クルスシアに降りかかる災難(1)
話の後半で、グロテスクな描写があります。お食事中の方はお気をつけください。
「クルスシア〜!!」
声が聞こえる方を振り向くと、そこには霧を抜けて、空から舞い降りた少女がいた。
「…また来たの?最近よく来るね…」
「いつでも来ていいと言ったのはクルスシアじゃないですか!ていうかちょっと、なんで少し嫌そうな顔をするんですか!!」
女王、セシリア・ビクトールは話は少し怒り気味で言った。
「いや、だってさ…ここに来るのは構わないけど、話し相手が僕しかいないからここに来るっていう理由が女王としてどうなのかなぁと、思ってさ。」
僕の言葉にうっ?!とダメージを食らうセシリア。
「い、いやぁ、だって!みんな話してはくれるんですけど、恐れおおいー!とか言って仲良くしてくれないんですよ…」
そう言いながら、芝生の上のテーブルを囲むようにして立ててある椅子の一つ、僕の前の正面に位置する椅子に座るセシリア。
「うーん、そっかー。やっぱりダメなのか〜」
僕は予想通り、といった表情をする。
「え?!やっぱり??ちょっと、やっぱりってなんですか!」
「いや、だってさ?こんなアドバイスでどうにかなるならもっと早くどうにかなってると思うし…」
僕がそういうとセシリアはどんよりとした顔になる。
「ですよ、ね…」
会話が始まって早々に、2人して重い空気になる。
「よ、よし、じゃあ今度、諜報機関のベクターあたりと話せば?彼なら同い年くらいだろうし。なんなら僕も手伝うよ?彼とは面識があるからね。」
「本当ですか?!ありがとうございます!!」
僕の提案で笑顔になるセシリア。
「だから、さ。もう少し来る回数を減らしてもいいよーな気が…」
「しませんね!」
僕の言葉の続きを変えるセシリア。
「…そ、そう。ていうか、最近よく来るけど、公務は?大丈夫なの?」
「えっ?!こ、公務??」
公務と聞いてビクッとする。それを見て僕はもしや、と思う。
「もしかして…終わらせてきてないの?」
恐る恐る尋ねる僕。
「あは、あはは。うーん。どうだったかな?忘れちゃいました!」
誤魔化すセシリア。
(この反応は、やってないな…)
「はぁ、公務は君の自己責任だからいいけど…一応ビクトール王国の女王のれっきとした仕事なんだし、それを中断するなら、せめてここに来る理由くらいは言ってきてよ?じゃないと僕にとばっちりが来るからさ…ルーナさん、最近よくここへ来てセシリアをもっと早く帰せって、僕を怒りに来るからさ…」
ルーナ・ファルキスト。プリスがスパイだったために空いた執事枠に入ったセシリアの新しいメイドだ。確か、17歳で、黄色の髪で緑色の目をしたていて、すらっとした綺麗な人だった。
「えっ?!彼女、そんなことをしてたんですか!」
「怒られる僕の身にもなってよ…」
昨日、ルーナさんに怒られたことを思い出す僕。
「そ、それはすみませんでした…彼女が裏でそんなことをしているとは…」
「やけに素直に謝るね。」
「彼女の怖さは身にしみてますから…」
その答えを聞いて、少しかわいそうに思うしクルスシア。
「あっ!でも、今日は大丈夫です。ちゃんとした理由がありますから。」
「そう、ならいいけどさ…それって、どんな理由?」
「ええ、実は、二つほど質問があって…」
「え、質問?」
質問というのがここに来る理由になり得るのかな…と思いつつ、セシリアの話を聞く。
「はい。聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
真面目な顔つきになったセシリアを見て、大体どんな質問をされるか予想がつく。
(普通に考えて、不老不死のことと1代目ビクトール王国国王について、だろうな…)
「うん。構わないよ。なんでも聞いて。」
「ありがとうございます。では、一つ目の質問です。」
「うん。」
ゴクリと唾を飲むクルスシア。
「まずクルスシアは、300年以上前に死んだはずの伝説の科学者で、不老不死、なんですよね?」
