表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/54

018話 優しい二人

 マーサの涙を見たエリー王女は、声をつまらせるほど泣き出した。初めて見るマーサの涙に、どんな辛いことがあったのかと想像しただけで切なくなったのだ。


 そんなマーサの心に寄り添うエリー王女の気持ちが、マーサの心をさらに揺り動かす。それによってマーサの抑えていた感情が堰を切って溢れ、何故これほど涙が出てくるのか分からなくなるほど流れ出た。そして、それを止める事が出来なかった。


 そんな泣き崩れている二人をアルバートはただ呆然と見ているしかなかった。聞いた内容からマーサの気持ちを想像していたが、予想以上に差異が大きい。それほどまでに心を痛めている? アランは他に何かを隠しているのだろうか?


「あ~……え~っと……、そうっすね。まぁ、とりあえず二人ともこっちに座って」


 アルバートが二人をソファーに座らせる。先ずは落ち着かせることが先決だ。こんな時は暖かいものを飲んだほうがいい。


 どうしたものかと考えながら慣れた手つきでポットに茶葉を入れ、熱湯を勢いよく注ぎ蒸らす。茶こしで茶ガラをこしながら、濃さが均一になるようにまわし注ぐ。その瞬間、湯気と共にふわっと紅茶のかぐわしい香りが漂った。その淹れたての紅茶を、アルバートは二人の前にことりと置いた。


 マーサは、赤くなった瞳を大きく開き、その紅茶を見つめた。いつも自分が淹れるよりも香りが豊かだった。


「まぁ、とりあえずこれ飲んで。俺の淹れるお茶は美味しいっすよ」


 いつものように明るい声が降ってくる。マーサはお礼を言い一口飲んだ。


「美味しい……」


 意外だった。アルバートにこんな特技があったとは。驚いたからか、紅茶の効果からかマーサの涙はピタリと止まった。エリー王女はマーサの様子を見つめてから、同じように紅茶を飲む。


「本当、とても美味しいです。アルバート、ありがとう」

「だっしょー。よーしよし! ゆ~っくり飲んじゃって~」

「……アルバート様がおモテになる理由がよくわかります。お心遣い、ありがとうございます」


 マーサが微笑むと、エリー王女はその様子に嬉しそうに顔をほころばせる。


「はい。アルバートはいつも優しいです」

「うんうん。いや~二人に褒められると嬉しいっすね!」


 少しだけ照れながら、アルバートは視線を下に向けて首をかく。そしてそのまま、どう切り出すべきかを考えていた。このままじゃ、良くない方向に行きそうだ。今聞くのは酷かもしれないが……。アルバートは真面目な顔に戻し、マーサに向き合った。


「……マーサさん。一人で溜め込んじゃダメっすよ。俺もエリーちゃんもマーサさんの力になりてーって思ってる。誰とかは言わなくてもいいっすから、泣いちゃうくらい辛い気持ちがあるなら、俺らに吐いちゃってよ」

「マーサ……。私も力になりたいです……」


 エリー王女はそっとマーサの膝に両手を置き、真っ直ぐ見つめた。マーサは二人の気持ちが嬉しかった。特にエリー王女からそんな風に思ってもらえたことが、この上無く幸せだった。


 名前を言わなくても良いのならば、この不安な気持ちを伝えられるかもしれない。


「ありがとうございます」


 マーサは小さく笑みを作り、一呼吸置いた。どこから話せば良いのだろう。


「その方とは――――」


 名前を伏せ、人物が特定出来ないようにマーサは気をつけた。更には、万が一アランだということを特定されてしまった時のことを考え、アランが悪い印象にならないように細心の注意を払った。だからほとんどのことは伝えられなかった。それでもエリー王女もアルバートも何も言わずに聞いてくれていた。


 大体のことを知っているアルバートにとって、マーサの気遣いがひしひしと伝わってきた。自分を押し殺してまでアランを守るその姿が痛々しかった。


「――――ただ私は、あの方のお心が知りたいだけなのです……。いえ、そうではないですね。私は愛されたいのだと思います」


 マーサは悲しそうに、微笑みを浮かべた。





挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