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023話 疑惑

 野営地の奥深く。鬱蒼とした林を抜けると、小さなテントがいくつか建てられただけの簡易的なアジトが見えた。男たちの呑気な笑い声が、闇の中を駆けていく。中央で熾した焚火を囲い、帰らぬ仲間の心配もせずに騒いでいた。


「ダーダス騎士団だ! 反逆の罪で逮捕する!」


 十名の騎士とセイン王子、アランの十二名がジェルミア王子の暗殺を企てていた野盗のアジトへ一斉に踏み込んだ。セイン王子が放つ風の魔法が男たちの体を切り裂く。その魔法と共に飛び出したアランは、赤い光の残像を残し、次々となぎ倒していく。不意を突いたこともあるが、ギルの補助も必要ないほどセイン王子とアランが他の者に比べて力の差がありすぎた。それはデール王国の騎士団ですら呆気に取られるほどだった。


「ボスはお前だな」


 アランの目の前には、仲間が全て倒され腰を抜かした情けない男。体だけは大きくて鍛え上げてはいるが、震え上がり縮こまっている。アトラス王国の貴族を辱しめようとした罪は大きい。許すわけにはいかないが、ここは他国。自分が制裁を加えることは出来ない。下賤な人間に怒りが収まらなかったアランだったが、他の者と同じように切り倒した。


 そして、二人の活躍で一瞬で幕を閉じた。


「ねえ、アラン。俺、てっきり魔法薬で麻痺させていたんだと思っていたけど、ラッドの能力だったんだね」


 騎士団が転がっている野盗を縄で縛っている間、セイン王子は興味深そうにラッドを見つめた。アランが倒した者たちはみな、痙攣しながら気絶している。


「ああ、ウィル様が大丈夫だと言わなければ使うことはなかったが、こいつをっ! じゃなくて、ラッドを手に入れられたことはかなり良かったのかもしれない。ただ、最近少し主張が激しくなったことが難点だな……」


 また名前で呼ばなかったために腕が痛みが走り、アランはその腕をさする。しかし、剣を鞘に収めるとラッドの意志が流れてくるようなことはなかった。


「上手く付き合っていけるといいね」

「まぁ、こうやっておけば不都合なことはないしな。それに、持ち運びも便利だ」


 短剣程の長さに収まったラッドをセイン王子に見せる。


「そうだね。それにしても、これをエリーが手にしたんじゃなくて良かった。いくら凄くても、エリーには人を傷つけることはしてほしくないから」

「そうだな。エリーには似合わないしな」


 そう応えるアランは優しく笑う。それに対し、セイン王子は複雑な気持ちになった。アランがエリー王女を呼び捨てにするのをセイン王子は時々耳にした。その度に、こんな気持ちになるのだ。


 昔、友達が欲しいと言っていたエリー王女に、レイが中心となって、友達のように話すことと名前で呼ぶことを決めた。


 アランはそれを守っているだけ。


 セイン王子は頭では分かっていた。しかし、自分が離れている長い期間に、エリー王女とアランはとても絆が深まっているように見えた。それは悪いことではない。そうは思うが、何か気持ちがすっきりしなかった。


 そんな時、決まってセイン王子の脳裏にバフォールの言葉が過る。


 "セイン王子よ……お前はこの者の想いを知らない……これ程までに苦しんでいる原因は――――"


 "この者はおまえを―――"


 それはない。自分が想像してしまう答えに頭を振る。アランは根拠がないと言っていた。この言葉は、自分とアランをただの動揺させるためだけに言ったのだ。アランを疑うようにと……。


 何度もそうやって、この言葉を否定してきた。


 それでも、エリー王女とアランのやり取りを見ていると気持ちは良くなかった。エリー王女が死刑執行の際に気分が悪くなった時も、二人は仲良く寄り添っていた。そんな姿を見たり、親しく名前を呼んでいるのを見ると疑ってしまう。


 セイン王子は、じっとアランを見た。目が合ったアランは訝しげに眉間にしわを寄せる。


「どうした?」

「え? ううん。フィナ様、大丈夫かなぁ? って考えていただけ」


 セイン王子は、誤魔化すように笑う。


「ああ、そうだな……。何故こんな林をさ迷っていたのか……」


 アランは辺りを見渡して、そう答えた。アトラス王国の貴族が、国境を越えてこんなところを来る理由が見つからなかった。この辺りは特に変わったものは何もない。いや、何か音がする……。


「アラン、どうしたの?」


 セイン王子の問い掛けに指を立てて、静かにするよう促す。アランは、その音がする方へとゆっくり足を進める。セイン王子とギルは静かにその後を付いて行った。


 暗い林の中を進むと、そこには大きな川が流れていた。





挿絵(By みてみん)




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