異世界1
一人の女性が立っていた。
全身をコートに包み、フードを被っているから顔は見えない。
「異世界、ジュエルへようこそ、ゲンシ様」
「私は何者でもありません。・・・あえて説明するのであれば、あなたが今、潜在的に心に見たいと思い描いてるイメージビジョンです」
話かける間もなく、にこやかに微笑みながら、女性は語りかけてきた。
「ゲンシさん・・・。あなたは、あなたの世界でいう宝石を発掘していましたね?」
ゲンシは考えた。間を取らせて貰いつつ、声に出してみた。
「・・・あまり荒げた発言はしたくないが、あなたの質問にどう答えたらよいか、正直混乱してるんだけど・・・」
「質問していいかい?」
「はい、私はあなたのイメージビジョンです。あなたの思い描いたイメージに沿ってお答えいたしましょう!」
「ありがとう?になるのか分からないが、とりあえずココは現実世界かい?」
ゲンシは考えた。頬をつねても痛いことから、現実なのは分かっているのだが、自分以外の存在に言って貰いたかったのである。
「現実です。が、ゲンシ様の潜在的に想っているイメージに沿って今この世界は成り立っています」
その瞬間であった。
それまで空白であった世界の背景が、ゲンシの好きな宝石だらけの世界になったのである。赤、青、緑、白、紫といったカラフルな背景に染まり、ゲンシは目を閉じた。頭の深いなかで至急、落ち着ける場所、緑の多い草原を思い浮かべて、再度恐る恐る目を開けてみると、そこには広い大草原の中であった。
「ははは・・・なるほどね・・・」
再び目を閉じたまま、ゲンシは女性に問いかけた。
「俺のイメージである君の言うとおり、この世界では俺の頭の深いところにあるイメージに沿って再現されているようだが、思い浮かべる瞬間のイメージに沿って見ている景色が変わるっていうのも忙しすぎるシステムなんだが、紙に書いた文章イメージに沿って再現とか、システムの再構築はできないの?あと、君のことは、なんと呼べば良い?」
ゲンシは馬鹿になってみた。
「ゲンシ様が望むのであれば可能です。そうしますか?あと、私のことはイルルハとお呼び下さい。」
(できるのかよ!!!)
心のどよめきがあったものの、目は開けなかった。
・・・というより恐すぎて開けれなかった。
「イルルハさん。紙とかは今無いんだが、一定量、繰り返し書き直したり、書いたりする事が可能で、書いた内容が書いている時間中は効果発動し続けるみたいな感じが使いやすいかな」
もはや、なんでもありである。
「ゲンシ様、一定量とは、どのぐらいでしょうか?」
「ん〜〜。俺らの世界でいう、国語辞典の一番ページ数の多いやつくらいあればいいかな〜〜」
「かしこまりました・・・。・・・ゲンシ様のイメージに近い物をご用意致しました。ゲンシ様の深層思想のイメージでは、現世界の構成等反映はされなくなりました。目を開けてご確認下さい。」
ゲンシの発言した内容を確認すること30秒の間に女性は動いたらしい。
ゲンシは恐る恐る目を開けた。
「・・・まじか」
宇宙。ゲンシが目を開けるとそこに広がる星々。
「息が?!・・・はできるみたいだな。」
「はい。ゲンシ様の望む生命維持に必要なものは世界構成の基本の中に組み込まれておりますので、呼吸出来なくなることはありません。」
「ははは。そうですか」
乾いた笑いがゲンシの声に含まれ、これからどうするか、という心境であった。
「改めて異世界へようこそゲンシ様」