4 呪いのポーション
『魔女のラーメン』のおかげで店は賑わっている。単価が安いので売り上げはそれほどではないけど、店の中に人がいると入りやすいのか、以前みたいに一日中閑古鳥が鳴くことはなくなった。
昔の名残りで無駄に広い店舗もテーブルや椅子を置いたおかげでガランとした印象もなくなった。
食堂のように見えなくもないけど、そこは仕方ないと諦めている。
『魔女のラーメン』を買った客が、いつものようにテーブルに座ってラーメンを作るのを横目で見ながら、先ほどからポーションの前で悩んでいる客に声をかけるべきか悩む。
下手に声をかけると途端に帰ってしまう客もいるのでかけづらい。
それというのもこの客は身なりからして、貴族っぽい(金を持っていそう)。瞳の色はわからないけど、銀髪で大変美形な二十代後半の背の高い男。初めて見る客だ。できればお得意様になってほしいから、声をかけるべきか悩ましい。かといって声をかけずに逃げられたら残念すぎる。
「ポーションはここにあるだけかい?」
突然私の方へ向きを変えて、尋ねてきた。私が見ていることは視線で気づかれていたようだ。
蒼い、とても深い色合いをした瞳が私を射る。
「はい。エリクサー以外は置いてます」
エリクサーは死んでいない人以外はどんな怪我でも病気でも治すことができる万能薬として有名だけど、材料が手に入れにくいものばかり。材料を手に入れても魔力が大量に必要になるから作ることができる魔女も少ない。
「エリクサーだって? ははは、あれは伝説の薬だろう。そんなものを売っていたら詐欺罪で捕まってしまうさ」
へ? 扱いを慎重にしなければならないから、店に置いてないだけなんだけど。エリクサーって詐欺罪で捕まってしまうくらい有り得ないものなの? 私は祖母に育てられたし、日本の記憶があるせいかどうも常識が身に付いていない。
私はエリクサーについて聞こうと口を開いたが男の声によって遮られた。
「えっと、エリク…」
「そんな事より、呪いのポーションは売っていないのか?」
「呪いのポーション? そんなもの売ってる方が捕まってしまいますよ」
呪いのポーションは実在しているけど、店先で売るようなものではないはずだ。
人を呪うようなものを堂々と売って無事に過ごせるはずがない。
「そうだが、ここで買ったと聞いたんだ」
「ここでですか? なにかの間違いですよ」
うーん。私が知る限り祖母の時だって売っていなかった。
「人がいるから言えないのか?」
男は諦めが悪いのかそっと近づいてきて小声で聞いてくる。
確かに呪いのポーションとか男が言った途端に周囲の視線が集まった。ラーメンを食べながら聞き耳を立てている。
ここは変な噂になって『魔女のラーメン』の売り上げまでなくなったら困るのではっきり言った方がいいだろう。
「確かに魔女の店では呪いのポーションを扱っているところもあるようですが、うちでは扱ってないですよ。私は魔女ですけど呪いは専門外なんです」