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次の日
一哉は秋と雪を連れて森に来ていた。
もちろん朝一番にアルに送り出され、もとい追い出されたのである。
この国ーヴィクベンシスは回りを海に囲まれた島国である。
国の上側には広大な森があり、その面積は国土の半分近くを占めている。
森は魔力で覆われ、中心に行くほどその濃度は濃くなっていく。
そのためか、森で取れるものには少なからず魔力が宿り、それをもとに、この国は大きな発展を遂げたと言われている。
また、森にはモンスターや魔物が出現し、それらを倒す専門職も出てくるようになった。
「あー。帰りたい」
一哉は背を丸めて、だらだらと歩く。
その姿からは、全くもって覇気が感じられない。
一哉の呟きが聞こえたのだろう。
前を歩いていた秋と雪が、ムッとした顔で振り返った。
「くだくだ言ってないで、探しなさいよ」
「一哉、うるさい」
「ひどいや、二人とも」
泣き真似をしてみるが、冷めた目で見られるだけだった。
アルに出された課題が難しい訳ではない。
量が多いだけなのだか、その量が3人でギリギリ持ち帰れる量であるところに、アルの腹の黒さがうかがえる。
まあ、新人の頃だったら本気で泣いていたかもしれないが。
ただ、とてつもない時間がかかるのだ。
加えて、戦うわけでもなく、ただただ探すだけなのである。
はっきり言って、暇だ。
そろそろ手応えのあるモンスターとか出て来てくれないかな。なんて思いながら辺りを散策する。
「あ、発見」
草むらの影に潜んでいたモンスターを見つけ、こちらの存在が気取られる前に魔法を放つ。
この程度のモンスターなら、ただ魔力を銃弾のように放つだけで消滅してしまう。
一哉の魔力にあたったモンスターは黒い塵となって消え、その場には緑色に光る石が落ちていた。
手に入れたそれを持ってきた袋に入れる。
「一哉、木の魔石、ばかり、見つける」
「そんな目で見ないでくれ」
呆れたように見つめてくる雪の視線に耐えられず、一哉はそっと目をそらす。
「仕方ないだろう。ボクが決められるものじゃないんだ」
モンスターから取れる魔石の種類はランダムである。
「まあ、土と風が取りにくいのは今に始まったことじゃないしね」
先頭を行く秋が目の前に出てきたモンスターを剣を一振りさせるだけで倒す。
そこから出たのも、木の魔石だった。
「...魔物でも出てきてくれたら、手っ取り早いんだけどな」
ふてくされた顔で魔石を拾った秋は、それを一哉に投げつける。
「っと」
一哉は難なく受けとると、持っていた袋に入れた。
「危ないだろ。いきなり投げるなよ」
「そういえばさ」
「無視か」
「あんた今回も魔法だけなの?」
「ああ、問題あるか?」
「特には」
そう言って秋はまた歩き始める。
今回、森にはいるにあたって、秋と雪はそれぞれ腰に剣を下げている。
対して一哉は、なにも持ってきておらず、唯一手に持っているものは、集めた素材を入れた袋である。
一哉が険を使えない訳ではない。
秋は近距離、雪は近・中距離が得意であるため、今回は魔法による後方支援をすることで、バランスを取るためだ。
目の前を行く雪に目を向けると、何か考えこんでいた。
「どうした雪、変な顔をして。腹でも壊したか?」
「...一哉、さいてー」
「無いわー」
「何なんだよ!」
女子二人から軽蔑の眼差しを向けられる。
地味に痛いものがあった。
「魔物、と、モンスター、の、違いに、ついて、考えて、た」
雪はなんてことないことだと前置きして、先ほどまで考えていたことを話す。
「強さの違いでしょ?」
「それ、だけ?」
「他に思い当たらないもの」
本当になんてことないことだったのだろう。
秋の言葉以降、二人は興味を失ったように、その話題に触れることはなかった。
その後も、適度にモンスターを倒し、素材集めは順調に進んでいく。
三人とも怪我をすることなく、お昼が少し過ぎた辺りで、アルから課された量の素材が集まった。
後は帰って、アルに報告するだけである。
...はずだった。
「魔物が出たぞー!!!!!」