西の城下町 (2)
本日二度目の投稿です。1日のうちで二回投稿するのは初めてです。
「なかなかすごい街並みだね。少しこなかっただけでここまで変わるとは…」
僕はゆっくりと町を眺める。そこには綺麗なレンガや美しい建物で中世ヨーロッパを彷彿とさせるような街並みで外観を統一しつつも、空中に投影されている掲示板が今が2355年だという事を教えてくれる。
「そうね、近未来的って言いいたくなるけど、それを言ったら私たちが老人みたいになっちゃうものね。」
ふふッと笑うリネ。
(ま、実際は老人なんだけどね…)
言葉を発した後に起きる惨劇を予想して胸の内に秘める僕。
「あ、なんか失礼な事考えたでしょ!」
「そんな事ないよ。」
(なんでわかったの?!)
ポーカーフェイスは得意なので顔はなんとか平静を装ったが、内心はビクビクしている。
「むぅ…まぁいいや。」
「そう?ならいいけど。」
僕達は西の城下町、ビーカルを進んでいく。すると、あっ!と言って話しかけてくるリネ。
「ねークルスシア、王城までの距離って、どのくらいあるの?」
「んー、2、3キロくらい、かな。」
僕はセシリアに聞いていた距離を話す。
「ここはお店がひたすら続いているから、道は真っ直ぐのはずだよ。」
「そうなの?簡単ね。」
ならよかった、と1人で頷くリネ。
さらに進んでいくと、様々なお店が見えてくる。どうやら、豆腐屋や肉屋といった何かの専門のお店がたくさん並んでいるらしい。
「時代が変わっても、八百屋とかは残ってるんだね。」
「そうみたいね。あ、あの果物安いわね!」
リネが八百屋で売られている食材の内の1つを指差す。
「本当だ、安いね。200デルトか、あれは柑橘系の果物かな?帰りに買っていこうかな。」
デルトとは、ロゼッタ帝国以外の多くの国で使われているお金の単位だ。通貨はそれそのものに価値が出るように、紙幣はなく、銅貨、銀貨、金貨の順で存在する。それぞれ大きさが違うものが3つづつある。1番小さい小銅貨は1デルタ、中銅貨10デルタ、大銅貨が100デルタ。といった具合で1桁ずつ上がっていく。ただし、金貨に関しては50万ずつく価値が上がっていく。普通、王国民銅貨3枚と銀貨3枚西が触れる事はなく、金貨に触れる事はまずない。その莫大な金額も理由の1つだが、そもそも貨幣に価値があり、希少なため、あまり出回っていないのだ。
「本当に!?やったぁ!!」
喜ぶリネを見て微笑む僕。しかし、ここである事に気づくリネ。深刻そうな顔をしている。
「って、クルスシア…」
「どうかした?」
「私たちのお金って…今どこにあるの?」
「…」
お金の価値がデルトという単位で世界に広まったのはビクトール王国ができたときだ。
「確か、王国建設時に国立銀行に全部預けたはずなんだけど…」
「も、もしかしてそれ以来、いじってなかったりする?預金確認もしてない??」
「…して、ない、ね。生活は王国の税金でまかなわれてたから。気にしてなかった。」
「…」
「…」
預金を200年以上確認していない。これは非常に由々しき事態だ。もしも2人が隠居している間に銀行が一時的にでも機能を停止するような事故が起きていれば、2人の預金はゼロになっている可能性がある。2人は顔を見合わせると、焦った顔で言った。
「「銀行、行こう!!!」」
クルスシアは周りを見渡して、銀行と思わしき建物を見つける。
「あ、あそこだ!」
僕とリネは上に伸びるように空中に投影された王立銀行という文字を目標に早歩きを始める。
「銀行いっても時間は間に合うかな?」
「王城についてなくちゃいけないときまではまだ時間があるし、大丈夫だと思うよ。」
そう言って、僕は歩きながら町の時計台を見た。
(うん、まだ平気!)
