13話 エド嬢とレオポルド様
私は昼休みにサビーヌと共に校舎の周りを散策をしていた。
「お嬢様、そう落ち込まないで下さい。皆さんいきなりお嬢様が声をかけたから驚いただけですよ」
「声をかけただけで驚くってわたくしはお化けでもなんでも無いわよ!ただ、お友達になりたかっただけですのに…。公爵家なんて!公爵位なんて!そんな位要りま……すわね。スタン様に見合う女性になるならば必要だわ」
「お嬢様のそういう第一王子至上主義なところ私は好きですよ。」
「ありがと。……でも、それとこれとは別でやっぱりお友達も欲しいわ」
ここに来て二年は経つのに私には同い年の友人が一人もいない。
一緒にお昼をどうかと声をかけても「滅相もない」って言われたこともある。ご令嬢じゃなくてもいいからと数少ない庶民の方にも声をかけようとしたら近付いた瞬間に脱兎のごとく逃げられた。
みんなそんなにも私と宜しくしたくないのか……。
サビーヌからは家格の問題だと毎回宥められるがそれだけが問題では無いと思うの。
色彩だけなら儚系でお母様のように垂れ目で目の下に泣きボクロでもあれば可憐で守ってあげたくなるような女の子になれたかもしれないのに、如何せん目元はお父様の血を継いで目尻はキュッと釣り上がり容姿はお母様譲りでも美人で性格の悪さが滲み出ているを体現しているようなものだ。
ソレンヌ嬢の様に目尻が少し上がっていても容姿でカバーされ妖精のような容姿か、エド嬢のように気の強さが滲み出ていても姉御肌のような美人でかっこいい系になれればよかったのに…
こればっかりは仕方ない。
「お嬢様……お友達でしたらソレンヌ様とエドウィージュ様がいらっしゃるでは御座いませんか」
「ソレンヌ嬢もエド嬢も大好きよ。だけど、同い年の友人が欲しいと思うくらいいいでしょ。一人で移動なんて寂しいもの」
思わずしゅん、としてしまうとサビーヌに頭を撫でられた。
そして、直ぐにサビーヌは後の方に移動する。
「姐さーーん。覚悟っ!!」
そう言って横方向から飛び出してくる物体を屈んで避ける。
「あ。」
ガンッ
私は屈んで直ぐにしまったと思ったが既に遅かった。飛んで来た物体は私の横にあった木に激突して撃沈している。
「姐さん!模擬戦やろう!!」
かと思えば、即座に起き上がり私に抱きついて来る。因みに、ぶつかった本人はピンピンしているが、追突された木はその部分だけぼっこりと凹んでいる。
「エド嬢、いきなりの攻撃は辞めなさいとあれ程お話したではありませんか。それに、こんなところ誰かに見られでもしたら───」
そこまで言って動きが止まる。
エド嬢が飛び出して来た場所。つまり校舎側なのだが、そこにはエド嬢がそこから飛び出して来たのであろう窓が開け放たれており、一人の少年が立ち尽くしていた。
それに何故か目がキラキラしているがきっと気の所為だろう。うん。絶対気の所為だ。
それにしても、この顔には覚えがある。
茶色ベースに緑のメッシュが混じった髪。保持する能力を示すかのように澄んだ緑色の瞳。レオポルド・ラクロワ様、エド嬢の婚約者だ。レオポルド様は中央軍騎士団長兼総帥である祖父に一番危険とされる北方地区で北軍騎士団長を務めるオーギュスト・ラクロワ様を父に持つ此方も戦闘狂の気がある家系の三男坊である。
「すっげー。今の不意打ちどうやって避けたんだ!?すげー!すげー!!」
どうやら気の所為ではなかったようです。すげーを連呼して目を輝かせる少年。それに何故か胸を張るエド嬢。
「姐さんは最強なんだ。誰にも負けないんだからっ」
余計な事を、と思ったものの既に遅くレオポルド様は窓から飛び降りて私の元までやってくる。
「なあなあ、模擬戦するんだろ!?俺も一緒にいいか?」
レオポルド様は目を輝かせながら詰め寄って来る。それに加えエド嬢も両手を前に組んでおねだりポーズで訴えてくる。
そんな二人の圧に根負けした私は二人を伴い学園が管理する演習場へと向かった。
この学園には騎士を目指すものやストレンジ騎士団を目指すもの達の為に演習場が設けられている。
私は先にレオポルド様と戦い、次にエド嬢と戦うこととなった。
レオポルド様は風を操るストレンジ持ちで剣にストレンジを纏うことで威力が倍増する。レオポルド様もなかなか剣筋はいいがやはりまだまだ子供。それに、どちらかというとエド嬢の方が戦闘力では彼よりも上だろう。
