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ま、間に合った。。。?
東雲の執務室では重たい沈黙が漂っていた。
目の前には、般若のような顔をした東雲が椅子にふんぞり返ってこちらを睨んでいる。
この店に来て数えきれないほど、この顔を見てきたが慣れることはないし、これからも慣れることはないのだろうな、と一哉はどこか他人事のように思った。
正直言って、やり過ぎてしまったという自覚はある。
秋とは気が合わないわけでも、ましてや嫌いなわけでもない。
ただお互いに相手に対して遠慮をしないのだ。
気心が知れているともいえる...かもしれない。
一哉と秋はこの店に比較的長くいるためか、二人の喧嘩は頻繁におこり、名物のようになっている。
見ればいいことがある、なんて変な噂は、いまだにいろんな人から、からかわれる。
でも、止められないのだ。だって人間だもの。
「で、何か言うことは?」
とてつもない威圧感である。
「ございません」
「申し訳ございません」
二人揃って頭を下げる。
正座をしているため、土下座である。
ここで何か反論しようものなら、この場はすぐさま地獄に変わるだろう。
今、二人の心は一つであった。
「ほう、反省はしているようだ…」
東雲からはなたれる威圧感が少し弱まったように感じた。
今回の説教は早く終わるかもしれない。
今回は足がしびれる前に解放されるかもしれない。
そんな希望か二人の心にともり始める。
「...で?どちらが先にしかけた」
「「こいつです」」
今、二人の心はバラバラになった。
「ほう...」
氷河期が訪れたかと思われるような冷たい眼差しに、悪寒が走る。
東雲と目が合わないように、ゆっくりと目をそらす。
本能が逃げろと告げている。
「...一哉が余計なことしなきゃ、私だってあんなに騒いだりしなかったのに」
沈黙を破ったのは秋だった。
一哉は驚きを隠すことなく、勢いよく隣に座る秋を見る。
「は?!おまっ!なに言ってっ...!」
「だってそうじゃん!別に私が頼んだわけじゃないし、あんたが勝手にやったことでしょ!」
「なっ!お前だけで解決しようとしたら大惨事になるだろうが!この前のこと忘れてたのかよ!」
「わーすーれーてーまーせーんー!!」
ギャイギャイと騒ぐ二人を見つめる静かな目が1つ。
「お前達は全くもって反省していないようだな」
「「はっ!!」」
目の前に魔王様がご光臨された。されてしまった。
いや、東雲は一応女性だから、女王様かもしれない。
「よっぽど私に怒られたいらしい」
「いやっ、あの...」
「お、落ち着きましょう?」
東雲が微笑みながら二人に近づいていく。
手をボキボキ鳴らしながら近づいて来るのは止めていただきたい。
怖さ二割ましである。
「欲しいだけくれてやろう」
二人の悲鳴が店中に響き渡った。