伝説の科学者、その言葉にムズムズするが、今は気にしない。
「うん。その通りだよ。」
僕の言葉を聞いて改めて驚くセシリア。
「で、では、クルスシアは、現在、何歳なの、ですか?」
その質問を聞いて、少し拍子抜けする。
(なんだ、どういう仕組みで不老不死なのか、とか聞くのかと思ったのに…そんなことか。)
「17歳、だよ☆」
「…はい?」
僕の答えに目を丸くするセシリア。
「いやいや、そんなわけないですよね?記録によればあなたは300年以上前から生きていて…」
「17歳、だよ☆☆」
「いえ、だから…」
「17歳、だよ☆☆☆」
キラキラとした笑顔で答える僕。
(本当は、自分の正確な年齢なんて把握してないだけなんだけどね…まぁ、調べれば簡単に分かるけど、知りたくない、というのが本音だから。)
心の中では本当のことを言う僕。
「そう、ですか…さっきなんでも聞いてって答えたのにそういうんですね…」
ジト目で見てくるセシリア。僕は気まずくなってもう一回言おうとする。
「だから、じゅうな…」
「あなたが17歳なのはわかりました!!」
若干キレ気味で話してくるセシリア。
「そんなに怒ることないでしょ?」
「まあ、いいです。所詮、興味本位で聞いたことではありましたからね…」
「えっ?そうなの?!」
(真面目に答えを返した(大ウソ)僕が馬鹿みたいじゃないか!)
呆れた僕をよそに、話を進めるセシリア。
「でも、次の質問は大事なものです。こちらはしっかり答えてくださいね?」
「う、うん。」
「昨日、私は歴代のビクトール王や女王の写真が載ったアルバムを見ました。」
「…それで?」
「その中の1番古いものの中にこの写真がありました。」
そう言ってドレスのポケットから一枚の写真を取り出すセシリア。そこには、1人の少年と、1人の少女がいて、第1代目ビクトール王国 国王、クルスシア・ビクトールとその王女、と書かれていた。
「見覚え、ありますよね?」
そう言われて、差し出された写真をまじままじと見る。
「…懐かしいなぁ、まだこんなものが残っていたとはね。」
僕の反応を見て、1人で納得するセシリア。
「やっぱり、これはあなたなんですね。クルスシア。」
「うん。そうだよ。今から300年以上前になるかな?ビクトール王国を作った僕は1代目の王になったんだよ。」
それを聞いてため息をつくセシリア。
「はあ、そうですか…伝説の科学者が1代目の王とは、あまり知られていない事なので、私もつい昨日それを思いだしてアルバムを探してみましたが、まさか本当にクルスシアが1代目だったとは…」
まじまじとクルスシアを見つめるセシリア。そして、重い口を開く。
「代々、ビクトール王国の王族は、王や女王の伴侶以外は世襲です。つまり、クルスシアは、私の…」
そこで息がつまるセシリア。そんなセシリアに変わって話し始めるクルスシア。
「先祖、という事になるね。」
止まってしまったセシリアの言葉の続きを、話すクルスシア。
「やっ、ぱり…」
その場の空気が一気に重くなる。
「…」
「…」
1秒1秒がとても遅く感じられた。
「クルスシアは最初から…その、気づいてたのですか?」
そんな重い空気を押しのけて話すセシリア。
「うん。むしろ、気づかない方がおかしいでしょ?君が王族なのは有名だし、君が女王である以上、僕の子孫なのは確定事項だよ。」
その言葉を聞いておし黙るセシリア。そして、僕を見つめる。
「そうですか…でも、だったら!!」
その言葉は少し震えていた。
「…なんで、もっと早く会いに来なかったのか?」
僕に自分の言いたい事を言われて黙ってしまうセシリア。
「…」
「いいよ、君は君が言いたい事を言えばいい。言うまでに時間がかかるのなら、いくらでも待とう。落ち着いて、ゆっくりでいいから、言いたい事を言って?」
僕はセシリアに不満を言わせるように促す。
(仕方ない、この際だ。彼女のストレスを発散させよう。彼女自身は気づいていないけど、このまま不安や不満が溜まっていくと、セシリアはいずれ壊れてしまう…それに今はこうするしか、僕にはないんだ。せめてもの、君への償いだよ。)
