クルスシアに降りかかる災難(2)
前回の続きで、いきなりグロテスクなシーンから入ります。苦手な方はお気をつけください。
芝生に横たわっているのは分かる…でも、目の前が霞んでよく見えない。
(何が、起きたんだ?確か…)
「うぐぁっ?!」
何が起きたかを思い出そうとした時、胸のあたりを凄まじい痛みが襲う。そして、その痛みと同時になぜこうなったのか思い出す。
(僕は、誰かに襲われたのか。でも、一体誰が…?)
徐々に止まっていた思考が動き出し、様々な可能性が頭を巡る。
「あれ?もう起きたの、クルスシア…さっき覚醒剤を打ったばかりなんだけどな〜もう効いてきたのね!あなたって、薬が効くのが早いのね。」
霞んだ目に映る人影から聞こえてきた女の人の声は、僕の中に広がったたくさんの可能性を切り捨てる。
(そうか、君だったのか…)
誰が僕をこんな状態にしたのか、その答えが出た瞬間、胸の奥から口へと血液が昇ってくる。
「うっ…ゴバァッッ!!」
すでに赤く染まりきった芝生の上に再び血液を吐く僕。
「あちゃー、なんだか意識ももうろうとしてるっ、て感じかなぁ?これは、覚醒剤がまだ足りなかったか…本当はこの後でたくさん使うつもりだったんだけど、ここでクルスシアの意識がないと意味ないしね!」
なにやら、カチャカチャといった音が聞こえる。
(あの音は…ガラスとガラスのぶつかる音…?それに、さっき覚醒剤って…)
「あはは、ちょっと待っててねー、今から3本打つから、嫌でも目がさめるよ〜」
そう言って、人影は僕の右腕に腕を掴んだ。そして、チクリとした感覚が走る。
(っ!!痛みと血液の損傷で失神した僕を覚醒剤で無理やり起こそうっていうのか…なるほど、そういうことか。)
右腕から冷たい液体が大量に流れ込んでくるのがわかる。やがてその液体は、腕から体へ、体から足へ、足から頭へと循環し始める。
「これでよしっ、と!覚醒剤が体を循環するまで、1分ってところかな?よし、それじゃあ意識が戻った時のために椅子に座らせてあげるよ。あはは、私って優しい〜!」
まるで僕と会話をしているかのように話し続ける人影。そして、僕の体が持ち上げれる。と、その時、触れられた体に激痛が走った。
「ゴフッ!」
再び口から血液が出る。しかし彼女は気にしない様子で僕を無理やり椅子へと座らせる。
「うん、これでよしっと!じゃあ、私はクルスシアの向かいに座るね♪」
楽しそうに笑う声を聞きながら、僕は、頭がだんだん冴えてきて意識がはっきりとし始めることに気づく。それと同時に、霞んでいた目も焦点が合い、よく見えるようになる。僕は話しかけてきていた声の主を見つめる。
(やっぱり、君だったか…)
腰のあたりまで長く伸びた白髪は僕のそれと同じ質感で、着ている服もまた、僕と似たデザインのどこか民族衣装を思わせるドレスだった。そしてその顔は、とても整っている少女。見た目だけで言うのであれば、僕やセシリアと同年代と言われても違和感はないないだろう。
(変わらないね、君も…)
そこで、少女が僕に話しかけてくる。
「さぁ、1分経ったし、そろそろ意識は戻ってきているんじゃないの?クルスシア。」
そう問いかけられる僕。
「…」
喋ろうとするが、喉に血が詰まって喋れない。そんな僕を見て、少女はテーブルから大きく乗り出して僕の目を覗き込んでくる。
「目の焦点は合ってるから、意識はあるわね…ふーん、じゃあ、喋る気がないの?」
「…!!」
(くそっ、まだ喉に血が詰まって喋れない!!)
僕は喋ろうとして喋れないことをかろうじて動かせる程度だけ、体を震わせる形で伝えようと試みる。
そして、そんな僕を見た少女は、何かを思いつく。
「なるほどね、喉に血が詰まって喋れないのね!からだも震えて…違うわね、私にそのことを伝えようとして動かしてるのね。いいわ、喉に詰まった血を取り除いてあげるわ。」
「!!」
(よかった…伝わった。)
その言葉を聞いて、自分の意図が伝わったことを喜ぶ僕。しかし、その一瞬の僕の喜びもつかの間、少女はドレスのポケットから、小型のナイフを取り出す。
(え?)
「今、喉のつまりはとってあげる♪」
そう言って、動けない僕に、机から乗り出したまま僕の喉元にナイフを勢いよく振り下ろす少女。
(嘘、でしょ??)
