男女とその周りにも数人の男子生徒が立っている。

ベンチに座るのはラシェル嬢を真ん中に左右にレナルド王子とルイス王子が座っている。

目を潤ませてソレンヌに食ってかかるラシェル嬢の肩に腕を回し抱き引き寄せるレナルド王子。それを見て文句を言うルイス王子。ラシェル嬢はこの学園に来て二週間で男子生徒達の心を掴んだ。

天真爛漫で活発、美少女の笑顔で同級生の男子生徒を次々と虜にしていき、一部の攻略対象者達も例に漏れず虜となった。その一部にレナルド王子とルイス王子も入っている。



「兄弟喧嘩はいけませんっ。私は仲の良い二人が好きなんですから」



両手を胸の前で組み上目遣いに双子王子を見つめ仲裁する。

それを黙って見ていたソレンヌの手に力が入るのが見えた。



「レナルドさ──」

「何だ。まだ居たのか。私が許可するのだ、後はお前がどうにかしろ。それくらいの事が出来なければ私の妃など到底務まるわけもないしな。これは、お前の為でもあるんだぞ」


再び名を呼ぶソレンヌの言葉をかき消し疎ましげに発するレナルド王子。



巫山戯た事を。

だが、此処で出て行く訳には行かない。私が出て行った所で向こうには二人の王子がいるのだ。二人して権力の前に為す術もなく並行線になるのが目に見えている。隣に目を向けるとエドが眼を見開きベンチに座る面々を今にも射殺さんばかりに見つめ怒りに身体を震わせている。



「わたくしがどうにかするわ。エドは先生を呼んできて頂戴」



きつく握られていた拳にそっと手を添えてエドの意識を此方に向ける。

エドの視線が言外にどうにか出来るの?と問い掛けているように見えて返事は返さずに曖昧に笑う。

先生が来るまでの時間でいい。先生が来た所で双子王子をどうにか出来るとは思っていないが、この場を収束出来ればそれでいいのだ。



「あれぇ?人集りが出来てるけどどうしたの?」



私達がいる方とは反対側から声が上がり野次馬根性で現場を目撃していた観衆から騒めきが広がり、人々が左右に割れ一本の道を作る。何だかデジャブ?



「あ、ソレンヌ姉さんいた!レオ、ソレンヌ嬢此処にいたよ!」

「左様でございますか。では、ソレンヌ嬢を連れて早く戻らないといけませんね」

「そうだね!」



人波の中から現れたのは銀の髪に太陽の光を反射させてソレンヌの姿を見つけるなり満面の笑みを浮かべるドナシアン王子とドナシアン王子の後ろに付き従って群衆よりも頭一個分抜きん出た長身のレオポルド様だった。

ドナシアン王子の天使の微笑みと称される満面の笑みを直視した対面にいた令嬢達が次々と額に手を当ててふらついている。



「ドナシアン王子にレオポルド様?」



ソレンヌは突然の第四王子の登場に驚いて目を見開く。それもそのはず、ドナシアン王子は双子王子に幼少の頃から虐められ兄である二人を怖がって怯えていたのだから。双子王子がドナシアン王子に近付こうとする度に私やソレンヌが間に入り二人の意識からドナシアン王子を庇っていた。それが、自ら双子王子の前に出てきたのだから群衆の一部となっていた私もエドも驚いている。



「ソレンヌ嬢、今日は僕とカフェに行く約束してたのに教室に迎えに行ったのにいなかったから探したんだよぉー」

「え、あ。申し訳ございませんわ。ドナシアン王子」



ドナシアン王子はたたた、とソレンヌの元に走り寄る。

ソレンヌは一瞬驚いていたが、直ぐにいつもの調子に戻り申し訳なさそうに眉尻を下げて謝罪する。彼等の違和感に気付いたのは極一部だろう。私とエドもその極一部に入るのだが、ソレンヌとドナシアン王子は本当は約束などしていなかった。だが、一人で脳内花畑共に立ち向かうソレンヌをドナシアン王子が助けに来てくれたのだと直ぐにわかった。



「カフェですか!?私も行きたいですぅ。ドナシアン様、私も御一緒して良いですか?」



ラシェル嬢が立ち上がりドナシアン王子の元へと向かいドナシアン王子の腕を取る。

ラシェル嬢が向かって来る際、レオポルド様が間に入ろうと動いたがドナシアン王子がその動きを目で制したのが分かった。人の動向に敏感なエドと後ろに控えるサビーヌにも分かったのだろう。だが、エドはどうやらドナシアン王子の意図まで汲めなかったようで眉間に皺が寄っている。



「ごめんね、ラシェル嬢。そこのカフェは予約制で人数も既に伝えていて、人気店な為急な変更は出来ないんだ」



ドナシアン王子はラシェル嬢の手から腕を抜いて申し訳なさそうに断りを入れるが、金の瞳は何処までも冷たく周囲には聞こえない声で何かを口にした。



《お前の取り巻きを連れて直ぐに此処から去れ》



ラシェル嬢にしか聞こえない声でドナシアン王子がそう言った。

私とサビーヌはドナシアン王子の初めて見る様子に驚愕する。何故、彼の言葉が分かったのかというと、私とサビーヌは互いに練習するうちに読唇術が使えるようになり僅かな唇の動きだけでも読み取ることが出来るようになった。



「あー、それなら仕方ないですねぇ。では、ドナシアン王子私達はこれで失礼しますね」



ドナシアン王子のストレンジは言霊。

言葉にストレンジを乗せる事で相手を意のままに動かす事が出来る危険なストレンジだ。

効果は持続しないとはいえ、ドナシアン王子が力を使うのは初めてだ。



「ラシェル、いいのか?ラシェルが望むならその店に私が連れて行ってやってもいいぞ」

「僕達なら王族だし予約しなくてもきっとその店に行けるよ」




ラシェル嬢は取り巻きの元へと戻ると双子王子がすぐ様口を開く。堂々と権力振り翳す宣言しちゃってるんですけど。



「ううん、いいの。それより私構内に戻りたくなっちゃった」



ラシェル嬢は生気のない目をしてそう言うが彼女の様子に誰も気付かない。

そして、ラシェル嬢と男子生徒達は構内へと戻って行き、野次馬と化していた群衆もパラパラと解散していった。



「ソレンヌ!」



生徒達も解散した事でその場にはソレンヌ、ドナシアン王子、レオポルド様、そして私とエドとサビーヌを残しエドがソレンヌに駆け寄る。



「エド、それにルゥお姉様とサビーヌさんまで。……お恥ずかしい所を見せてしまいましたわ。ドナシアン王子、レオポルド様、助けて下さりありがとうございました」



ソレンヌは私達の姿を認めると目を丸くしたが直ぐにへにゃりと泣きそうな顔で笑った。そして、ドナシアン王子とレオポルド様に向き直ると謝礼を述べお辞儀をする。



「ソレンヌ姉さんの役に立てたなら良かったぁ。いつも、僕が守られているからね」



えへへ、とドナシアン王子はいつもの甘えん坊な笑みを浮かべる。



「俺は別に何もしてない」

「もっと他に言うことあるでしょ」

「……無事で何よりだ」



レオポルド様の素っ気ない態度にエドがすかさずどつくと、言い直す。それでも、まだ味気なさはあるもののレオポルド様も幼馴染を心配していたのだと私達には分かる。

エドとレオポルド様の熟年夫婦のような遣り取りにソレンヌはおかしそうに噴き出し、それにつられ私達も笑顔になった。その後、私達は生徒会室へと向かいソレンヌの手伝いを出来る範囲でする事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