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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
37/75

4話 悩み所



「どうして無視するんですか!?私が庶民だからですか!?」



ラシェル嬢は悲痛な面持ちで叫ぶ。

この短時間で目眩に頭痛まで覚えるなんて初めての事だ。頭を抱えたくなるのを我慢して笑顔を貼り付ける。



「それは、わたくしに言われているのでしょうか?」


「そうです!私はちゃんと自己紹介したのに挨拶も無く無視するなんて酷いです!!」



彼女は人を煽るのがお好きなのでしょうか?

それとも自分を追い込むのが好きなマゾなのでしょうか?


相手の胸の奥に燻っている怒りに気付いていないのか、自ら火に油を注ぐ行為に理解が及ばない。どうして彼女は此処まで愚かなのだろうか。

平民であっても上下関係というものは誰もが知っている事だ。貴族相手に目下の者から口を利いてはいけないや、貴族の行く手を阻んではいけないなど子供でも知っていること。

その一般常識を彼女は理解していないのだろうか。



「君さぁ、さっきから聞いていれば───」



彼女の目に余る態度にエドが憤り注意しようと口を開く。しかし、それをエドの前に閉じた扇子を上げて制し当事者としてラシェル嬢と面と対峙する。



「無視だなんて酷い言いようでは御座いませんこと?聞いていらっしゃらなかったのかしら?わたくし達この後予定がありますので先に失礼させて頂くと言ったでは御座いませんか」


「でも、名前を言うくらい直ぐじゃないですか」



これがヒロインとはがっかりだ。

彼女は真っ直ぐと私を見つめ至極真っ当な事を言っているつもりなのだろうが、自分の首を自ら絞めていることに気が付いていないようだ。

悪役令嬢じゃなくても、彼女の態度には誰でも不満に思うし小言の一つや二つ言いたくもなるだろう。もし、ゲーム内では細かい描写がされていないだけで普段からヒロインにこんな態度を取られていたのなら悪役令嬢に位置付けされていた者達の気持ちも今ならば分かる。



「貴女に忠告致しますわ。貴女は先ず教養と礼儀を身に付けた方が宜しいかと思いますの。貴女が確りと教養と礼儀を身に付けた時にはわたくしも貴女を一人の淑女と認め改めてご挨拶致しますわ」



ああ、嫌だわ。

これじゃあ本当の悪役令嬢じゃない。

だが、此処は公爵令嬢として、また中等部の年長者として皆に上に立つ者としての示しをつけなければならない。

たかが名前程度と思うかもしれないが、厳しいようだが彼女の態度を認める訳にはいかないのだ。



本来、ヒロインと接触する事があっても一切関わる気は無かった。

私の大事な者達を傷付けない限りは誰と恋に落ちようが周りに迷惑掛けない恋愛ならば大人しく見守るつもりでもあった。だが、実際対面してみるとどうだ。ソレンヌを公の場で辱め、私達の態度が非常識だと非難する。

本来のルイーズならば大人しく裏で動く狡猾な性格な為、ヒロインに直接食ってかかられれば苛烈さを胸に秘めながらも身を引いただろうが生憎と今の私はゲーム内のルイーズとは180度性格が反転している。



「それでは、皆様今度こそ失礼させて頂きますわ。御機嫌よう」



私はカーテシーをして別れを告げる。ソレンヌとエドも私の後に続いてカーテシーをする。

それでも、何事かを言い募ろうとしたラシェル嬢をラーゲル先生が即座に止めに入ってくれた為再び呼び止められることは無かった。






「ルゥお姉様、助けて下さりありがとうございました。しかし、わたくしの所為であのような事を言わせてしまい申し訳ございません」


私達は今馬車の中にいる。

ヒロインとの対面の場から立ち去る時にドナシアン王子とレオポルド様も付いて来たのだが、彼等とは学園内で別れ今は私、ソレンヌ、エドそして護衛兼侍女としてサビーヌが同乗し、ストレンジ騎士団の研究所へと向かっている途中だ。

ソレンヌは僅かに震える手を抑えながら私に頭を下げる。



「顔を上げて、ソレンヌ。わたくしの可愛い妹を傷付けられたのだもの黙っていられないわ。それに、あの場で彼女の言い分を聞いてしまうと他の方々に示しがつかなかったもの。到底、公爵令嬢としても年長者としても彼女の態度を認める訳にはいかなかったのよ。だからソレンヌの所為ではないわ」


眉尻を下げて顔を上げるソレンヌににこやかな笑顔を向ける。それに、少しだけ安堵したのか彼女が小さく息を吐くのが分かった。



「それにしても何なのあの人!幾ら庶民だとしても礼儀を弁えて無さ過ぎるよ!」



エドが怒るのも最もだろう。

普段の彼女からは考えられないがエドは礼儀に関しては実は完璧だ。夜会やお茶会に出席すると人が変わったように綺麗な動作をする。それに、彼女はゲーム内でもそうだが、姉御肌気質で誰にでも平等な為庶民の女性達からも大変な人気者で庶民の友達も複数いる。なので、幾ら平民出自といえど、ヒロインの態度は有り得ない事だとよく分かっているのだ。

そのエドが言うのだ。ヒロインの態度はやはり常軌を逸しているのだろう。



「エドが怒る気持ちもよく分かるわ。だけど、早まった行動だけはしないようにね?」


ソレンヌとエドはラシェル嬢と同じクラスだ。ソレンヌはゲーム内の性格と大分変わり高飛車で権力を振り翳すような性格ではなくなった為に大丈夫だとは思うが、エドが心配だ。

エドは自分の事だと無頓着なのだが、他人が傷付けられるのを大いに嫌う。それが、懐に入れた者となると尚更のこと。



「何かあれば直ぐにわたくしに報告する事。勝手に動いては駄目よ?特にエド。いいわね?」



エドは既に不満だとその顔にありありと書いているが渋々了承した。

ラシェル嬢に関しては動向を見守りつつどう対処していくか考えていかなければ。今のところ一番厄介なのはレナルド王子のルートに入った場合だろうか。レオポルド様とドナシアン王子に関しては今のところ大丈夫だろう。あの場でもし残るような事があればレオポルド様に関しては対策を立てなければいけなかったがレオポルド様もエド同じでラシェル嬢の態度に憤っていたようだし大丈夫だと信じている。

あの場での空気は異常だった。しかし、それに気付いた男子生徒は観衆の一部の生徒とドナシアン王子、レオポルド様くらいだろう。もし、ラシェル嬢が対象者達を"攻略"しに来た場合確実ではないが、陥落する予感がする。その場合傷付くのはソレンヌだ。


私は研究所に着くまでの道のりで今後の動向に思考を巡らす。一番の悩みどころはやはりソレンヌとレナルド王子だろうか。どうにかソレンヌを傷付けずに学園生活を送りたいものだが、私には人の心までも左右する力など持ち合わせてはいないし難しいところだ。

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