ザクッ!!
肉が切れる嫌な音がする。そして、僕を胸の痛みに加えて、喉元の痛みが襲う。
「ぐっ、あああああああアアアァァァ」
喉から勢いよく血を吹き出しながら、喉のつまりがナイフによって取れたことで、叫べるようになった僕。しかし、叫べば叫ぶほど、喉からは血が出る
「あ、よかったよかった、喋れるようになったのね!」
僕の喉から吹き出た血を浴びながら、自分のほおについた僕の血をぺろりと美味しそうに舐める少女。その姿には、まさに狂気という言葉がお似合いだった。
「…ああああああ!!!」
しかし、僕にそんなことを気にする余裕はなく、ただひたすら治らなずに増していくだけの痛みに絶叫する。
「このままでも喋れないから、あなたが十分苦しんだら、そうね、あと10秒くらい?したら一回〈回復〉をかけてあげるわ!だから、それまでは私に、あなたの苦しそうな声を聞かせて♡」
ふざけたように締めくくる少女。いーち、にーい、と数を数え始める。
しかし、僕の頭にはそんな言葉は届いていなかった。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!)
僕には、その10秒が、1時間にも、2時間にも感じられた。
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「…じゅーう!はーい、よく頑張ったクルスシアにはご褒美として、〈回復〉をかけてあげまーす!」
そう言って、未だに叫び続ける僕の喉に空間把握技術の〈回復〉をかける少女。それにより、僕を襲う痛みは、なんとか耐えられる程度の痛みとなった。
「はぁ、はぁ、はあ…」
とにかく息を吸う僕。
「あはは、絶叫してる時のクルスシア、すっごく良かったよ!」
限界ギリギリの僕と、楽しそうに笑顔の少女。この、一見かけ離れた2人に共通していることといえば、どちらも僕の血を浴びて真っ赤なことぐらいだろう。
「…久しぶり、だね。リネ」
僕が彼女、つまり目の前の少女の名前を言うと、まるで子供のようにはしゃぐリネ。
「嬉しい…良かった、覚えててくれたのね。クルスシア!!!」
そう言って動けない僕を頬杖をつきながら見つめてくるリネ。
「当然だよ…僕が君のことを忘れるとでも?君は、僕がこの世で最も愛している存在なんだよ?リネ。」
僕は恥ずかしげもなく言葉を述べていく。
「本当に?!私もよ、クルスシア。やっぱり、私たちの間の愛は途絶えてなかったのね!」
笑顔でニコニコするリネ。その顔は、血液さえかぶっていなければとても可愛らしいものだっただろう。
「もちろんだよ。わかっているとは思うけど、100年前に僕が君の前から姿を消したのだって君のためだったんだよ?」
僕もまた、笑顔で返す。作り笑いなどではなく、正真正銘の心からの笑顔で。
「うん。それもちゃんとわかってる。でも、あなたが私の前から何も言わずに消えたのは123年前、だけどね…」
悲しそうに話すリネ。
「君を巻き込まないためとはいえ、悪いことをしたと思ってる。ごめん。」
「はぁ、せめて一言でも言ってくれればまだ良かったのに…」
「それは考えたけど、一言でもお別れっぽいことを言ったら、君は僕を1人で行かせてくれなかったでしょ?」
「もちろん!」
さも当然、というように話すリネ。それを聞いて、やはりあの時別れることを話さなくて良かったと思う僕。
「まぁいいや。そろそろ本題に入ったら?」
「本題?なんのことかしら?」
僕からの質問を聞いて、あざとく手を当てて首をかしげてみせるリネ。
「心臓の周辺貫かれて、覚醒剤を何本も打たれて、しまいには喉を掻っ切った後でとぼけられても、説得力ないよ…」
「えへへ、ばれた?」
「うん。そりゃね。君は、僕を痛い目に合わせるためにここへ来たんでしょ?」
僕は思っていたことをそのまま伝える。
「えー、その言い方は語弊があるな〜。私はね、クルスシアを苦しめるためだけじゃなくて、普通に会ってまた一緒に生活をするためにもここに、あなたを探しに来たんだよ?」
決して僕を苦しめにきた、ということは否定しないリネ。
「…意味合い的にはあんまり変わってないよ?」
「えっ?そうかなあ…私的にはだいぶ違うんだけど。」
「まぁいいや、君にそこらへんのことを言っても通じないのは嫌という程知ってるよ。ていうか、さっさと始めてくれないかな?僕が君のためにわざと〈回復〉使ってないの知ってて知らん振りしてるでしょ…絶叫するほどっていうわけじゃないだけで、現在進行形で死にそうなくらい痛いんですけど。」
