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051話 大人の判断

「俺と結婚しましょう」


 つい出た言葉だったが、誤魔化していた自分の気持ちがすっと晴れたような気がした。そんなフィニアスとは対照的に、マーサは顔を覆ったまま動かない。恐らく驚き戸惑っているのだろう。


 フィニアスは困らせるつもりはなかったが、このタイミングでは混乱に混乱を重ねてしまっているだけだった。しかし自分の未熟さを嘆いている場合ではない。一先ず自分の気持ちは置いておき、マーサにとって何が一番良いのか考えなければならないと天井を見上げ、瞳を閉じる。


 そうは思っても、先程の言葉を打ち消すようなことはしたくはなかった。あれは真っ直ぐな自分の気持ち。それはもう否定はしない。


 フィニアスは深呼吸をしてからもう一度マーサを見つめた。


「……マーサさん、もし一人で育てるつもりなら俺との結婚も視野に入れて考えてください。しかし、まずは逃げずにアランくんと話し合うこと」


 そう、これが正しい順序である。フィニアスは自分に納得させるようにマーサに伝えた。それでも、床がきしむように胸の奥に痛みが伴う。


「たとえアランくんの優しさで結婚することになったとして、何がいけないんですか? 彼には大きな責任があるのですから、マーサさんは堂々と伝えればいいんですよ」


 痛みに耐え、優しく諭す。マーサが言うように、アランの性格ならばきちんと責任を取るだろう。それにアランが相手であれば何も不足はなく、反対する理由は何もない。勝ち目など端からないことは良く分かっていた。だからフィニアスは本心とは別のところでマーサの背中を押す。


「ただ、すぐに伝えられないのがちょっと難ですね……。なるべく早く戻れるように俺も協力しますよ」

「……フィニアス様……どうしてそこまで……」


 顔を覆っていた手が口元に移動し、マーサの潤んだ目がフィニアスを捉えていた。どんな時でも気丈に振る舞っていたマーサがこんなにも気持ちを(あらわ)にしている。その表情にフィニアスの心は揺さぶられた。彼女を支えるのは自分でありたいと……。


 僅かに視線が揺れ、握りしめた拳に力が入る。


「……そうですね。好きな人には幸せになってもらいたいからです。って、格好つけすぎか」


 しかし、フィニアスは自分の気持ちをごまかすように朗らかに笑う。これが今伝えられる精一杯の言葉だった。


 マーサは何と応えていいかわからなかった。"結婚してほしい"と言ってきた相手がアランとの仲を応援しているように聞こえる。よくよく考えてみれば、フィニアスのような身分も器量も高い人が自分なんかを本気で好きになるはずはない。後ろ向きである自分に前を向かせようとそんな風に言ってくれたのだろう。そう考えるとすとんと言葉が入ってきた。


「……ありがとうございます。もう少し考えてみます」

「はい、そうしてください」


 窓の外はどんよりと曇ってはいたが、フィニアスの笑顔は明るくマーサの気持ちを少し楽にしてくれた。


「マーサ!」


 突然シャッと勢いよくカーテンが開かれ、顔を真っ青にしたエリー王女が入ってくる。


「安静にする必要があると報告を受けました! マーサ、そんなに重い病気に!?」

「エリー様……。申し訳ございません、暫くお休みを取らなくてはいけなくなりました」

「そんなことは良いのです。ああ、マーサ……」


 マーサに寄り添うエリー王女を見て、フィニアスは幸せな気持ちになった。エリー王女がいればマーサの気持ちも癒され、落ち着くに違いない。今度こそ自分の居場所はないのだと顔を上げると、アルバートと目が合った。開け放たれたカーテンに吸い寄せられるように、フィニアスはアルバートと共に仕切りの外へと出る。


 相変わらず何かを探るようなアルバートの視線にフィニアスは困ったように笑みを溢す。


「たまたまマーサさんが倒れた時、近くを通りかかってね。エリー様もいらっしゃったことだし俺は任務に戻るよ」


 アルバートであればアランとマーサの関係は知っているだろうと思ったが、そこまで口を出すつもりはなかった。この件についてはマーサがどうするかに委ねたい。自分は早く任務を終わらせ、アランをここに戻すだけでいいのだ。


 フィニアスは目的の薬をいくつかもらい、医務室を後にした。







挿絵(By みてみん)


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