2 夢にまで見たアレ
祖母が亡くなって、収入が激減して、経費節減で一日一食で生活していたことがある。
お腹が減るからって、エネルギーを使わないように、店を開かない時は常に眠っているような生活を続けていた。
そんな時、夢を見た。
前世の夢だ。
一番見るのは食べ物の夢。
前世の私は食べることにそれほど関心がなかった。太ることを気にして、炭水化物を食べないなんてこともした。生きるために必要な分だけ食べれば良いなんて思ってたこともある。
それなのにこの世界で、夢に見るのは前世の食べ物の夢ばかり。
この世界の食べ物が、前世と比べて貧相なわけではない。前世と同じ食べ物はたくさんあるし、前世では食べられなかった魔物の肉だって食べられる。うん。魔物のお肉ってすごく美味しいんだよね。
でもね。でもね。
どんなに美味しいお肉だって、アレには敵わないって思う。
私にとってアレは美味しいとかそんなものではなく、必要不可欠なものだった。
夢から醒めた私は、何としても今世でもアレを食べたいと思った。昔の記憶を頼りに魔女としての能力も使って、一心不乱に研究した。時間だけはたくさんあったから。
だから私の魔女としての能力でアレを作り出すことに成功した時、初めて魔女になって良かったって思ったんだよね。
「すぐ美味しい、すごく美味しい~」
乾燥麺の上にお湯をゆっくりかけながら歌う。日本語ではないけど、曲だけは昔のまま。
はぁ、やっぱりこれよね。
「うん、美味しいわ」
誰の目も気にしないで、啜りながら食べるラーメンは最高だ。ゴクゴクとスープを最後まで飲み干す。
実のところこの即席ラーメンや乾燥スープのおかげで暮らしていけてるのよね。
この店の売り上げのほとんどはこれだもの。
曽祖母マチルダが見たら嘆くかもしれないけど、生活していくためには売れるものを売らない手はない。
この店舗を兼ねた家は曽祖母の時代に購入されたものだから家賃はいらない。けれどこの店は王都でも一等地にあるから商業ギルドに払う税金が高額すぎて、めったに売れない魔女のポーションだけではやっていけないの。
即席ラーメンを食べ終えたら、お昼の休憩は終わり。
稼がなくっちゃ。
冒険者の朝は早い。
だから店を開くのはお昼からで、朝は商品を作ることにしている。
お昼の休憩を終えた私は店を開く。
店の外に人が並んでいることもなく、ただただ時間が過ぎていく。
私は朝作った商品を棚に並べたり、掃除をしたりして過ごしている。
3時を過ぎた頃から、ぼちぼちと人が入ってくる。ほとんどがダンジョンから帰ってきた冒険者たちだ。