021話 名前
アランは、男を縛りあげた後、女性の方へと向き直る。彼女に近づき顔を覗き込んでみると、既に意識を失っているようだった。
「この方は……」
まだあどけなさが残るこの少女に、アランはどこか見覚えがあった。
ドクン――――。
また右手の痣が疼きだした。振り返り目を凝らすと、薄暗くなってきた林の奥から数名の男がぞろぞろと歩いてくるのが小さく見えた。
「お前は便利な奴だな……」
アランは男たちを睨みつつ、ブラッディーソードにそう告げた。彼女をひとまずその場に寝かせ、向かってくる男たちの元へゆっくりと向かう。右手に持つブラッディーソードの模様が妖しくうねっている。
「あぁ……お前の楽しみはこれからだ……」
一人ごとのように呟き、ブラッディーソードを握るその手に力を込める。この剣についてはまだ謎が多い。普通の剣と同じように使用することができるが、その他にも特殊なことが出来た。わかっている限りだと、相手の血を吸い取ること。バーフォールの本体のような物体のないものでも拘束をすることが出来た。しかし、それ以外はまだ何が隠されているのかは分からない。
ただ、アランにはこの剣が何を訴えているのかが感覚的に分かった。
「人数は四人か……。あの程度なら余裕だな。あぁ、任せておけ。非道な人間に慈悲は必要ない」
闇が濃くなった林の中でも、男たちの人数を把握し力量を測ることが出来た。これもブラッディーソードの力か。アランは自分の欲望のために、人の心を何とも思わない男等に手加減をするつもりはなく、ブラッディーソードにそう伝えた。
「……」
剣に対して話しかける自分に違和感を感じた。普通であればおかしい光景だ。しかし、ブラッディーソードを見ると意志があるように模様がうごめいている。アランはじっと剣を見つめた。
「わかった……では、お前に名前をやろう」
――――ラッド。
アランがその名前を口にすると、気に入ったのか、ラッドは怪しい赤い光をぼんやりと発光した。
「あの野郎、どこまで追い掛けに行ったんだ。まさか一人で楽しんでるんじゃねーだろうな!?」
「んなことしやがったら只じゃ置かねえ!」
男たちはなかなか戻って来ない男を探しに、辺りを見渡しながら息巻いていた。人を見つけ出すのが困難だと思えるほど林の中は暗くなっていた。
そろそろランタンを点けようと立ち止まると、一人の男が近付いてきた。顔や服装はよく見えない。
「あ、もしかしてこのまま下に下りられます? それでしたら、少し迂回した方が良いかもしれません。途中で……その……男女が何やら楽しんでいたので」
気軽に話しかけてきた男の内容に、一人が鼻息を荒くする。
「やっぱり! あの野郎! 一人で楽しみやがって!」
「おや? もしかしてご友人でした?」
「仲間だ。探す手間が省けた。礼を言う。よし、行くぞ!」
手を上げて礼を言い、その男の横を通りすぎた時だった。
「……仲間だということが分かれば十分だ」
先ほどの親しげに話す声とは違う低い声が聞こえてきた。振り返ると、男が持つ剣がぼんやりではあるが、赤く光を放っている。
「魔法か? お前は一体何者だ!?」
殺気を感じ、男たちは距離を取りつつ剣を抜く。しかし、構える暇もないまま一人がなぎ倒された。あまりにも一瞬の出来事に佇む三人の男たち。攻撃をしかけた男を見ると、目が合った。眼鏡の奥に宿る光を見た気がした。
「殺しはしない」
その言葉に身の毛がよだつ。この男は危険だ。そう直感した。しかし、蛇に睨まれた蛙のようにまったく身動きが取れない。
「た、助けてくれ!」
つい出た言葉だった。このままでは殺されてしまう。しかし、その言葉に男は鼻で笑う。
「ぐああああ!」
何をしたのか見えなかったが、叫び声と共にまた一人倒れた。あの女と知り合いなのか?
「アトラスの貴族に手を出すとは……目的はなんだ?」
すっと首筋に剣が当てられる。
「お、俺らは知らない……。あの女が森の中で倒れたのを拾ってやっただけだ。な、何もしてねえ!」
「そうだ! 俺たちはあの女をやっちゃいねえぞ! うああああああっ!」
また一人血を吹き出しながら倒れた。男は怒っている。それを体中で感じた。身動きが出来ないまま、また首筋に剣を当てられる。そしてその男が問う。
「で、この他にも何か目的があるんだろ? こんな野営地の奥で陣を張るんだからな」




