6話 予知夢
此処はストレンジ学園?
それに職員室かしら?
学園に騎士の方々とストレンジ騎士団の方々が出入りして先生達も慌ただしく駆け回っていて騒々しい。
「行方不明者の人数は分かったの!?」
「結界で防御されているのか手がかりが掴めません」
「敵は賊なのか組織で動いているのかまだ分からんのか!」
「子供が無事到着しているのかと親御さんからの問い合わせが殺到しています」
「生徒達を寮から一人も出すなよ」
「学園にいる高等部の生徒達を初等部寮と中等部寮に全員行かせているので直に生徒達の騒ぎも落ち着くと思います」
これは…"知っている"。
ゲームの中で連休中に帰省した生徒達が連休も終わり学園に向かう途中で相次いで誘拐される事件があった。
「救出に行こう!」
正義感溢れるレオポルド様の発言で双子王子率いるクラスの男子生徒達が盛り上がり謎組織に誘拐されたクラスメイトや学園の生徒達を助け出すという話だ。
この事件は第一章の終わり頃。一学期終盤の夏休み前の大型連休で起こる事件だったか。
ヒロインは誘拐された側でこの時に好感度が一番高いキャラが救出してくれるのだが、
「俺が相手になろう。かかって来い」
何故。何故貴方がそこにいるの!?
彼等が来るのは二学期のはず。
「姐さん大丈夫?」
「ええ。ソレンヌ、エド行くわよ」
これは、私?
エドもソレンヌも戦闘モードで各々得意武器を手にしている。
「ソレンヌ嬢怪我はないかい!?」
「は、はい。助けて頂きありがとうございます。…──様」
見ている景色が暗転する。
真っ暗で何も見えない。もう少し、先程の事件を詳しく見ていたかったのだがそう願っても先程の夢を映し出すことは出来ないだろう。
夢の中にいてもこれは夢だとはっきりと認識出来る。予知夢が消えたということはそろそろ10分経った頃だろうか。
意識が現実に浮上するのを待つばかりかと思った時だった。
「ルゥお姉様しっかりしてください!」
「ルゥ姐さん!起きて!起きてよ!!」
真っ暗だった視界に急に光が指す。
そこに映し出されたのはライの治癒の光に包まれる私の姿。そして、横たわる私に縋るソレンヌとエドの姿。
「ジル!!目を開けろ!!」
「心臓が動いてない……」
「うそ…だろ。死んだなんて嘘、だよなっっ」
その傍らには六年前よりも大きくなった愛しき人の姿。
その愛しき人は私の隣で息絶えており、彼の周りにもまた彼を慕う者達が囲んでいる。
これは何?
こんなの"知らない"。
「じ、る……さま」
「お姉様!!」
「姐さん!!」
「ルイーズ嬢!!」
私がゆっくりと目を開ける。
それに気付いた面々は口々に私の名前を呼んだ。
「ライ、……ジル様、を。怪我して……わたくしより、先に……治してさしあげて」
横たわる私はジル様に向け手を伸ばしてライに命令する。
しかし、ライは私に治癒のストレンジをかけながら離れようとしない。
「ライ……じる様に。はや、く」
それでもライは動かない。
私と私の愛しき人を囲む面々は声を押し殺して泣いて言葉を発さない。
何故皆は泣いているの?
心臓が止まった?そんなの、そんな事あるはずがない!!
ゲームではそんなシナリオは無かった。
最愛の君が死ぬのはバッドエンドの時だが、それは私の道ずれが成功してルイーズに殺される時だけだ。
だが、今見ている場面はゲームとは色々と異なっている。先ず、断罪イベントの場所も違えばヒロインもこの場にはいない。それに、ゲーム内でも見たことが無い初めて見る顔触れもいる。
何より、未来の私は最愛の君を助けようとしている。
「ジル様?返事を。声を聞かせて…くださいませ」
未来の私が手を伸ばし隣の彼の手を握る。その瞬間一瞬強ばった顔をして懸命に呼び掛ける。
もう、やめて。
見たくない。いやだ。やめて。こんなの信じない。
これが、私達の未来だなんて信じない。認めない。
目を閉じたくても耳を塞ぎたくてもこれは夢の中だから目を閉じることも耳を塞ぐことも出来ない。
どうして?どうしてこんな未来になってしまったの。
漸く10分が経過し私の呼び掛ける声が徐々に遠ざかり現実世界に意識が浮上する。
「お疲れ様でした。今回の予知夢の内容を教えて下さい」
目を覚ますとヒロ様が暖かいお茶を差し出してくれてそのお茶を一口飲んでカラカラに乾いた喉を潤す。
差し出されたお茶は緑茶というものでジャポンヌ国のみで栽培されている茶葉を煎じたものらしい。緑茶は私の昂った気持ちを落ち着けてくれる。
「ルイーズ嬢?如何されましたか?顔色が優れないようですが」
私の異変に気付いたヒロ様が心配そうな表情で尋ねてくる。
「いえ、大丈夫ですわ。ただ、ちょっと宜しくないものを見てしまいまして」
私は苦笑を浮かべて誤魔化し、予知夢で見た内容を報告する。報告した内容は初めに見た生徒誘拐事件についてのみ。
後半見た内容については報告する事が出来なかった。それに、ユメの予知夢が当たると言っても先に分かったのだからあの未来を回避すればいいのだ。
予知夢で見た未来にしない為にも事前に準備をしていれば回避出来るはず。
だけど、もし本当になったら?
そう考えてしまいゾッとした。恐怖に身体が震えそうになる。私が序盤からシナリオを捻じ曲げた事によって、歪みが生じたのだろうかと考えて頭を振る。
「これは、団長や騎士の方々と相談しなければなりませんね。ルイーズ嬢、本日の調査は終了です。エドウィージュ嬢とソレンヌ嬢がいる研究所までお送り致します」
ヒロ様は私が話した誘拐事件について考え込んでいて私の様子には気付いてはいないようだった。
その後の事はあまり覚えていない。無理矢理笑顔を貼り付け受け答えはしっかりと返していたとは思うが誰と何を話していたかは全く覚えていない。
その日の夜は、早目に寝床に就いて一人予知夢について考えては震える身体を自身で抱き込んで丸くなって眠った。