「で、でも、そんなの、女王らしくないですし…」
「女王らしく、なんで気にしないで。僕は女王と話しているんじゃない、君の親族として、友達として、話しているんだよ。君の思いを聞かせて欲しい。言いたい事を全部言ってみてよ、セシリア。」
「え、?いや、でも、やっぱり…」
僕に言われてもまだ、ためたストレスを吐き出す気にならないセシリア。
(よし、多少粗っぽくはなるけど…誘導しよう。)
「ねえセシリア。君は、自分の両親が不慮の事故で死んだ時に、どう思った?」
「…悲しいと、思いました。」
「本当に、それだけ?他に、何かない?」
質問形式でセシリアの心の内を探っていく。
「別に、特に、は。」
言葉がつまるセシリア。
「ほんの少しだけ思ったことでもいいんだ。本当に、何もない?」
「…酷い、って、思いました。」
「どんな感じに?」
「私を、置いていって、私を、1人にして…」
うつむくセシリア。その表情は一見かなしそうだが、言葉の一つ一つからは怒りが感じ取れた。
「周りに対しては、どう思った?酷いと、思った?」
彼女が少しずつ自分の気持ちを語り出したので、今度は質問を変える。
「ええ、思いました。誰も、私を助けてくれませんでしたから。」
「助けてくれないって、具体的には、どんなこと?」
「話しかけても、私のことをちゃんと見てくれないんです。目を見ないで、上の空で話して、誰も私のことを助けようとしてくれなかった!!誰も!誰も!私に慰めの言葉をくれもしなかった!!ただ、次の女王が、私だから、教育だけさせればいい、そう言っているのを影で聞いたんです。…」
話しに熱がこもってくるセシリア。目からはぽつぽつと涙がにじんできていた。
「そっか、それはとても辛かったね…」
僕はわざと同情する。
(これで、彼女が喰いつけばあとは勢いで…!!)
「それは、とても辛かったね?ですって?」
うつむいて泣いていたセシリアが急に僕の方を向く。
「だって、僕だったら耐えられないよ…そんな状況。」
さらに煽っていく。その言葉を聞いて目を見開くセシリア。その目には怒りが込められており、その目から頬に向けて、一筋の涙が伝った。
「なんで…」
「え?」
「なんで、なんで!なんで!!なんで他人事みたいに言うんですか!!」
怒りで顔を真っ赤にするセシリア。僕は自分の作戦がうまくいったことを確信する。
(後は、僕がセシリアからの言葉を耐えるだけ…)
罵倒を浴びる覚悟をする。
「あなたは、私の親族なんですよね?だったら、私のところに来てくれてもよかったじゃないですか!!私の話し相手になってくれてもよかったじゃないですか!!!なのに、あなたは、私から会いに行くまで決して私に会おうとしようとはしなかった…目的のためとか言ってましたけど!?どんな目的かは知りませんけど!!でも、私に会いに来てくれても、よかったじゃないですか!!私のことなんてどうでもいいんですか?なんで、なんで、なんで……」
大粒の涙をこぼしながら一気に話すセシリア。それを見て、大事な目的のためとはいえ、自分が彼女に酷いことをしたことを改めて認識する。胸が痛い。頭がキリキリする。こんなことなら、セシリアのストレスを発散させるなんて、やらなきゃよかった、そう思いかけてその考えを振り払う。
「なんで私を見捨てたんですか!!!」
その言葉を聞いて、僕は頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。
(僕は…そこまで君を追い詰めていたのか…)
僕は無意識に椅子を立ってセシリアの座っている椅子の横に立つ。そして、そのまま座っている彼女を抱きしめた。自分でも、なんでこんなことをしたかはよくわからない。体が勝手に動いた、というのが正しいいだろう。
「えっ??」
僕の行動に驚いたのか、ビクッとするセシリア。
「ごめん。謝って済むことじゃないのは、わかってる。あの時の僕にはどうしても動けない理由があったんだ…でも、君を見捨ててしまったことは後悔してる。なんらかの手段で君にアプローチを取るべきだった。それだけは、わかってほしい!!」