「うん、知ってた!!」
ニコッと笑うリネ。
「なら早く始めて…」
「あなたの苦しそうな顔見てると、私なんだか元気が出てくるの!」
相変わらずの残虐な笑顔で僕を見つめるリネ。
「…本当、変わらないよね、やられたことはきっちりと、自分の恨みが晴れるまでやり返すところ。昔にも、プリンを食べただけで半殺しにされたし…ていうか、リネってどんなに些細なことでも、必ず僕の体をいたぶる方法で返してくるよね。」
僕が昔のことを思い出して言うとリネもその時のことを思い出して反論する。
「あれはクルスシアが悪い!とろとろの半熟プリンと普通のプリンを間違えて食べるなんて、ありえない!!!!」
「いや、見分けつかなかったし!!…ってアタタタ!」
急に強く話したせいで胸のあたりが痛む僕。それを見て、リネが話し出す。
「うーん、本当ならもう少しあなたの苦しそうな顔を見てたかったけど、あんまり長く痛いのもかわいそうよね。」
その優しい言葉に驚く僕。
「えっ?!リネ、そんな融通を利かせられるようになったの?」
僕がそう聞いた直後、嫌な答えが返ってくる。
「何言ってるの?長く弱くよりも、短かくものすごく強く、のほうがいいって言ってるのよ?」
真顔で返される。
「そ、そう…なんだ。」
(ぜんっぜん昔と変わってない!!!)
心の中で悲痛な叫びをあげる僕。しかし、そんな僕は御構い無しに自分で話を進めるリネ。
「でも、さすがに、こんな手入れの行き届いた綺麗なところにこれ以上血を撒き散らすのは気がひけるのよね…」
「え?いや、もう最初にリネがやったあれでこの辺はすでに血だらけ…」
「え??よく聞こえなかったんだけど、何か言った?」
「いや、言ってない、よ…」
「そう?ならいいんだけど。それで、あなたを拷問するのに適した場所ってある?」
よくわからない質問をされる。
「え?て、適してるかはわからないけど、森の中なら、血で汚れても気にならないんじゃないかな?」
「あ、それいいわね!ここは森に囲まれてるから、木は豊富だから、木に貼り付けて吊るすとかできそう!!」
この後に実行される恐ろしい発言に震え上がる僕。
「じゃあ、適当な場所に移動しましょうか。」
そう言って立ち上がるリネ。
「よいしょっ…」
なんとか痛みに耐えつつ立ち上がる僕。
「じゃあ、あそこらへんにしましょうか。」
リネが指さしたのは、僕の家から100メートル程度しか離れていない場所だった。
「そ、そこ?!もう少し離れた方が…」
「なにか、問題でも?」
「いや、セシリアっていう女の子が多分あと3時間くらいでここに来ると思うから、僕が拷問されてるところを見つかるとやっかいなんだよね…」
その言葉を聞いて、女の子、セシリア、という言葉を繰り返し口ずさむリネ。
「あなたの浮気相手の話かしら?」
その声には、憎しみの念が込められていた。その声にかなり怯みつつ、僕は慌てて否定する。
「違うよっ!!!!セシリアは僕達の子孫で現女王だよ!」
僕の言葉を聞いて胸をなでおろすリネ。
「そう、私たちの子孫…それなら、いいのだけど。」
「わかってくれたらいいんだけど…全く、今まで僕が浮気したことないの知ったるくせに…」
「いや、今まではそうだけど、私があなたを探してる間は知らないじゃない?」
「…信用ないなぁ。まあ、何も言わずに出て行った僕の言えたセリフじゃないか…」
「まぁいいわ。あと3時間くらいでその子がくるなら、2時間半くらいの拷問で終わらせてあげる。その代わり、痛みはいつもより強い、と覚悟しておいてね?」
再び残虐な笑み浮かべるリネ。
「…」
結局、僕らはリネの指定した場所へ移動する。
「1人で何も言わずに私の前から姿を消して…今まで私がどんな気持ちで123年間もの間あなたを探していたが、想像できる?クルスシア。」
木に囲まれた場所でそう言われる。
「想像できないよ。だから、こうして君の拷問を甘んじて受け入れるって言ってるんだよ。」
僕のその言葉を聞いてクスッと笑うリネ。
「そう、それは良かった。妻である私の前から消えた恨み、とくと味わってちょうだいね、クルスシア…」
目の色の変わったリネは、僕に残虐な拷問を始めるのだった。
なんだかいつもより短いような気がします…短時間で書いたので仕方ないかもしれませんが。ていうか、全然登場人物が出てきませんね。だらだらと続けてしまう。早いうちにメインキャラは全員出したいですね…