3 『魔女のラーメン』
「ねえねえ、魔女さん。お湯かけただけで食べれる美味しいものが売ってるって聞いたんだけど、どこにあるの?」
冒険者らしい格好をした男が魔女のポーションには見向きせずに尋ねてくる。
いつものことなので案内する。売ってるものは少ないのに、繁盛していた昔の名残りで店舗の中は無駄に広い。
「これですよ。お湯をかけて3分待てば食べれます。一袋200エールだからお買い得ですよ」
『魔女のラーメン』は一袋200エールで売っている。日本のラーメンより割高だけど、ここでしか売っていないぶん高めに設定した。
「へ~。200エールってことは銅貨2枚か。値段も手頃だな。だが味が気になるな。一袋買うから、ここで食べれるか?」
これもいつものことだ。三つ並んだテーブル席に案内する。
「こちらへどうぞ。ここは初回は無料で使えます。2回目からは100エール貰います」
席の上にあるポットのスイッチを押す。10秒くらいで沸騰するので、その間に箸と蓋つき丼をそばにある棚から出して、丼の中に袋から出した即席ラーメンを取り出して入れる。
私が用意している間に、男は懐から二銅貨を取り出してテーブルの上に置いてから椅子に座る。
『プチッ』
スイッチが押し戻されたら沸騰された合図なので、おもむろにポットのお湯を丼の中のラーメンにかけて、蓋をする。
「3分たったら蓋をとってから食べてください。それとここまでサービスするのは初回だけで、次回からはセルフサービスになりますよ」
「セルフサービス?」
男は聞きなれない言葉に首を傾げる。
従業員は私一人なので、セルフサービスでお願いしている。
「自分でお湯を沸かして自分で作るって事ですよ」
「ああ、それでセルフサービスか。次があればそうしよう」
「お願いしますね」
この世界の食事文化は日本とほとんど変わらない。箸も使うし、丼も存在する。
もちろんお米だって味噌だって醤油だってある。ただインスタントものは存在していない。魔法があるからか、そういう部分が発展しなかったようだ。
この世界には冷蔵庫もない。保存箱っていう、箱の中に入れていれば時間が経過しない魔道具があるから冷蔵庫が発明されなかったんだと思う。
保存箱の方が保存という面では冷蔵庫より優っているけどエールが冷やせないのよね。氷を作る魔道具はあるから氷を入れて飲んでるけど、すぐ飲まないと味が薄くなるの。
え? アルコールを飲んでも大丈夫かって?
大丈夫。この世界は15歳になれば成人とみなすから、17歳の私は当然飲める。
ワインだってエールだって米酒だってある。ただ果実酒の種類が少ないことと酎ハイらしき飲み物がないのが残念かな。
目下の目標は自作の果実酒を作ることかな。