022話 ラッド
「アランっ!」
アランが最後の一人を気絶させたところで、セイン王子が駆け寄ってきた。後ろにはギルとアリスもいる。
「殺しちゃった?」
「いえ、一応生きています」
そう言われ、セイン王子が足もとに転がる四人を見ると、脇腹から血を流し小さく痙攣を起こしていた。傷は浅いようだったので麻痺の魔法薬を使ったのだろう。
「この先の奥にこいつらの仲間が陣を張っているそうです。深夜、我々が寝静まった頃、ジェルミア様のお命を奪う予定だったと」
「そう……。やっぱり反対勢力はあるんだね。あ、そういえば、さっき女性の悲鳴が聞こえたけど?」
「はい、ご案内します」
アランは移動しながら状況を伝えた。
「あそこにいた仲間の一人に女性が襲われていました。恐らく、バッファ侯爵家のご令嬢フィナ様と思われます」
「バッファ侯爵家ってアトラスの!? なんでアトラスの貴族がデールで襲われてるの?」
「わかりません。しかし、ここの連中が拉致したわけではないようです。状況についてはフィナ様に確認する必要があります」
後ろで聞いていたアリスが顔をしかめる。
「お話の途中失礼します。その役、私にお任せして頂けないでしょうか。こういったことは女性同士の方が良いと思いますので、許可をお願いします」
「分かった。じゃ、この件はアリスに任せる」
「ありがとうございます」
アリスはセイン王子に小さく礼をする。セイン王子は、それを見届けてからアランの方に向き直った。
「敵は何人だって言ってた?」
「全部で三十。四名倒したので、残り二十六名になります」
「うーん、二人じゃちょっと厳しいかな~……。アラン、どうしたの? 腕が痛いの? 怪我した?」
アランが腕をさすっていることに気が付いたセイン王子は、心配そうに訊ねる。
「いえ……こいつ……痛っ。な、名前で? ……えー……セイン様……」
「ん?」
何か改まった様子のアランに、セイン王子は首をかしげる。
「……このブラッディーソードですが、何やら意志があるようでして……。ちゃんと名前を呼んで欲しいと……」
「……え?」
セイン王子の反応に、アランは顔を赤く染める。外が暗くて良かった。突然そんなことを言い出したら、それは誰でも変に思うだろう。分かっている。自分でも分かっているから、そんな目で見ないで欲しい。特にアリス。
「えー……っと。そのブラッディーソードが名前で呼んで欲しいって言ってるの?」
「はい……」
セイン王子はまだ鞘に納まっていない、鈍く赤く光るブラッディーソードを見つめる。剣に描かれた蛇の模様が存在を主張するかのように蠢く。
「あー、うん。何かが宿っていても不思議はないよね。で、名前は?」
「……ラッド。という名を付けました」
「ラッドかぁー」
アランは、恥ずかしさから左手で口を隠した。アランの癖を知ってるセイン王子は、小さくはははと笑い、ラッドの前でしゃがんだ。
「ラッド、この前……えっと、バフォールとの戦いの時は、力を貸してくれてありがとう。これからもアランを宜しくね」
セイン王子の言葉に反応したのか、剣に映る蛇が頷いたように見えた。
「あはは。本当に意志があるみたいだね。名前で呼んで欲しいなんて、女の子なのかな?」
「剣に性別などあるわけがっ……っつ」
吐き捨てるようにアランが言うと、右腕がまたズキンと痛んだ。腕をさすりながら、剣を掲げラッドを睨むように見ると、蛇がへそを曲げている……ように見える……。もし性別が女であるならば、男みたいな名前で良かったのだろうか? アランは眉間にしわを寄せた。
「それにしても、アランがおかしくなっちゃったのかと思って、驚いちゃった。あはは、嘘うそ。で、さっきの痛みは何だったの?」
「二人であれば倒せると言っており、早く行きたいようです」
「へー、凄い! そんなことも分かっちゃうの? それなら早速、倒しに行っちゃう?」
「セイン様! お二人で行くなんてダメですよ! 人数が違いすぎます! ジェルミア様をお待ちしましょう!」
嬉しそうに目を輝かせたセイン王子をギルが止めに入る。すぐ無茶をしようとするセイン王子に、ギルは鼻息を荒くした。