「…どう、して?」
僕が言葉を言い終えると、体から力が抜けていくセシリア。
「どうして、って、なにが?」
僕が一方的に抱きしめたままの状態で話を続けているため、お互いの顔は見えない。
「クルスシアは、きっと悪くないのに…優しい、あなたの事なのだから、私に会おうとしていたんでしょ?」
急に体から怒りが抜けて冷静になるセシリアに、不意を突かれる僕。
(確かに、僕は何度もセシリアに会おうとした。でも、その手段が見つかるまで、もっとたくさんの事をやるべきだった…)
「…」
「その反応、やっぱり、ね。そうよね。あなたが、私を見捨てるわけがないわよね。なんでこんな簡単な事にも気づけなかったんだろう、私。って、あれ?そう言えば、さっきからクルスシアの言葉がいつものクルスシアらしくなかったような…?」
僕の耳の後ろで話すセシリア。その言葉にぎくっとする僕。
「まさか…クルスシア、もしかして、私のために?」
「…」
「やっぱり、そうなのね。でも、どうして?」
もう平静を取り戻したセシリアだったが、その声はまだ若干震えていた。
「セシリアは自覚がないかもしれないけど、君は自分の中にストレスを溜め込んでいた。通常は誰かに話せばそのストレスは発散できる。だから、君は無意識のうちに友達という自分の事をなんでも話せる人を求めていた。でも、君は女王だ。そんな事を話せる人なんてそうそう見つからないだろう。このままでストレスのはけ口が見つからず、原因不明の鬱病になったり、最悪自殺の危険性があったんだ。だから、君が僕に質問をしてきたタイミングで君のストレスを一気に解放させたんだよ。多少荒っぽいやり方だけどね…」
僕の答えに少し黙るセシリア。
「でも、そんな事したら、私があなたに酷い事を言う事くらいわかってたんじゃないの?なのに、なんで…」
(こんな時まで人の心配をするのか…やっぱり、君はつくづく優しいね。)
心底そう思う僕。
「勝手だけど、それくらいは僕としての罪滅ぼしの一環、だよ。」
僕の迷いのない回答にそんな事必要ないのに、というセシリア。
「本当に…」
そう言って僕の背中に手を伸ばしてくる。
「クルスシアは、優しいのね!」
僕を抱きしめて言ったその言葉は、明るいものだった。表情を見なくても、笑顔で言っている事がわかるくらいに。ただ、その声はまだ少しだけ、震えていたのだった。
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「なんだか、とってもスッキリした気分!」
満面の笑みでそう話すセシリア。
「それはよかった。でも、もしも気分が暗くなったりしたら、その時はまた僕に言ってよ?その時はまた、君の友達として、セシリアの話に付き合うよ。」
また彼女がストレスを溜め込まないように、念のために話す僕。
「うん、わかってる。あっそうだ、私、そろそろ行かないと!ルーナに怒られちゃう!!」
そう言って急いでイスから立ち上がるセシリア。そして、彼女を見送るために僕もまた立ち上がる。
「もし、ルーナさんに怒られそうになったら僕のせいって事にしていいからね?実際そうなんだしさ。」
「あはは、大丈夫だよ、今日はちゃんとルーナに長くなるかもって伝えてあるから。」
親指を立てて大丈夫だという事を表現するセシリア。しかし、そう言った庶民的な動作には、まだ慣れていないようで、その動作はぎこちなく、少し照れ気味だった。それを見て僕も…
「そっか、ならルーナさんによろしく言っておいて!」
と言って親指を立てる。そして、2人でクスッと笑う。
「じゃあ、私行きますね。今日は本当にありがとうございました!」
「いいんだよ、君はそんな事言わなくて。言ったでしょ?非は僕にあるからさ。気にしないでよ。」
「もう、そんな事ないって言ってるのに…」
僕を見て呆れる彼女。やっぱり、前よりも明るくなった気がする。
(うん、よかったよかった!!)