すると、いきなり走り出すリネ。
「クルスシア、あそこよ!」
「ちょ、待って!」
僕もつられて走り出した。
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「預金の確認ですね?」
「はい。だいぶ前に確認したきりで…」
銀行員の受付の女の人が少し不審そうに僕とリネを見る。
(まぁ普通、王立銀行へ焦って来た人間がいたら怪しく思うよね…)
「わかりました。ここに指をあててください。」
不審そうに僕らを見ながらも、淡くエメラルドのように光る板が出される。
「わかりました。」
僕は言われるがままに指を当てる。すると、ピカッと一瞬だけ光る板。
「ありがとうございました。えーと、クルスシア様ですね?」
「はい。」
透明なキーボードのようなものの上で手を動かし、金属板のような薄い画面を見ながら僕と画面とを見比べている。
「…ねぇ。」
と、そこでリネが不機嫌そうに小声で話しかけてくる。
「なんであの女あなたのことチラチラ見てるの?」
僕を見つめつつも、たまに職員の人を睨むリネ。
「多分、前に撮った顔写真でも見てるんでしょ。ほら、この銀行は王立だからさ。セキュリティが固いんだよ。指紋認証に顔認証。念のため写真と僕を見比べてるんでしょ。」
「…そんなこと。なら、いいけど。」
機嫌を戻すリネを見て苦笑する僕。
「えーと、預金額でしたよね。」
そこで話しかけてくる職員。
「はい。今いくらあるのかを知りたくて。」
わかりました、今お調べします、そう言って再びキーボードのようなものをいじり始める。
「クルスシア様の預金額は…って、ええええぇぇっ?!!」
いきなり大声を出す職員。その声を聞いてただごとではないと察知する。
「もしかして、預金額、ゼロだったりします?」
恐る恐る聞く僕。
「その、申し上げにくいのですが…」
「は、はい。」
唾をゴクリと飲み込む僕とリネ。
(やっぱりゼロなのかな?)
「預金額が、10兆デルトを、こして、ます…」
「…はい?」
「で、ですから、10兆、デルト以上になってます。申し訳ないのですが、どうやら、秘匿扱いになっているので預金額を見る以外の事は私には出来ません…」
職員の人はかなり驚いているようだが、それ以上に驚きが大きいのは僕とリネの方だ。
「「…」」
「あのぅ、大丈夫ですか?」
黙っていた僕を見つめてくる職員。
「は、はい。ありがとうございました…」
「いえ。あ、今度引き出したくなつたときは、言ってください。上司を呼びますので。」
「あ、はい。では、僕たちはこれで…」
僕はそう言って王立銀行を出た。
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「クルスシア。」
ジト目で僕を見てくるリネ。
「な、なにかな?」
「確か、私とあなたであの口座を作ったのよね?」
「うん。君の希望で名義は僕にしたんだよね?」
「そうね。私のものとあなたのを統一したのよね。それだけで、10億デルトあったわ。」
「そういえば、そうだね。」
あの時は自分達の持っている金額に驚いたものだ。
「あなた、お金を隠してたでしょ?300年間の利子がついているとはいえ、10兆デルトなんてお金になるとは思えないわ。」
「…」
(それはそうだろう、10兆デルトなんて大金は、王族でも手に入らないだろうね。)
「つまり!!」
指をビシッと突きつけてくるリネ。
「リネは、僕が隠してお金を貯めてたっていうんでしょ?」
まいった、とでも言わんばかりに頭に手を当てる僕。
「そうだよ、隠してた。昔一悶着あってね。お金が必要な時があったんだよ。それが解決した後に隠し口座をあの口座に統合したんだよ。」
白状する僕。
「あなたがお金を何に使おうと、私は別に構わないわ。」
少し怒り気味のリネを見てため息をつく僕。
「…僕が君に隠し事したのを怒ってるんでしょ?悪かったよ。もう隠し事はない。」
「本当に?」
「うん。本当だよ。」
軽く答える僕に対して、キッと睨んでくるリネ。
「私の目を見て話して!」
顎を掴まれて無理やりリネの目を見つめさせられる。
「…」
「本当に、他に隠し事はないの?」
真剣な顔をした彼女を見て、逃してはもらえないな、そう感じた。
「うん。ないよ。他に隠し事はない。本当だよ。」
僕は答えた。しっかりと目を見て、真剣に。
「そう、ならいいの。時間も食っちゃったし、王城に行くわよ。」
それだけ言うとまた王城まで歩き出したリネ。僕も後に続く。
「…」
きっと、今日彼女についた嘘は、僕にとって一生忘れられないだろう。
その時の僕は、自分が間違ったことをしていない、そう思い込むだけで精一杯だった。
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今日新しい発見をしました。どうやら僕の書いている小説の量は他の方よりも二倍くらい多いようですね。今までこれでもか!!と書いて足りないと勝手に自己判断していたので、かなりショックでした。なので、これからは量が少なくなると思います。これなら毎日でも更新できるかもしれません。かも、ですが。
最近、何人かの方が毎回見てくれていることに気づきました。こんな話でも読んでいただいて、本当にありがとうございます。引き続き、読んでいただけるとものすごく嬉しいです。長く書いていくつもりなので、これからも宜しくお願いします!