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019話 血

 言葉にしてやっと、マーサは自分がアランのことを好きだということを認識した。付き合ってほしいという言葉に固執していたのは、そういうことだったのか。


「よぉーし! マーサさんの気持ちはよく分かった! そいつにマーサさんが好きだと認識させりゃいいんだな!」


 静かに聞いていたアルバートがポンと膝を叩く。


「アルバート、何か良い手が?」

「おぅよ! いいか、エリーちゃん。マーサさんに沢山の男が近づいてきたら、その男はどう思う?」

「えっと……。もし好きなら凄く嫌だと思うのではないでしょうか」

「そう! 好きなら嫉妬する。独占欲が生まれる。好きだと認識する。誰かに取られそうになれば焦るからな。それでも反応がなければ、諦めたらいい」

「諦めちゃうのですか? それは嫌です! 私は何としてでも、マーサの恋を成就させたいです!」


 マーサは二人が盛り上がっているのを黙って聞いていた。仕事に熱心なアランが、自分のことで嫉妬などするわけがない。それに本人も付き合うことには興味がないと言っていたのだから……。


「マーサさん。っつーことで、飲み会行くっすよ! 沢山の男と仲良くなって、ヤキモキ作戦!」


 アルバートが立ち上がって拳を突き上げると、エリー王女はアルバートに向かって拍手をした。そんな二人を見て、マーサは思わず笑みを浮かべる。二人の優しさが胸に染み渡り、暖かい気持ちになったのだ。


 意味のないことだとしても、自分のために一生懸命考えてくれた二人に誠意を見せようとマーサは心に決めた。


「ありがとうございます。では、そのヤキモキ作戦を試させて頂きます」


 マーサがそうアルバートに伝えると、エリー王女の表情が花が開くように輝いた。


「ああ、マーサ! きっと上手く事が運びます。私はそう信じております」


 エリー王女はまたマーサに抱きついた。




 ◇


 セイン王子たちがアトラス王国を出国してから七日。アラン達は馬に跨り移動を続けていた。


 アランはアルバートが言い残した言葉をずっと気にしていた。ほのかに頬を染めたマーサが、他の男と楽しそうに話している姿を何度想像しただろう。その度に胸が痛み、苛立ちを感じた。アルバートの意図はここにあったのだ。


――――お前はどーしたいんだよ?


 こんな不安を感じたくない。いや、そうじゃない。誰にもマーサを渡したくないのだ。アランは、自分の気持ちをやっと理解した。確かにアルバートが言うように馬鹿なのかもしれない。こうまでしなければ分からない自分に、アランは呆れた。

 マーサが自分のことをどう思っていようが、国に戻ったらちゃんと自分の気持ちを伝えよう。


 アランは深いため息をついた……。




 日も落ち始め空がわずかに橙色に染まる頃、彼らはデール王国の国境を越え、馬と馬車で山道を渡っていた。先頭はジェルミア国王と十五名の騎士団。中央は三十三名の魔力部隊の馬車。後方にはセイン王子、ギル、アリス、アランの四名が走る。


 国境に入ってから、アランの右手は血管にピリピリとした疼きを感じていた。なかなか治まらないため、ちらりとその手を見ると蛇の痣が色濃くなっている。


「ブラッディソード……」


 小さく呟くその名は、以前バフォールに貰った剣の名前だった。血の契約をして以降、薄く残っていた蛇の痣が今くっきりとその形を見せている。何か胸騒ぎがしたアランは、馬を走らせながら周囲を注意深く見渡した。


「アラン、どうしたの?」


 並走していたアリスは、神経を研ぎ澄ませているアランに気がつき、緊張した面持ちで声をかける。


「……何かがいるような気がする」

「え……」


 アリスもまた意識を集中させた。しかし、聞こえるのは馬の蹄と馬車のガタガタといった音だけだ。木々が生い茂っていて、何者かが潜んでいる様子も見えない。


「まずいな、もうすぐ日が暮れる。闇に紛れて襲ってくるのかもしれない……。セイン様!」


 目の前を走るセイン王子に声をかけ、馬を横に付ける。


「腕が疼く。敵がいるような気がする。これを」


 アランは腕を出し、セイン王子に蛇の痣を見せる。その痣を見たセイン王子は驚いた。


「色が濃くなっているね。ブラッディーソードが戦闘体勢に入っているってこと?」

「わからない。しかし、嫌な予感がする。馬車と一緒では時間がかかるため、明るいうちに先に進み確認してこようと思う」

「分かった。万が一を考えて四人で行こう」


 セイン王子はギルとアリスに合図を送り、四人は騎士団とともに先頭にいるジェルミア国王の下へと馬を走らせた。





挿絵(By みてみん)




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