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020話 救助

 ジェルミア国王等と離れ、先を急ぐ四名。アランの腕は更に疼きが増す。正に血が騒いでいるようだ。


「いる……」


 何故かアランはそう感じた。早く使ってほしいと言わんばかりに、ブラッディソードが呼んでいる。いや、実際にそんな声が聞こえてきたわけではないのだが、アランにはそんな気がしたのだ。



 夕日で全てが赤く染まる野営地に四人は到着する。しかし、そこには誰の姿も見えない。馬繋場に馬を繋ぎ、セイン王子はアランを見た。


「ここ?」

「はい、恐らくですが。少し様子を見てきますので、三人はここでお待ち下さい」


 アランが腰に付けた短剣を抜いたその瞬間、剣とアランの血が混ざり合う。腕に描かれた痣から血が流れ、剣の中へと真っ赤な血が染み渡る。血管のように無数に枝分かれをした模様が剣に浮かび上がり、短剣がロングソード程の長さに伸びていった。


 アランが剣を抜いたのを合図に、ギルは基本的な補助魔法をアランにかけた。


「無茶はしないでよ」

「はい」


 セイン王子はそんなに心配はしていなかったが、一応そう伝えた。アリスはセイン王子がレイだったということを知らない。そのため、いつものようには話せないが二人は意思疏通は出来ていた。


 アランはブラッディソードに導かれるように、野営地奥の林の中へと入っていく。





 日も陰り、冷たい空気が肌を刺す。木々が風に揺られ、がさがさと音を鳴らす。その音に混じって一定の荒い呼吸音が駆け抜ける。


 彼女は必死に走っていた。とにかく前に進まなければ。振り向く暇もないほど、前へ前へと走る。


 沢山の石や小枝、木の根などあったが、痛みも忘れて裸足で力強く踏みつけて走る。そのため足は既に血だらけだ。綺麗だったはずのドレスはドロドロに汚れ、手首にはきつく縛られたロープが巻かれていた。


 どうしてこんな目に合わなければならないのかと思うと、視界が滲む。泣いては駄目だと自分に言い聞かせ、ぐっと堪えたその瞬間、突き出した根に足元を取られてそのまま大きく地面に体を打ち付けた。手が使えなかったため、受け身も取れず身体中に傷が付きじんわりと血が滲み出る。


「残念だったな……おじょうちゃん。……鬼ごっこは終わりだ。助けてやったのに礼もなしか? 誰の相手もせずに逃げられると思うなよ……」


 後から彼女を追ってきたのであろう。体の大きな男は、息を切らせながらもニヤニヤと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「お、お願いです! 私を見逃しては頂けませんかっ?」


 彼女は涙をこぼし顔を歪め、哀願した。倒れた拍子にスカートの裾が捲り上がり、柔らかそうな足が覗く。その姿はとても悩ましい。男はごくりと唾を飲む。下っぱである男は、彼女にありつくのはまだまだ先だった。しかし、今なら……。


「大人しくしていれば、考えてやってもいい……」


 ギラついたその瞳で近付いてくる男の言葉には、少しも信憑性が感じられない。男の手が伸びてくる。


「いや……。来ないで……」


 縛られた手でなんとか起き上がろうとするが、既に男の手が体に巻き付いていた。


「いやっ! 触らないで! 嫌よっ! あああっ! 誰か……」


 彼女は必死にもがき、誰かに気が付いて貰いたくて悲鳴をあげた。その時だった。

 体をまさぐっていた男の手がピタリと止まり、苦しそうに顔を歪める。そして、覆い被さっていた男の体が勢いよく後ろに倒れた。


「もう大丈夫だ。少しそのままで待っていてくれ」


 知らない男の声が聞こえてきたと同時に、上から暖かい布が掛けられた。彼女は体を起こし、その声のする人物を見た。てきぱきと大男をロープで縛っているその男は、見たことがある服を身に纏っていた。


「アトラスの……」


 彼女がそう呟くと、緊張の糸が切れ、そのまま意識を手放した。





挿絵(By みてみん)




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