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045話 失恋

 深夜に城内を動き回っているのは、ティス王太后も同じ。セイン王子は鋭い視線でティス王太后との距離を目測する。追尾できる距離になるとセイン王子は振り返り、アリスに視線を送った。その視線を汲み取ったのか、アリスは頷きティス王太后と同じ方向へと一人突き進んで行った。

 その背中をギルは心配そうに見つめる。


「アリスなら大丈夫。俺たちもまずはアランを追いかけよう」

「……はい」






 アランはフィナをエーデル王女の部屋へと送り届けた。腕の痛みは引いてはいたものの、念のため部屋に不審人物がいないか確認をする。ただならぬ様子に、フィナは自分の体を抱き締め、じっとアランの様子を見つめた。


「ここは大丈夫なようです。夜は特に危険ですので部屋からはでない方が良いでしょう」


 一通り確認が終わったアランは、フィナの前まで来てから伝える。


「……はい。えっと……先ほどは何かあったのですか?」

「いえ。少し嫌な気配を感じましたので……。でも、もう大丈夫です。では、私はこれで……」


 もしかして、逃げるための演技だったのでは? そう思ったフィナは、ここで逃げられないようにアランの腕を掴んだ。まだ何も進展していない。


「あ、アラン様……。先ほどのお話ですが……私は本気です……どうか……」


 アランが振り向けば、直ぐ側で俯くフィナの姿が映った。その姿にマーサが重なる。マーサから部屋に引き入れられ、同じように腕を掴まれた。あの時のアランは、触れるほどの距離に動揺し、心臓がおかしいくらい鳴り響いていた。しかし今は何も感じない。決して女性に迫られたからあんなに動揺したわけじゃないことがこれでよく分かった。こんな状況に関わらず、アランはそんな分析をしていた。


 あの時の不安そうに揺れるマーサの瞳。恥じらう表情。あの日のことが鮮明に思い出され、今すぐにでも会って抱きしめたいと思った。


 ああ、そうか。

 こういうことが人を好きになるということか……。


 この胸の苦しさによって、アランはまた一つ、恋がどういうものなのかを理解した。


「……フィナ様。私には心に思う人がいます。ですので、フィナ様の結婚についてはまだ(・・)どうするか決められません」


 衝撃的な事実に、フィナはかなり動揺をした。まるで谷底に背中から勢いよく突き落とされたように、どすんとした衝撃と共にぐらりと視界が歪む。


 確かに好きな人がいてもおかしくない……。それだけじゃない。これほど素敵な人であれば恋人だっていてもおかしくないのだ。アランの腕を掴む手が震える。


「フィナ様……」


 アランの台詞が頭の中でぐるぐると回る。その中で一つの違和感を見つけた。


「……ま、まだ決められないということは、少しは私にもチャンスが残っている……ということでしょうか?」


 長い下まつ毛の上に涙を溜めて、フィナはアランに訴えかける。潤んだ瞳に見つめられ、アランは罪悪感を感じた。確かに結婚についてはまだ検討中ではあったが、期待をさせておくには酷である。


「……期待はしないでください。それに私と夫婦になったとしても、寂しい思いをさせてしまうのは確実です。私が優しいと仰いましたが、女性に優しくするのは仕事でしかありません。フィナ様が見ているのは本当の私ではありません」


 アランはフィナを真っ直ぐに見つめ、否定の言葉を口にする。まだ(・・)と言った割には、もう心は決まっているようにフィナは感じた。自分を否定はするが悩んではいる。その理由は簡単だ。


「……い……いえ、チャンスがある。そう思うことに致します。アラン様は私ではなくバッファ家との婚姻に悩んでいらっしゃるのですよね? ならば、アラン様が私との婚姻にもう一歩前に進めるよう、私は努力を致します。たとえ好きな方がいらっしゃっても、私たちは家の都合で結婚相手を選ぶことなど良くある話ですから……」


 今まであれほどおどおどしていたフィナが、視線を反らさずに自分の意思をはっきりと伝えてきた。それだけ想いが強く、必死なのかもしれない。


「フィナ様……」

「こんな風に好きになったのはアラン様が初めてなのです……。私は……私の直感を信じます」


 潤んだ目をしたフィナは上目遣いでアランを見つめた。これにはアランもたじろぎ、言葉を失う。フィナは畳み掛けるように、アランの胸にすっと頬を寄せた。


「私は諦めたくない……です」


 アランの胸の中にいるフィナは、体が震えていた。いや、泣いている。何を言ったところで、気休めにもならない。慰める言葉など見つけられるわけもなく、アランはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。






挿絵(By みてみん)




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