005話 上の空
アランが自分の部屋に戻ると、丁度お風呂から出たところだったらしく、風呂場の方から髪を濡らしたアルバートがチラッと顔を覗かせた。
「んはよー。アランが朝までとは珍しいな。昨夜は楽しんだかー?」
そう言いながらアランからの返事を待たずして、直ぐに顔を引っ込めた。そのためアルバートは、アランが顔を赤くしたのを見ることはなかった。
楽しい……確かに楽しかった。アランは昨夜のマーサを思い出していた。あの熱い視線が忘れられない。しかし、慌てて頭を振る。マーサが忘れてほしいのであれば忘れた方が良いのだとアランは自分に言い聞かせた。
なんだか頭がすっきりせず、ぼうっと先程着たばかりの服を脱いでいると、下着姿のアルバートが出てくる。
「アランも入るっしょ? うわっ、酒臭いな……。今日は午後にはジェルミア様も到着するらしいから、アランはそれまでゆっくり休んどけ。どうせエリー様はセイン様と城内で過ごされるはずだし」
アルバートの声かけにも反応を示さず、そのまま静かに風呂場に行くアラン。
「おい、大丈夫か~?」
そんなアランの後ろ姿をアルバートは心配そうに見送った。
アランには寝ているようにと言いつけ、アルバートはエリー王女の部屋へ向かった。その途中でマーサが自分の部屋から出てくるのを見つけた。
「おはよーございます。ぬあ、その瓶! 超レア物じゃないっすかー。マーサさんもお酒好きなんすか?」
アルバートは睨みを利かせて(素の表情)でマーサの側まで来た。マーサは顔には出さなかったがかなり動揺していた。この気まずい感じはなんだろうか。それでもアランに迷惑がかからないように咄嗟に考えを巡らす。
お酒はビルボートから貰ったと聞いていた。下手に嘘をついてもいずれ分かってしまうだろう。
「おはようございます、アルバート様。こちらは昨夜、アラン様にお会いしまして、残りものを頂きました。その時アラン様は大分酔われていたようでしたが、大丈夫でしたか?」
嘘はついていない。いつものように笑みを浮かべるマーサに、アルバートは何も疑問を感じなかった。
「あ~、二日酔いっぽいっすね~。珍しく朝まで飲んでいたみたいだし。結構体調悪そうだったけど、ま、午後まで寝てれば治るっしょ。あ、そうだ。マーサさん。お酒好きなら今度さ、侍女の女の子たちと騎士のやつらとで一緒に飲まないっすか?」
アランの体調が悪いと聞いてマーサは心配になった。そちらに気を取られてしまったため、後半の話は聞いておらず、アルバートには生返事を返す。
「おお、珍しい! あいつら喜ぶっすよ。んじゃ、日時と場所はこっちで決めとくんで、決まったらまた知らせますね~!」
アルバートは嬉しそうに手を振り、そのままエリー王女の部屋へと消えていった。マーサはその場で考える。午後から大切な会議が行われ、今回はエリー様も参加されると聞いていた。ということはアランも参加するだろうと……。
マーサはその場から足早に何処かへ立ち去って行った。