私は、適当に相手をしつつ時間を見計らって彼に勝利する。彼は女である私に負けたのが割と応えたのだろう。かなり落ち込んでいる。私は流石に悪いことをしたと思い、エド嬢とレオポルド様二人でかかってくるように提案する。しかし、彼はそれに更に拗ねてしまっていじけてしまった。はっきり言って面倒臭い。
「いつまでうじうじと女々しい奴だな!負けたのはお前の力が弱いからだ!悔しければオレに勝ってみろ。そうやって、いつまでもこーじょーしん持たないお前にはイッショーかかっても倒せんだろうがな。アッハッハッハ。」
見かねたエド嬢がレオポルド様の前に仁王立ちで佇む。そして、声高らかに笑い声を上げてかなりの棒読みでそう宣言する。
というか、戦って勝ったの貴方じゃないでしょ!という突っ込みも忘れ私もレオポルド様も唖然としていると一頻り笑い声を上げたエド嬢は腕を組んでビシッとレオポルド様を指さす。
「って、アドルフ兄さんが言ってた。あんたはそん時の私だ。悔しがったって行動しなければ強くならない。倒したいと思うならいじけるんじゃなくて倒す方法を考えろ。負けるのは弱いから、だけど、もっと強くなれるということ。今の自分より更に強くなれるんだ。一番難しいことは自分に打ち勝つことと言われている。相手と比べるんじゃなくてその自分に更に勝つことが出来るんだと思えって父様も言ってた」
時折噛みそうになりながらもアドルフ様とお父上の受け売りを口にするエド嬢。
レオポルド様は唖然としていた表情に力が戻って来て瞳にも光が戻って来ている。
「弱い」はっきりと女の子からそう言われて自尊心は打ち砕かれたことだろうが、エド嬢の言葉から何かを見出したのだろう。その弱さに打ち勝つ為に彼は再び剣を握る。
「それにな、私の姐さんに勝とうなんてお前おこがましいぞ。姐さんはあのアドルフ兄さんにも勝ったんだからな!」
えっへん。と胸を張るエド嬢。驚愕して口を開けたまま私とエド嬢を交互に見るレオポルド様。
気持ちは分からなくもない。だけど、事実です。私は苦笑で返して誤魔化すように模擬戦を再開した。
そして、二人は息がぴったりな程に次々と私に攻撃をしてくる。これはいいコンビになるなと思った矢先だった。
「レオ。その剣に最大の風を纏って!」
エド嬢がそう指示を出す。
それに頷いて剣の周りに最大出力で風を纏うレオポルド様。何をするのかと黙ってみていたらエド嬢はレオポルド様の方へと全力疾走する。ストレンジを纏った剣をバネにエド嬢が突っ込んで来るのかと思ったら違った。手に持った巨大ハンマーを投げ捨ててエド嬢はしゃがんでレオポルド様の膝をホールドする。
「レオ、気合い入れていっくよーーー」
「え?え?ちょ、エド?何を……」
レオポルド様もわけが分からないままに抱き上げられエド嬢にぐるぐると振り回されている。その動きは徐々に速さをまして風は剣だけでなく二人までも取り込んだ。二人の周りには小さな竜巻が出来ており、これはと思った瞬間エド嬢が私に向かってレオポルド様を放り投げた。
「行ってこーい」
「ぎゃあああああああ」
掛け声と共に容赦なく投げるエド嬢。絶叫のレオポルド様。
竜巻を纏ったレオポルド様は私目掛けて一直線に飛んでくる。避けれない事もないが避けてしまうとレオポルド様が大惨事に合うのは目に見えている。エド嬢のように身体強化出来れば別だが彼のストレンジは風だからこれは私が受け止めてやらねばならないだろう。
だが、レオポルド様本人の力以上の風力を増した竜巻は彼には制御出来ないだろう。私は心の中で結界のストレンジを保持するピッピコに指示を出し私の体の周りに結界を纏う。そして、回転しながら飛んで来たレオポルド様をキャッチすると同時に上空へと進路変更する。二人を纏う風を私の大量の水で霧散させゆっくりと回転しながら地面に降りる。
ぐったりと意識を失っているレオポルド様をサビーヌに介抱を頼み私はレオポルド様が起きるまでの小一時間に及んでエド嬢を説教していた。
それからというもの、エド嬢とレオポルド様は私を見つけると模擬戦を申し込み。二人力を合わせて立ち向かって来るようになった。
あれ以来、エド嬢も無理をすること無く、二人であの技を完成させる為に日々勤しんでいる。
そして、私はレオポルド様という新しいお友達を手に入れた。またもや年下ですけども。




