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「魔物が出たぞー!!!!!」
突然聞こえた叫び声に、三人のなかに緊張がはしる。
声のしたほうを見ると、森の奥から数人の男達がこちらに向かって走ってきていた。
誰もが顔に恐怖を浮かべ、なりふり構わず逃げていく。
三人に目もくれず、我先にと逃げていく様子から、現れた魔物がどれだけ狂暴であるのかがうかがえる。
秋も雪も警戒を強め、森の奥を見据えていた。
「おい。何があった」
一哉は自分の横を通りすぎようとした男の腕を無理やりつかんで、問いかける。
男は目に見えて焦っていた。
苛立ちと焦り、そして恐怖が入り交じった目で、一哉を睨む。
「は、はなせよっ!」
「お前が答えたら離してやる」
一哉の鋭い目に耐えられなかったのだろう。
男はしぶしぶ話始めた。
「ま、魔物が出たんだっ。6体も!」
「形は」
「い、犬のような形だっ!あ、あと女が!お、女が一人いたっ!」
「.....場所は」
「こ、ここからしばらく行った先のっ、17サークルだっ!も、もういいだろ!!」
「ああ、行け」
解放された男は、転がるようにして森の出口へと向かっていく。
一哉は男に目もくれず、森の奥をじっと見つめていた。
いつもの一哉の様子とは違い、どこか静かで、回りを拒絶しているかのような一哉に、秋も雪も話しかけられずにいた。
「秋、雪。荷物を持って、森から出ろ。アルさん達に今聞いたことを伝えておいてくれ」
後ろを振り向き、秋と雪に指示を出す。
そこにはいつもの一哉がいた。
「.....あんたはどうするのよ」
「魔物を確認してくる。あの情報だけじゃ、不十分だ」
苦笑いしながら告げてくる一哉に、秋は呆れてため息が出た。
魔物を見つけた者はその場で退治するか、逃げる場合は出来る限りの情報を得たうえで逃げることが求められている。
それは、討伐部隊の規模を決めるために必要であったりなど、被害を最小限に抑えるためである。
別に一哉が態々調べにいく必要はないのだ。
ここで逃げても誰も文句は言わないだろう。
.....ネチネチ言う小物は出るかもしれないが。
それでも自らすすんで行こうとするのが、一哉らしいというか、なんというか.....
雪は雪で、仕方ないな、だって一哉だもん、みたいな顔をしている。
「はぁ.....。わかった、無理しないでよ」
「気を、つけて」
そう言って、二人は足早に去っていく。
二人の気配が完全に消えたのを確認して、一哉は駆け出した。
足に魔力を貯めて、脚力を上げる。
足音を立てないように気をつけながら、高速で進んでいく。
目指すは17サークル。
先ほどまでいた9サークルから近いとも遠いとも言えない距離だ。
森は「サークル」という言葉で階層を分けている。
森の中心から円が広がるように、森の特徴が変化するため、このように呼ばれるようになった。
森のどこから入ろうとも、そこからで中心に向かって、1サークル、2サークルと続いていく。
現在確認されているのは、82サークルまで。
その先にも森は広がっている。
しばらくすると、目の前に大きな獣の姿が確認された。
今居るのは16サークル。
魔物は余り動いていなかったようだ。
魔物に覚られないように、距離を取り、近くにある木の影に素早く隠れる。
息を潜め、そっと木から顔をだし、魔物を確認する。
「うわぁ.....」
そこには犬が6匹いた。
ただし、その体は岩よりも大きく、額には黒々とした鋭い角が生えていた。
人目でわかるほど、牙も爪も鋭く、人間なんて簡単に串刺しできそうだ。
そして、最も大きな魔物に一人の女性がまたがっていた。
放漫な胸を黒いドレスで隠し、艶やかな長い黒髪は風もないのに揺れていて、神秘的であった。
その目には白目がなく、肌は死人のように真っ白だった。
「っ!」
犬の形をした魔物はなにかを探しているのか、鼻をひくつかせ周囲を見渡している。
一匹の魔物と目があった。