6話 状況整理をしましょう・前編
「お父様の部屋で話した内容は覚えてる?」
いきなり切り込まれる問いに私は思わずビクリと肩が揺れる。
私に取っては一番重要なのがこの話だ。
だが、7年間生きてきたルイーズの心が大きく波打ち胸が締め付けられ身体が小刻みに震える。
「やっぱりこの話はまだ時間を置いてからした方が良さそうね。辛いこと思い出させてしまってごめんなさいね」
お母様は私の手に手を重ねて空いた手で頭を撫で宥める。
その言葉に慌てて首を振る。私は物語の先を知っているが知っているからこそ苦しい程に胸が締め付けられる。
「大丈夫ですわ、お母様。第一王子であらせられるスタニスラス殿下が重病を患い療養の為に宮殿を離れられるというお話でしょう?」
「ええ…」
お母様は歯切れ悪く頷く。
心配しているのはこの後に続く内容だろう。
「第一王子の療養に伴いわたくしが殿下の婚約者候補から外され第三王子の婚約者の座に着かないかという陛下からのお達しなのですよね」
その言葉にお母様は端麗な眉宇を微かに歪め私の心配をしてくれている事が分かる。何故こんなにもお母様が心配しているのかというのは私が第一王子に幼いながらも恋心を抱いていたのを知っているからだ。
第一王子には正式な婚約者はまだ居らず、婚約者候補が数名おり私もその中の一人であった。しかし、家柄が公爵位ということもありスタニスラス様と一番仲が良かったということもあって婚約者の座に一番近かったのも私だった。
私は家柄だけの力ではなくスタニスラス様の隣に立つに相応しい淑女となる為勉学やマナー、淑女の嗜み等必要なことはどんなに辛くても遊ぶのもそこそこに頑張って来た。
それもこれも将来スタニスラス様の隣に立つ為。
だが、ひと月程前第一王子のお母様であらせられる王妃様が流行り病に倒れられお亡くなりになられたという通達が出た。
その直後のにその息子である第一王子の重病。普通であれば王妃様と同じ流行り病を疑うだろう。
だが、私は本当の出来事を知っている。
「ルゥ、お母様は貴女の好きなようにすればいいと思っているわ。ルゥが決めた気持ちならばわたくしも力を貸すから言ってみなさい」
お母様は私の小さな手を優しく擦りながら落ち着いた声音で進言してくれる。
恐らく、私が第一王子の婚約者候補でいたいのならばお父様に進言して婚約者候補でいられるように手伝って下さるということだろう。
前世を思い出し精神年齢20以上の私は色々と達観してしまった部分もあるが、ルイーズとして生きてきた心が叫んでいる。第一王子の婚約者候補でいたいと。
ゲームでのルイーズは第三王子の婚約者でありながら、昔の想い人を忘れることが出来なかった。その相手が第一王子。
これが、ゲームの強制力なのか何なのか私には分からない。
だが、婚約者候補として第一王子と過ごして来た色鮮やかな毎日と徐々に育んだ恋心が心の底からスタニスラス様を求めている。
だから私は決めた。
ゲームの強制力だろうと何だろうとどうでもいい。幼い頃からスタニスラス様と共に育んだ愛とルイーズが抱いた淡い恋心を私が守ると。
この決定は辛く険しい茨の道となるだろうが私の前世から引き継いだゲーム知識をフル活用してでも幸せを掴んでみせる。
「お母様、一つ質問がございますの。スタニスラス様は何時王城を出立に?」
「内密の出立となる為大々的な見送りは無かったけど、2週間前には出立されていたと思うわ」
お母様の言葉にスタニスラス様を守るための道が一つ閉ざされた事に軽く絶望しながらも話を聞く。
この分かれ道はルイーズにとっては今後の人生を揺るがす程の最大の分かれ道でもあった。しかし、既に詰んでしまっているならば次の計画に移らなければならないだろう。
「お母様、わたくし決めましたわ。陛下とお父様のお申し出承ります。但し、一つだけ条件がありますの」
私は震える手を押さえ付けながら真っ直ぐにお母様を見つめ決意する。
今世の"最愛"私の愛しき人。
スタン様を守るために───────




