002話 悩み
アランの悩みを聞いたマーサは思わず笑ってしまった。
「申し訳ございません。真剣に悩んでいらっしゃっているのに。アラン様、それは確実にバフォールの誘導です」
マーサはアランを安心させるかのように、優しく笑みを浮かべる。
「そうだとは思うのですが、以前K地区にいた際にも似たようなことを言われたことがありました。それから時々、この気持ちはどういう意味のものなのかと考えるようになってしまいまして……」
対するアランは未だに難しい表情をし、マーサに助けを求めるかのように見つめている。
「例えば、エリー様がディーンに襲われた時は本当に怒りを覚えましたし、エリー様に頼られない時は自分に嫌気がさしたりと。そんな時に、バフォールにそういったニュアンスで言われたものですから、もしかして本当にそうなのではないかと段々自信がなくなってしまいました。そもそも女性を好きになるということが良く分からないのが悪いのだと思いますが」
アランは少し恥ずかしそうに、眼鏡の真ん中にあるブリッジ部分をいじりつつも淡々と語った。
あのときバフォールはアランを惑わそうとしていた。アランの心の小さな迷い。アランが求めているものはエリー王女であると。
確かにアランの心にいるのはエリー王女であったが、それはただの忠誠心。しかし、人間の心は危ういもの。何をもって好きだと思うのかは人それぞれ。少しつつけば勘違いをする。
その迷いをバフォールは突いてきたのだった。上手くいけばセイン王子との関係も悪くなる。
「そうですね。私も恋愛については良くは分かっておりませんが、アラン様のエリー様に対する想いは私と同じだということはよく分かります。現に、今お隣のお部屋でエリー様とセイン様が一緒に過ごされておりますが、どう思われますか?」
マーサの問いに対し、アランはエリー王女の部屋の壁を見つめてからマーサをもう一度見る。
「エリー様もセインも良かったなと思います」
「そうですね。私もそう思います。嫉妬などしませんよね?」
アランは少し考える。
「はい、今まで嫉妬という感情を持ったことはないです」
それを聞いたマーサは微笑みを浮かべたまま頷く。アランは暫く難しい顔をしていたが、自分の気持ちに整理がついたらしく、大きく息を吐いた。
「ありがとうございます、マーサさん。とてもスッキリしました。そうですね、はい、良かった。ははは。これでセインに堂々と会える」
そう言ってアランは本当に嬉しそうに笑った。マーサはアランのその笑顔を見て、どちらかというとエリー王女よりセイン王子の方が好きなのではないかと思ってしまい、マーサも笑った。
「アラン様もそのような笑顔をなされるのですね」
マーサもまたいつもの微笑みではなくとても楽しそうに笑った。
二人は、相手の珍しい表情に驚きつつも、新しい発見に少し得をした気分になっていた。