016話 思惑
アランはアルバートに根掘り葉掘り聞かれ、それに対して真面目に答えた。アルバートはわざとらしいため息を盛大に吐いてみせる。
「それでわかんねーって奇跡っちゅーか、ばかっちゅーか……まぁ、いいや(言ってもわかんねーだろーし)。んで、どうしたいか知りたいんだろ? 俺にどーんと任せておけっ!」
アルバートは何かを企んでいるかのようにニヤニヤと笑う。
「ああ……任せる。で、どうすれば?」
その顔を見てアランは若干不安を覚えたが、とりあえず任せることにした。しかし、アルバートは今は気にせず明日からの任務だけを考えるようにと言ってきたため、結局何も教えて貰えないことに不満を感じつつ準備を始めた。
翌日の朝、サラディス国王とディーン王子の弟クラウド王子が到着した。その後直ぐにディーン王子の処刑が執行され、エリー王女はやはりそれを見届けた。案の定、エリー王女の気分は最悪なものにはなっていたが、昨日の今日である。ほらみたことかと思われないように気丈に振る舞っていた。すぐ側にいたアランには、それが痛いほど伝わっていたがエリー王女の想いを汲んだ。
エリー王女が落ち着きを取り戻した頃、ジェルミア国王一行とセイン王子、ギル、アリス、アランの四人は一同揃って出立のため、アトラス城の前にいた。秋風が吹きすさぶ中、セイン王子とエリー王女は別れを惜しんでいた。
そんな二人を横目に、アルバートがアランに近づいてきた。
「まぁ、こっちのことは任せておけ。あっちはあんまり治安がよくねーから気を付けろよ」
「分かっている。エリー様を宜しく」
一応、別れの挨拶をしたが、アルバートにとってここからが本題だった。
「あー、あとな。今度マーサさん含めた侍女たちと飲み会やることになったから。お前、まだ彼氏じゃねーし、誰が誰とくっ付いたって文句ねーよな?」
アルバートはニヤリと笑う。
「っ!……あぁ……確かにそうだな……」
その言葉にアランはドキっとしたものの、何も言える立場ではないことに直ぐ気が付いた。そんな動揺を見せたアランの耳元でアルバートは囁く。
「マーサさんと飲みたいって言っていた野郎は多いからなー。持ち帰りもあるかもな。普段はこういうのに参加しないマーサさんが珍しく参加してくれるみたいだし、なんか心境の変化かなー?」
なるほど。そうやって自分の気持ちを試しているのか。アランはアルバートの思惑を理解し、思わず睨んだ。少なからず気持ちがあると知っているのに、そこまでするか? 万が一本当に持ち帰られたらどうするつもりだ!? それでも、アランは何も言えなかった。
「ま、せいぜい一ヶ月モヤモヤしてろ」
アランの肩を意味有り気に叩いた後、アルバートはその場から定位置へと戻って行った。アルバートの言葉通り、アランの胸の中にはドロドロとした何かが渦巻き出していた。
また、気持ちが落ち着かない原因は他にもう一つあった。それは今朝から一度もマーサを見ていないことだった。他の侍女がエリー王女の身支度を整えることは時々あることで、もちろん同じ城内にいたとしても一度も会わない日もある。
しかし、今日は何故か避けられているような気がした。
顔を見ることが出来なかったことで、アランは不安な気持ちが広がっていた。やはり、アルバートの言うように最低な行動だったのだろうか。と……。
そしてアランは、これから重要な任務に入るにも拘わらず、他のことに注力してしまっている自分にも腹が立っていた。
「くそっ」
沢山の気持ちが入り交じり、納めどころのない想いを乗せて、アランは小さく悪態をついた。




