007話 昔話
※注意※
本編「恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~」
<077話 真実>まで読んでいない方はネタバレが含まれます。
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セイン王子は当たり前のようにアランの隣に座った。
「あ、マーサさんが持ってきてくれたんだ。俺たちもアル先輩から聞いて、ギルに治してもらおうかなと思って来たんだけど、必要なかったね。あ、食べて」
食べかけのお粥を見て、セイン王子はにこにこと笑っている。良く分からないが、なんとなく見透かされているような気がしてアランは居心地が悪かった。まさか昨夜、マーサさんの声が聞こえていた? いや、いくら隣の部屋だとはいえ、防音はしっかりしているため聞こえないはず。アランは一人でドキドキとしていた。
「ああ、わざわざ悪いな。もう大丈夫だ」
顔には出さずにそう言い、残りのご飯を食べ始める。
「アランが飲み過ぎるなんて初めてじゃない? でも、あんなことがあった後だし、嬉しくて飲んじゃう気持ちは分かるけどね。あ、マーサさん。エリーから聞いたんだけど、俺がレイだってこと、もう知ってるんだよね? その節は色々とご迷惑をお掛けしました」
セイン王子は座ったままマーサに向かって頭を下げる。
「セイン様! そんな私のような者に頭を下げてはいけません!」
マーサは慌ててセイン王子よりも低い体勢になるため膝をつき、顔を上げるように促した。
「やだなー、マーサさん。俺たちそんな仲じゃないでしょ? 一応付き合っていたわけだし」
「え!? そうなんですか?」
斜め向かいに立つギルが驚きの声を上げる。アランもまたぴくりと小さく反応するが、それには誰も気がつかなかった。
「あはは、うん、エリーとの付き合いがバレないように付き合っているフリをしていただけだけどね」
「ああ、そういうことですか。でも、他の皆さんが信用するようにしていたんですよね? エリー様、大丈夫でした?」
ギルはエリー王女の気持ちを想像したらしく、とても苦しそうな表情になる。
「んー、どうだろう? 口では気にしていないって言っていたけど……。ああ、ごめん。二人とも座って?」
セイン王子は遠慮するギルとマーサを向かい側のソファーに無理やり座らせた。
「でも、大したことしてないよ? なるべく一緒にいただけで。あー、キスはしたな。あはは」
それを聞いたアランは思わず噎せる。セイン王子は大丈夫? と言いながら背中を擦り、飲み物を手渡す。
「お前……エリー様がいながら……マーサさんに……」
アランはエリー王女を想ってのような口ぶりだったが、心の中では何かもやもやとした気持ちが渦巻いた。当初は二人が何をしていようがどうでも良かったのに……。
「セイン様。恐れながら申し上げますが、そのような誤解を招くような言動は慎んで頂けるとありがたいのですが。エリー様に勘違いされては困りますので」
マーサは困ったように微笑んではいるものの、心中穏やかではない。
エリー王女に勘違いされても困るが、アランに勘違いされても困る。マーサはなんとなくだが、アランがそのことについて気にしてくれているような気がした。
「あはは、そうだね、俺も困るや。頬に軽くしただけだよ。エリーを裏切るようなことするわけないでしょ」
心配しすぎだな~と笑っているセイン王子をアランは睨みつつも、その事実にほっとしていた。なんだか朝から気持ちが不安定だ。
「あー、そうそう。さっき親父さんのところにも行ってきたんだけど、アランさ、お見合い断ってるんだって? 説得してくれって言われちゃった」
そんなアランの気持ちも知らずにセイン王子は新たな話題を出してくる。