033話 手助け
エリー王女が昼食を取った後、フィニアスはエリー王女を部屋まで送り届け、アルバートと交代した。
「お疲れ~。あ? なんか浮かねー顔だな~。体調わりーのか?」
アルバートは二人きりになると、いつものようにフランクに接し、心配してきた。エリー王女はソファーに座ったまま何かを考えている様子で、難しい顔をしている。
エリー王女は朝からずっとマーサのことを考えていた。どうしたらマーサの力になれるのか。そのためにも、マーサの相手を知りたいという気持ちがとても大きかった。もしかしたら……。そんな思いでアルバートを見上げた。
「……あの。アルバートはマーサが誰を好きなのか知っているのでは?」
「いや、知らねーよ? なんで?」
「そうですか……。いえ、アルバートならきっと色々な所から情報を得ているのではないかと思ったのです……」
少し突き放すようなアルバートの言葉に、エリー王女は肩を落として足元に視線を移した。
「エリーちゃんは知ってどうすんの?」
「それは勿論上手く行くように協力したいのです! ねぇ、アルバート。内密に調べたらやはりダメかしら?」
バッと顔を上げ、良いと言ってほしいと言わんばかりにエリー王女はアルバートに訴えかけた。しかしアルバートの表情は変わらない。
「マーサさんが教えたくないなら、調べねー方がいい。気持ちはわかっけどよ。今は遠くから見守ろうや、な?」
「……そうですよね……分かりました」
アルバートから頭をポンポンと優しく撫でられ、エリー王女はそう小さく応えた。そうは応えたものの、やはり何も出来ないのかと思うとため息が出てしまう。
落ち込んだ様子のエリー王女を見つめ、アルバートもまた小さく息を吐く。マーサに対するエリー王女の気持ちを汲み取ってあげたかったが、アルバートはそれに応えてあげることは出来ない。何故なら相手はアランである。二人はエリー王女にとって身近な存在のため、上手くいかなかった場合、とてもぎくしゃくしてしまうだろう。それに、今はこれ以上やることもない。後はアランが戻って来てからどうするかだけなのだから。
「エリーちゃんはさ、マーサさんが元気になるように笑っているだけでいいんだよ。そうだ、今度一緒にでかけようぜ。そしたらマーサさんの気も紛れるっしょ?」
エリー王女も急に時間が出来たことによって、考えることがそちらに向いてしまっている。であれば、そっちも何とかしないといけないと思ったアルバートはそう提案した。
「え? マーサとですか? それは素敵です! 是非是非連れて行って下さい!」
「よっしゃー。じゃ、俺いいところ探しておくな」
前のめりになりながらエリー王女は手を合わせる。その顔はとても輝いていた。あまりの表情の変わりぶりに、アルバートも嬉しそうに笑った。
一方その頃、アルバートと交代したフィニアスは、エリー王女の部屋を出たところでマーサと一緒に立ち話をしていた。それはありふれたたわいもない話。マーサが笑えばフィニアスは安心し、自分の心までもが癒えているように感じた。
マーサは、フィニアスが気遣って声をかけてくれていることは容易に分かった。
その気持ちは無下にはできない。そしてフィニアスは未だに癒えていない傷を埋める相手を探しているのだろう。嘘とは言え、同じ境遇である自分にしか出来ないことがあるのであれば、彼の話し相手になってあげたい。
そんな風に考えたマーサは、出来るだけ話を聞き笑顔で応えた。
そしてこの日を境に、フィニアスはマーサと顔を合わせる度に声をかけるようになった。
「マーサさん」
「フィニアス様、今日もお勤めお疲れ様です」
今日もまた、通路を歩いていたマーサをフィニアスはいつものように呼びとめる。声をかければ、マーサは温かく迎え入れてくれた。
フィニアスはそれがとても嬉しかった。
いつしか、この笑顔が見たくてマーサを探すようになっていた。マーサの笑顔はリリーの笑顔のように自分を包み込んでくれる。最初のうちはマーサを少しでも元気づけようと思って声をかけていたものが、いつしか自分のために、この心地よさのために会いに行くようになっていた。
「これから訓練ですか?」
「はい。……マーサさん、今夜一緒に食事でもいかがですか?」
そして、フィニアスの口からそんな言葉が出た。




