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6話 謎の男



「貴方はっ……トン、150キロに増やして頂戴」



私は男の顔を見るなりトンに重量を増やすように命令する。増量により起き上がろうとしていた男は再び蛙が潰れたような声を上げて地面に伏す。


私は男の顔の前に仁王立ちで佇む。



「答えなさい。わたくしの愛しのスタン様を何処に隠しましたの!!」



片手を腰に当てズビシッと指を指して問う。



「な、にを言って……ちょ、これ、退け、ろ」



男はトンに押し潰されたまま呻き声混じりに此方を睨みながら発言する。

そんな男を目端に大きく膨らんだトンをナデナデしながら片手を口元に運ぶ。



「まぁあ、仰らないつもり?……ダルシアク国第一王子は何処かと聞きましたの、さっさとお答えなさいな。陰影」

「貴様っ、何者だ!!?」



大きく口を開けて戯けてみせるもスゥ、と双眸を細める。本来であれば腹の探り合いから始めるのだろうが私には時間が無い上に面倒臭いことこの上ない。後手に回るのだけはごめんだ。

この男は一筋縄ではいかない奴だが、此方には爆弾と言う名の手札を複数所持してる。必ずあの方の居場所を吐かせてみせる。

その為の単刀直入に切り込みを入れたのだ。上手く食い付いてくれた事にホッとしつつも次の布石を投じていく。



「何者?貴方が今面倒を見ているスタン様……では無く、名を改めジェルヴェール様と言ったかしら?とにかく、彼の未来の花嫁ですわ」

「未来の花嫁?……お、まえ…いや。もしかして…あんたはカプレ家のルイーズ嬢か、っ」

「御明答ですわ」

「カプレ家の嬢ちゃんが何で此処に!?どうやってこの森まで来たんだ!?街からは馬車でも一時間かかるんだぞ。いや、それよりこのピッピコの力は何だ。目的は!?何故その名前を知っている!?」


全くもって質問の多い男である。

というか、この人こんなキャラだったかしら。

もっと、落ち着いて貫禄があって無口だったはず。第一王子ルートで少しだけ出てくるだけだから記憶が曖昧だが、大人の余裕がある人物の一人であったはずだ。それより、



「わたくしが先に質問しているのです。先に質問した方に答えるのが筋でしょう?」



私は早く彼の居場所が知りたいのだ。

これで答えなければ、男の記憶を消して気絶でもさせた後に捜索を開始しようと考える。



「答える気はないと言ったら?」


男は地面に伏したままだが、此方を見て不敵に笑う。その笑みに悪意などではないが何か嫌な感じがして眉宇を寄せるも答える気が無いのであれば私に出会った所からの記憶を消すだけだ。


「ネム、メモリおいで」


男を見下しながら問いに答えることなく二匹のピッピコを呼び出す。ネムは子守唄で万物、生けるもの全てを眠らせることが出来る。

私は顔の周りに水の防壁を作り音を遮断して先ずはネムの力を借りて男を眠らせた。

次に記憶操作系のメモリで私と出会った所からの記憶を消そうとした。



「あ、れ?如何して!?記憶操作が出来ない!?」



私はメモリのストレンジを人間に使うのは初めてだが、動物等で国の管理者の元記憶操作を使用したことはある。だから、使用法は知っているはずなのに男の記憶を弄ることが出来ないでいた。

メモリ単体でも記憶操作は行えるのだが、私の力をメモリに分け与える事で私にもメモリのストレンジが付与されより細かく記憶を弄ることが出来る。なのに、記憶操作に失敗しているというよりも、力は発動しているのにその力が打ち消されているような感じだろうか。



「記憶の改竄(かいざん)は済んだか?」

「!?」


ネムの睡眠で寝ているはずの男が目を開けた。

どういう事だろうか。この男については情報量が少ないとはいえ、私は自分でも驚く程のチート力を手に入れた。ステータス然り、ピッピコ然り。なのに、何故かこの男にだけは今の所何一つ通用していない。

その焦りと動揺で眉宇を寄せて後退り距離を取る。トンの重力操作は確かに効いていた、だが今は余裕そうにしている。というより、トンの身体が徐々に小さくなっていっている気がする。



「ほぉ、距離を取るとは感がいい嬢ちゃんだな。直ぐに追い払おうかと思ったが気が変わった。お嬢ちゃんの事についておじさんと色々と話そうや」

「……ええ。喜んで。と言いたいところだけど時間がないの。わたくしの愛しのスタン様に会わせてくれれば貴方が聞きたがっていること教えてあげなくもないわ」



男は片手で無精髭を撫で付けながらゆっくりと立ち上がる。上に乗っていたトンは元の通常サイズに戻りポテン、と地面に落ちた。


こんな時、サビーヌがいれば相手のステータスを確認して能力等も分かっただろう。だが、ここにサビーヌはいない。

私はトンが捕まる前に心の中で亜空間に戻るように指示を出しネムとメモリを抱えたまま男と対峙する。

その時だった。



「師匠!大丈夫ですか!」



男の仲間と思われる声が聞こえたかと思えば背後から鋭い何かが飛んで来て私は水で防御する。

背後から飛んで来る物体の気配の正体に気付いた私はただの水ではなく熱水の防御壁を作ったのだが、その予測が当たり防壁に当たった物体は熱に溶けてなくなった。



私はゆっくりと後ろを振り返る。


この時をどれだけ待っただろうか。

声を聞いただけで震える心。

私の身体ではないかのように頭で理解するよりも先に身体が動く。


唇はわなわなと震え手は振り返ると共に徐々に伸ばされ姿を確認する前に足は今にでも走り出さんばかりに足裏に力を入れる。





ああ、やっと……貴方に会えた。







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