5話 西の森
「サビーヌ、調査は上手く行った?」
「はい。問題ございません」
私とサビーヌはお茶会を抜け人気の無い場所に身を隠して首尾を尋ねる。
「そう、流石ね。西の森まではどのくらいで着くかしら」
「私の足で片道25分。お嬢様が全力を出したら5分程で西の森に到着出来るかと思います。」
「制限時間は余裕を見て50分ね。今日見つけられるといいのだけれど…」
「お嬢様」
「分かってるわ。焦りは禁物だって言うんでしょ?でも、一年以上よ。一年もこの日を待っていたんだもの」
この日をどれだけ待ったことか。
作戦を練りに練って時にピッピコの力も借りて万全の準備をしてきた。
サビーヌは眉尻を下げる私に困ったように微笑みながらも両の肩に手を置いた。
「お嬢様、そう気負わないで下さい。森の入口で直ぐに引き返しましたが森の中から複数の人の気配を感じました。その中に、かの御方がいらっしゃる事を信じましょう」
「そうね。ありがとうサビーヌ。わたくし絶対見つけてみせるわっ!」
「その意気ですお嬢様。その前に体力を凄く消費してしまっているようなのでライに頼んで回復致しましょう」
サビーヌの言葉に沈んでいた気持ちが浮上する。サビーヌの言うことなら本当に西の森に誰かがいるのは確実だ。
私自身はまだまだ元気だがサビーヌが言うのなら西の森に行く前に体力を回復していた方がいいだろう。
サビーヌはストレンジ持ちの侍女だ。
彼女はある日自ら私の侍女付きになりたいと申し出て来た。彼女のストレンジは人のステータスを見ることが出来る。私が保持するピッピコの中にもステータスを確認出来るストレンジを持っている子はいなかったからサビーヌを私付きの侍女にする事を決め両親にも許可を取った。
サビーヌはステータスが上がるのが楽しくてこっそりとレベル上げしている内に物理的に強くなり過ぎたらしい。国一番最強と呼ばれる総帥に匹敵する程の力を手に入れてしまったらしく、達観していた。自分に匹敵するものは総帥一人だけだと思っていたらある日を境に私のステータスが爆上がりしていて驚いたとのこと。自分では確認出来ないから分からないけど、サビーヌ曰く八将神に匹敵する強さだとか。それから、弟子入りのような形でサビーヌは私の侍女となり陰に日向に私の警護も兼ね戦う侍女として働いてくれている。
「お嬢様、ゲンのコピーは完璧とはいえ、分かる人にはバレる可能性があります。くれぐれも時間は厳守でお願い致します」
私はライの力で体力を回復し、ライの他に二匹のピッピコを呼び出す。
ゲンとはドッペルゲンガーのように相手の姿をコピーする事が出来るピッピコだ。ゲンには私に変身して貰いお茶会に参加してもらう。ただ、戦闘力まではコピーが出来ない為エド嬢に再び模擬戦を挑まれたら終わりだがその辺はサビーヌがフォローしてくれるだろう。
そして、もう一匹はテンという名前で転移のストレンジを持つピッピコだ。
テンはグエン兄様のように何処にでも転移出来るわけではなく、一度行ったことがある所にしか転移する事が出来ない。
その為、テンにも着いてきて貰う為にも呼び出した。
「サビーヌ、ゲンのことお願いね。何かあればネンを通してテレパシーで連絡するわ。行ってくるわね」
「畏まりました。お気を付けて行ってらっしゃいませ、お嬢様」
サビーヌと私に変身したゲンに別れを告げてテンに命じて邸の外まで転移してもらう。
邸の外に出ると遠目に木々が見える。
あれが西の森だろう。私は人目につかないように屋根の上に飛び乗り西の森に向かって走る。途中から森までは広大な荒野に出る為そこからは全速力で駆けた。
「此処がマラルメ国との国境の森。西の森ね。サビーヌの言った通り複数の人の気配がするわ。……この中にあの方がいる事にかけるしかないわね」
西の森の入口。
昼間だというのに森の中は薄暗い。
私は森の奥へと足を進める。
人の気配がする方へと気配を消しながら森の中腹まで来た。
少し開けた場所が見えるもそこには誰もいない。だが、気配は確かにある。何処かに隠れているのかと思い、木に登って上から探そうとした瞬間、首に冷たい刃物が当てられる。
「ガキがこんな所で何してる」
自分の力を過信していた。
まさか背後を取られるとは思っておらず、首元に当てられる刃物に緊張でゴクリと喉が鳴る。
「ただ、散策していただけですわ」
「気配を消してか?それに、この森は立ち入り禁止となっているはずだが?」
後ろを振り返ることも出来ない。一歩でも動けば首が飛ぶだろう。
後ろから掛けられる声は何処までも淡白で地を這うような低さだ。眼球だけを動かすも男の影を捉える事が出来ない。
一か八か。私は声を上げた。
「トンちゃーーん。100キロでお願い!!」
すると、男の頭上でピッピコのゲートが開く。そこから重量操作が可能なピッピコが一匹飛び出して男の上に落ちた。
本当は誰かにピッピコの事を見られるわけにはいかないのだが、緊急事態だったから仕方ない。そう、仕方ないのだ……。後で、記憶操作で消しておこう。
「ぐっうぅ…」
男は潰れた声で地面に伏しており私は漸くその男を振り返った。




