6 騎士様だった
翌日にはあの男の正体が判明した。
何故なら騎士団の制服を着た二人の男を連れて来たからだ。
男の名前はマティアス・プラナー。プラナーと言えば侯爵の家柄だ。ラーメンに金貨一枚出せるのも納得だ。
午前中は店を開けていないと断ったが、強引に入ってきた。
ポーション類には見向きもせず、『魔女のラーメン』を三袋取り900エールカウンターに置いて、湯を沸かしラーメンを作る。
「お湯を入れるだけで、この美味しさか。持ち歩きにも便利だし、いいんじゃないか」
スープまで飲み干した黒い髪の男が口元を拭きながら呟いた。それを聞いたもう一人のくすんだ金髪をした男も頷いて答えた。
「確かに簡単だな。これなら遠征に持っていく保存食になるな。干し肉や乾パンだけでは士気が下がる。ん? そのスープというのはなんだ?」
『魔女のラーメン』の隣に置いてある『魔女のスープ』が目に入ったようだ。
『魔女のスープ』とはいわゆる乾燥スープのこと。これも冒険者にボチボチと売れている品だ。この世界ではとうもろこしは家畜の餌って扱いだから材料は安く手に入る。
材料がとうもろこしだって言うと躊躇されるけど、聞かれなければ答える必要はない。美味しければいいのだ。
『魔女のスープ』は10袋で1銅貨。とってもお買い得。
「魔女マチルダ、これもお湯をかけるだけか?」
マティアス騎士がスープのお金を払いながら尋ねるので作り方を教える。
「はい。カップに粉を入れてお湯を入れてスプーンで混ぜるだけです」
神妙に応える。
騎士様にセルフサービスでいいのか悩んだけど今さらなのでお任せした。
「ほう、本当にスープだ。それも食べたことのない味だ」
ハッ! しまった。貴族様に家畜の餌であるとうもろこしを食べさせてしまった。食べる前に話しておけばよかった。
「確かに美味しいが、変わった味だな。ラーメンのスープは鳥の味がしたが、これはなんだ?」
答えられない。背中に汗が流れてるよ。
「き、企業秘密です」
苦し紛れにそれだけ呟く。
「まあ、そうだろうな」
黒髪の男はウンウンと頷いている。
ホッとした。どうやら納得してくれたみたい。
マティアスが私を見る目が気になるけど無視だ。無視。
「魔女マチルダ、この商品を騎士団で購入したい。とりあえず1000食分用意してくれ」
なんと1000食も購入してくれるみたい。
これでこの店も安泰だ。
「えっと、いつ頃納入したらいいのでしょうか?」
「なるべく早くだ。二週間後には遠征があるからな」
「わかりました。三日後には納入します。あっ、スープもですか?」
「もちろんだ。手軽に飲めるスープは有り難いからな」
ど、どうしよう。家畜の餌だって気づかれたら斬首?いや、そこまではしないよね。
でも、日本とは違うから、斬首かも?
男たちが去った後もしばらく動くことができなかった。