003話 興味
心のつかえがとれたアランは解放感からか、お酒のペースも早くなり饒舌になる。マーサもまた今まで感じたことのない楽しさから、アランに付き合い結構な量を飲んでいた。
そもそも今日、マーサはとても気分が良かった。エリー王女が元気になったことと、セイン王子と過ごすエリー王女がとても幸せそうだったからだ。
マーサはエリー王女について楽しそうに話し、アランはそれを熱心に聞いた。また、アランが外でのエリー王女の話をすると、マーサは瞳を輝かせてそれに聞き入る。アランはそんなマーサが面白くて色々な話をしてあげた。
今まで二人はこのような他愛もない会話をしたことはなかった。お互いに主に対する忠誠心を認め合い、好感を持っていたものの、必要最低限のことしか話したことがなかったのだ。
初めて一個人として向き合い、話をしたことでお互いに興味を持ち始めていた。
「アラン様はあれから恋人は作っておられないようですが、それはなぜですか?」
エリー王女の恋愛話からの流れで、マーサがそう聞いてきた。アランが騎士だった頃、エリー王女の側近になるためにはもっと女性を知るべきだとアルバートに薦められて、過去に三人の女性と付き合ったことがあった。一応勉強のためだと努力はしてみたが、どの女性とも長くは続かなかった。
「向いていないんですよ。女性に対する優先順位が低すぎて会おうとしなかったですから。仕事を優先にしたいため、付き合うという行為が億劫で……。それに今は無理に付き合う必要もないですし」
アランが苦笑いをすると、マーサは何やら納得していた。
「アラン様はこの国に忠義を尽くしておりますので、それは仕方がないことですし、私もそれはとても素晴らしいことだと思います」
大抵この話をすると非難されることが多かったが、思わぬところで褒められたため、アランは照れくさそうに視線を逸らし、お酒に手を伸ばす。その照れた様子を見て、マーサは可愛いなと思った。
「ただ、ご結婚されますと奥様は寂しい思いをされるでしょうね。側近という立場ですとあまり自由な時間はないですから」
「はい。親父もほとんど帰ってこなかったので、母は寂しそうでしたよ。この仕事をしている限り、一緒になる女性は寂しい思いをすると思います。アルバートのようにマメであればいいかもしれませんが、俺は結婚は向いていないと思います」
かといってずっと一人でいるわけにもいかないだろうなとアランは小さなため息をつく。現に母親から何度か見合いをしろと言われていた。相手を不幸にすると分かっていながら結婚なんてする気になれない。
「マーサさんはどなたかお付き合いされている方はいらっしゃるのですか?」
「いえ、一度もそのような方はおりません。私はエリー様がいれば十分ですから」
アランは深い意味もなくマーサに聞いてみたのだが、そう微笑むマーサにアランは何故かほっとした。
「勿体ないですね。こんなに素敵な女性なのに……」
お酒のせいだったのだろう。アランは普段なら言わないようなことをぽろっと口に出した。しかし、それは正直な気持ちだった。
「きっと付き合う男性は幸せだと思いますよ」
アランが酔っているせいか、いつも見せない笑顔を見せる。マーサはそんなアランに小さく胸が高鳴った。
「あ、ありがとうございます。ですが、私もエリー様優先になりますので上手くいかないと思います。普通の家庭を持つことは出来ないですので結婚願望はないのです……」
マーサは少し考える。
「そうですね……心残りと言えば、エリー様のお心を理解するためにはもっと若い頃に色々と男性経験をしておくべきでした。エリー様の質問にも答えられませんでしたし……。でもそれは今更なので諦めております」
マーサがアランに微笑むと、アランはその言葉に眉間にシワを寄せる。
「今更でもないし、諦める必要などないと思いますが」
「そうですか? ……では、機会があれば……」
マーサのその回答にアランは何かが引っ掛かった。誰かとそういった機会がいつか訪れるのかと思ったら、勝手に口から出ていた。
「なら、俺と経験してみますか?」