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一哉の過去にふれてます。
シ、シリアスがっ(;´Д`)
【シリアス警報発動中】
一哉とマティアはしばらくの間、たわいもない話をしていたが、区切りがついたとこで、一哉が立ち上がる。
「行くのか?」
「ああ、そろそろ行かないと心配されるから」
「そうか」
マティアが手を差し出し、当たり前のように一哉はその手をとり、マティアをそっと、立ち上がらせる。
マティアは微笑みながら一哉の手を優しく包み込んだ。
マティアの方が体温が低い。
それでも、なぜかつつまれた手が暖かいように感じた。
「余り無理をするでないぞ」
「ああ」
「辛いことがあったら、何時でも帰ってくるのだぞ」
「うん」
「辛いことがなくても帰ってくるのだぞ」
「わかってるよ」
心配そうに見つめてくるマティアをみていると、一哉はなぜか笑いが込み上げてきた。
「ははっ。マティア、なんだかお母さんみたいだね」
「おお、それは良いな」
お互いの顔を見て、笑いあう。
鍛冶屋にいる時とは違う暖かさがここにはあった。
「もう行かないと」
「ああ、気をつけてな」
「うん。わかったよ」
一哉は手を振りながら、森の外に向かって歩いていく。
その背を見ながら、マティアは近くにいる魔物の毛をそっと撫でていた。
「あやつは分かっていると思うか?」
話しかけられた魔物は何を言われているのか分からないと首をかしげる。
「ふふ。あやつ、心配されると言っておった」
マティアはもう姿は見えないが、一哉が向かっていった方を見る。
「心配してくれる者が、できたのだな」
嬉しそうに笑うマティアたが、その声は少しだけ寂しそうでもあった。
マティアの声に答えるように、魔物たちが吠える。
マティアはもうひと撫ですると、きびすを返し森の奥へと向かって足を進める。
気づけばそこには誰もおらず、ただ草木が風に揺れていた。
一哉は森の中を進んでいる間、昔のーー魔物達と暮らしていた頃を思い出していた。
一哉は幼い頃、魔物に拾われた。
古い樹木から生まれた魔物で、おっとりとした魔物であったことを覚えている。
その魔物は人間に襲われ、死んでしまったが、その後も一哉は魔物に育てられた。
大好きだった魔物が人間に襲われた。
これ以来、一哉は人間を恨むようになった。
魔物達は人間のように王をすえ、王を中心としたコミュニティをつくっている。
その忠誠心はとても高く、人間よりよっぽどしっかりとした国だと、子供ながらに思ったのだ。
色々なことを教えてもらった。
読み書きはもちろん、モンスターの倒しかたや薬草の見分け方など、生きる上で必要な様々なことを教えてもらった。
魔物とモンスターが全くの別物であることを知ったのも、その頃だった。
教えてくれたのは、魔物の王にあたる人だった。
大きな体の大きな膝の上に乗って、優しい重厚な声で語ってくれた話は、決して忘れることはない。
一哉にとって魔物達と過ごした日々は、暖かくて、優しい思い出である。
訳あって一緒に暮らすことはできなくなってしまったが、帰る場所には変わりはない。
森の奥にある大きな城。
人間が見つけることができないその場所が、一哉にとって帰る場所なのである。