17 魔法の絨毯 4
「私がこの絨毯を動かす? いや、無理だ。この絨毯はあまりにも非常識すぎる。このようなものを動かすなど……」
マティアスがブツブツとこぼす声が聞こえてきたがスルーする。
目的の場所に到着しても、絨毯はフヨフヨと浮かんだまま。
曽祖母の机の上には埃がうっすらとたまっている。祖母が亡くなってからこの部屋に入った人がいないから掃除ができていない?
そうではない。これこそが罠なのだ。
まずはこの埃を魔女の魔法で除去しなければならない。
「プッチェン、ベッラ」
手をかざして呪文を唱える。机の上にあった埃はくるくるとまとまったかと思うと、青く光って消えた。
そして机の上には沢山の紙の束が現れた。
私は手を伸ばして紙の束の一部を取るとパラパラと何が書かれているのか確認していく。
「時間がありませんから、マティアス様も手伝ってください」
二人で机の上にある全ての資料を確認したが、めぼしいものはなかった。
罠まで仕掛けるほどのこともあって、なかなかに面白い研究資料だ。
もっと早くこの部屋に再来するべきだったと後悔させられるほどのものだったけど、魔女のポーションと呪いには全く関係がなかった。
あと三十分で制限時間の二時間になる。
「困りましたね。机の中も確かめましたが、書類のようなものはありません。本当に騎士団との契約書は存在するのでしょうか?」
私がお手上げですよと質問すると、マティアスは深刻な顔で話し出した。
「こちらにも存在していないのか。実は王城の執務室には建国以来の全ての契約書が保存されているので、調べてもらったのだがそちらにも存在していなかったそうだ。取り引きは何年も続いているのに、今まで誰もその事に気付かなかったのが不思議でならない」
「曽祖母がなにかしてたのでしょう。私も騎士団との契約を切られた時、全く気にしなかった。普通は突然契約を切られたら、一番に契約書を探して違約金が発生しないかを確認したはずなんですよ」
「すごい人ですね。あなたの曽祖母は」
曽祖母が凄い人だってことは昔から知っていた。でも今日あらためてとんでもない人だったのだと再認識させられた。本当に彼女は人間だったのだろうか。
「これはもう呪いについての本を読んで、解呪する方法を探すしかないですね。ただしそれだと結構時間がかかりますよ。私は呪いについては習ったことがありませんから」
「ひと月だ。魔女のポーションをなんらかの理由で使えないことにするが、ひと月が限界だ。それまでになんとかしてくれ」
マティアスの表情から、ひと月というのは非常に厳しいことがわかる。それでもひと月の猶予を作ってくれた。
私も誠意を見せなければ。
「わかりました。私にできる精一杯のことをすると約束します。……ところで、今納品しているポーションだけが呪われていることも考えられませんか?」




