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ドラゴニック・グランガルド  作者: こたろう
伝説の始まり
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PART4

 土中を自由自在に活動し、その岩盤をも打ち砕く力は並み居るものを破壊する。翼は無くとも、全身の筋肉を用いた驚異的な跳躍力で以て空に逃れる得物すら捕えてしまう。砂漠、そして沼地の支配者たる土竜”サンドドラゴン”を、よもや生半可な準備で打倒できる筈はない。


 ガンダーはかつて師であり父でもあった先代の守護者から聞かされた話を、己の得物である斧を振り回しながら思い返していた。彼が相対するサンドドラゴン、これを打破するための策がかつての教えの中に無かっただろうかとの考えで記憶を探っていたものの、それは返って裏目に出てしまった。ガンダーの師、父の教えはこうだ、”サンドドラゴンと出会ったならば逃げろ。逃げて大軍で迎え撃て”。どうということは無い、指折りの猛者であるガンダーと、彼を含めても十も居ない部隊では勝ち目はないということだ。


 そうだとしても、かと言って現状逃げることはまず出来なかった。何故ならばこのサンドドラゴンの真の狙いはガンダーではなく祭壇で眠っていたあの少年なのだから。縄張りどころか生息域すら離れてこの地に出現した個体が正常である筈はない、ガンダーはきっと少年を連れて逃げた所で執拗な追跡を行うであろうサンドドラゴンに背中から襲われるのが落ちだと分かっていた。故にこの場に踏み止まり戦うしかない。そうしてサンドドラゴンが隙を見せれば守護兵たちに命じて少年を連れて逃がし、ガンダー自らが壁となってサンドドラゴンを足止めする。少年を救う方法はもう、ガンダーにはこれくらいしか思いつかなかった。


 厄介な尾による攻撃は守護兵たちが総出で抑え込んでいることによって、ガンダーはサンドドラゴンとの真っ向勝負に集中できていた。岩盤を着き砕く為に先が丸く頑強になった角による一突きを間一髪避けたガンダーはお返しにその角に向けて斧を思い切り振り下ろした。しかし鋭い音が響き、ガンダーの手に痛みを伴う振動が伝わるとその時にはもう斧は弾かれて腕ごと彼の頭上まで跳ね上がっていた。そのままがら空きのガンダーの胴体に横に振ったサンドドラゴンの頭が叩き付けられ、質量差もあり彼は呆気なく吹き飛ばされて地面を転がる破目になる。


 かなりの衝撃ではあったがガンダーはその頑丈な体のお陰もあって気を失わずに済み、転がりながらもすぐに受け身を取り跳び起きて見せる。そして決して手放さなかった斧を片手に持ち替え、全速力でサンドドラゴンに向けて走り出した彼は守護兵の心配を他所にその勢いを利用した斧の一撃をサンドドラゴンの角に叩き付け、遂にへし折る事に成功する。その衝撃は角から骨格まで響き渡り、激痛にサンドドラゴンの体が無秩序にのた打ち回り始める。


「今だお前たち、彼を連れて走れ!」

「け、けどガンダー、お前は……?」


 ガンダーの号令に合わせて一斉に岩陰の少年の元へと駆け出した守護兵たちだったが、唯一若手の守護兵だけがガンダーを心配して立ち止まってしまう。彼は気付いていない、まだそこがサンドドラゴンの射程範囲の中であることを。咄嗟に助けに戻った守護兵の古参株が若手を引き摺り戻そうとするものの時既に遅く、振り回された尾がガンダーの妨害も虚しく二人を直撃し跳ね飛ばしてしまう。


 しかもガンダーがそちらに気を取られたことで生まれた隙に、サンドドラゴンはその大口を開けて彼に噛み付き持ち上げたのだ。半身を顎に挟まれたガンダーは辛うじて斧を引っ掛けることにより牙によって体に穴を空けられることも、寸断されることも無かったが、完全に身動きを封じられてしまった上に何時までも堪え切れないと分かり絶体絶命の危機に陥っていた。


 そんな彼を見て、助けない訳にはいかないと判断した守護兵たちは尾による一撃で悶絶する古参株の制止も聞かずにガンダーを咥えるサンドドラゴンへと突撃を始めてしまう。それを見たガンダーは最早打つ手なしかと諦めかけた、その時だった。


 まるで炎の柱が立ち昇ったかと錯覚するような真紅の光が迸り、その後赤は白く美しい輝きに変わりこの場を照らし出す。その光はやがて四方八方に無数の光線として広がり、その内の一筋がサンドドラゴンの片目を直撃し眩しさのあまり視界を一時的に失ったサンドドラゴンは混乱して暴れ、遂にはガンダーを開放してしまう。鎌首を擡げた状態から解放されたこともあって背中から強かに地面に打つ付けられたガンダーは肺から空気を吐き出してしまい咳き込みながらその場で悶える。そこに守護兵の一人が駆け込んできてガンダーを引き摺るようにして危険な位置取りから、サンドドラゴンから距離を取った所まで避難させることに成功。しかしそんな事よりもガンダーが気にすることは唯一つ、それは光の出所だった。そこは少年をサンドドラゴンから隠した岩陰からだったのだ。


 のた打ち回るサンドドラゴンを後目に、全員が光の根元を凝視した。光はやがて衝撃を伴って岩陰も、何ならば地面すらも抉り取りながら拡大を始める。その衝撃で若手と古参の守護兵が転がり出され、また他の守護兵によって救出された頃になって光の嵐はその勢いを収縮、無数の光の筋も一本、二本と減って行き、最後の一筋が名残惜し気に天に伸びた後消えると、大きな窪みの出来上がった地面に立っていたのは、白い鎧とも衣ともつかないものを身に纏い、右腕を丸々竜の鱗と甲殻で包んだあの少年だった。


 そして一瞬の静寂の中、漸く視界を取り戻し、お目当ての少年を視界に捉えたサンドドラゴンが咆哮するのと同時に件の少年は凄まじい速度で駆け出し、その手にした輝く剣を掲げ跳躍、落下の軌道中にサンドドラゴンを捉え、その勢いを伴い少年の体ごと振り下ろされた刃はサンドドラゴンの頑丈な角を断つだけでなくその鱗すら事も無げに切り裂いて見せる。


 切り裂かれた傷口から真っ赤な鮮血を吹き上げ悶え倒れ込んだサンドドラゴン傍らで少年は剣を振り付着した血を払う。そして呆然とその光景を眺めるガンダーたちの方を向いて彼はにこりと笑いかけたのだった。


 まるで夢のような光景に思えて、ガンダーは純白の剣士となった少年、凛音を見詰めていた。如何にも無害そうで、鍛えた痕跡すら祭壇本部で彼を調べた時には見られなかった。しかし現に凛音はガンダーや守護兵の目の前でサンドドラゴンを一太刀の内に倒してしまった。信じられる筈もない。”大軍で迎え撃て”、百戦錬磨として数多の獣や竜を打ち取ったガンダーの父親ですらそう言っていたような存在を打ち倒したのだ。


「――たった、一人で」


 しかし、ガンダーは気付く。凛音が彼らを向ているその背後で蠢くものに。

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