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027話 アランのお相手

 アリスの魔法のお陰で、フィナの服や体、髪などの汚れもなくなり、すっかり綺麗になっていた。艶やかな肌とうっすらと色づいた頬。ふわふわと揺れる髪。アランと会うための準備は完璧だった。しかし、フィナの心の準備が整っていない。


「どうしようどうしようどうしよう……」


 握りしめた二つの拳を口元に当て、座ったり立ちあがったり、入口の方に行って誰か来る気配がないか耳を傾けたりしていた。ただ、自分の心臓の音が大きすぎて何も聞こえない。アリスが出て行った後、フィナはテントの中でずっとこんな調子だった。ぱっと手を広げてみると、汗でびっしょり濡れている。


「やだやだぁ。だめだめだめだめ……こんな手でお会いできない。えっと、ハンカチハンカチ……そうだ、ハンカチなんて持っていないんだわ」


 仕方がないので手のひらを広げて、擦り合わせる。


「もうだめ、心臓が口からこぼれ落ちちゃいそう。ああ、アリスさん、早く戻ってこないかしら……」


 いくら擦っても汗ばんだ手は潤いを増すばかりだった――――。




「フィナ、入るわよ?」

「えっ? あ、はい! わっ! きゃあ!」


 アリスが外から声をかけると、テントの中から大きな音がした。


「どうしたの? 大丈夫?」


 慌てて中に入ったアリスが見たのは、フィナが何もないところで転んでいる姿だった。アリスは笑いながら立ち上がるのを手伝ってあげた。


「アリスさぁ~ん。私、何故かすぐ転んでしまうんですよ~……。あああ、と、ところで……」


 一瞬忘れていたが、大事なことを思い出した。フィナはアリスの袖を一つまみし、アリスを上目遣いで見つめる。


「えっと……アラン様は……?」


 フィナは小声でアランが今何処にいるか訊ねた。


「あっ。そうそう。今外で食事しているんだった。挨拶したいのよね? 一緒に行こうか」

「は、はい、ありがとうございます……」


 フィナは胸に手を当て、大きく深呼吸する。





 アランは暖を取りながらセイン王子とギルの三人で干し肉をかじっていた。セイン王子とギルが楽しそうに話しているのを聞きながら、アランは他の事を考えていた。今日はアルバートが言っていた飲み会の日なのだ。アルバートがわざわざ日程を知らせるために、手紙を送ってきたため、アランは気が気でなかった。そろそろ始まる頃だろうか……。


 胸の奥が苦しくなり、つい大きなため息が漏れてしまう。


「アラン、どうしたの? 疲れちゃった?」

「大丈夫ですか? 魔法かけます?」


 二人が同時に心配をしてきたため、アランは思わず笑みがこぼれた。


「ああ、大丈夫だ。でも、今日は少し飲もうかな……」

「うん、今日はちょっと冷えるしね。じゃ、俺貰ってくるよ」

「セイン様、俺が貰ってきます。そこにいて下さい」


 セイン王子が立ち上がると、ギルが慌ててセイン王子を座らせ素早く席を立った。


「ギルはお前に甘いな」

「アランも俺に甘いけどね」


 いたずらっぽく笑うセイン王子に、「んなことあるか」とアランが睨むと、セイン王子は「あるある」と嬉しそうに答える。端から見ても二人はとても仲が良さそうに見えていた。


「セイン様、アラン。お話の途中にすみません。フィナ様をお連れしました」


 アリスが声をかけると二人同時に振り返り、同時に立ち上がる。アランはセイン王子に先に話すようにと小さく礼をする。


「始めまして。ローンズ王国第二王子のセインです。気分はいかがですか?」

「始めましてっ。アトラス王国のフィナ・バッファと申します。この度は、危ないところを助けていただきありがとうございますっ」


 フィナが勢いよく頭を下げる。


「そんなに固くならなくて大丈夫ですよ。もっと楽にして?」

「いえ、そんなっ! すみませんっ!」


 王子を目の前にして楽に出来るわけもなく、ましてや直ぐ目の前にアランもいるのだ。もう頭を上げることは無理なのではないかとフィナは思った。

 それを見たアランはセイン王子と視線を合わせてから、フィナに声をかける。


「フィナ様。顔を上げて大丈夫ですよ。アリスから聞きました。ラッシュウォール家へ向かう途中で襲われたそうですね。このようなことに巻き込んでしまったことについてお詫び申し上げます」

「ち、違いますっ! アラン様が悪いわけではございませんっ! お詫びなんてそんなっ……あっ…」


 アランの言葉にフィナは顔を上げて否定するが、瞳が交わると体中の熱が顔に集まった。フィナはアランを見つめたまま固まってしまい、アランはどうしたのかと首を傾げる。そんな二人の様子に、アリスは慌てた。


「あー、アラン。さっきの報告では言っていなかったんだけど、フィナ様はね、アランとお見合いをするために奥様に呼ばれたらしいのよ。ようは、彼女は、アランの、未来の奥様になる可能性がある方ってわけ。わかる?」


 アリスは、ゆっくりと分かりやすく身振り手振りを加えながらにこやかに伝えた。そんなアリスにアランは眉間にしわを寄せ、何の冗談かと睨んだ。


「やだ、嘘じゃないわよ? ね、フィナ?」

「え? あの、えっと……はい。不束者ですがよろしくお願いいたしますっ!」


 驚いたアランとセインは二人で顔を見合わせて、もう一度アリスとフィナを見た。





挿絵(By みてみん)




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