僕が頷いていると、何かを思いついたように、あっ!というセシリア。
「どうかした?」
「いえ、忘れ物をしてました!ちょっと家を見てください!」
(あれ?セシリアって今日は家の中に入ったっけ?ずっと庭にいたような…ていうか、いつも手ぶらだし、忘れ物ってなんだろう?)
「今日セシリアが家に入った記憶はないと思うけど…うん。探してくるよ。」
そう言って家の中へ何かも分からない忘れ物を探しに行こうとすると、
「あぁっ!違います違います、違いますよ!ここに立った状態で、家だけ見ててください!」
と言われ、引き止められる。
「みてるだけじゃ見つからないと思うけど、ていうか探しものってなに?」
僕がそう言うと、いいから、としか言わず、僕はその場に立って家を見つめる。セシリアから見ると、僕の横顔だけがみえている状態だ。
「これで、いいかな?」
「いいって、なに…」
何が?そう聞こうとした時だった。
「ちゅっ!」
という音と頬に伝わる柔らかい感触に僕の言葉は遮られた。
「へっ?!」
突然の事に、驚く僕。
「じ、じゃあ、私行きますね!」
しかし、そんな僕をよそに、顔を真っ赤にして空の霧へと消えていってしまうセシリア。
「…なに、あれ?」
僕は1人置いていかれる。
「なぜゆえに、いきなりほっぺにキスされたの、僕?恋愛感情…はまずありえないから、愛情表現的な何かかな?お父さんと娘的な?ていうか、忘れ物は?」
僕はこの後もずっと悩み続ける事になるのだった。
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セシリアが王城へと戻ってから4時間ほど経っただろうか?気がつくとあたりは夕焼け色に染まっていた。
「あれから少しのんびりしていただけだと思ったんだけどな。」
空を見つめていい気分になる僕。ふと、ポケットから薄い端末を出す。その端末はスマートフォンに似ていたが、重さはまるでなく、画質もはるかに綺麗に表示できるもの、つまりスマートフォンの進化系のようなものだ。
「エルドとメルにセシリアの写真を見せてもらってから、もう14年も経つのか。はぁ、時間が経つのは早いなぁ。」
老人のようなことを言って(実際老人なんだけどね…)セシリアの両親、つまりエルド・ビクトールとメル・ビクトールから昔に送られてきた写真を端末で見る僕。そこには、まだ一歳のセシリアの姿があった。ゆりかごの中で寝ている写真だ。その写真を見ていると、なんだか、不思議な気分になってくる。写真を見終えると、僕は、視線をゆっくりと沈んでいく夕日に移して1人でつぶやく。
「こんな気持ち、いつぶりだろう…」
しだいに、なんだか眠くなってきた僕は、無意識に目を閉じていく。呼吸の一つ一つが耳で反響して、意識が落ちていく。そろそろ眠るのかな、薄れゆく意識の中でそう思ったその時だった。
「づ?!ゲホッ、ゴホッ!!!」
目を閉じて眠りかけたその瞬間、胸に違和感を感じて、急に咳き込む。いきなり咳き込んだため、何が起きたのかよくわからずに、いつもの感覚で口に手を当てる。
ウトウトしてたときにした咳だったので、一気に目が覚め、口を押さえていた手を外す僕。手には、生ぬるい感触がしていて、唾液が飛んだのかと思った。手を洗わなくてはいかない、そう思って手を見る僕。
「なっ?!」
口を押さえていたその手は、真っ赤に染まっていた。僕は状況を確認するために、目を動かす。すると、動かした視界から、真っ赤に染まったのは手だけではないことがわかった。違和感を感じていた、僕の胸、丁度心臓のあたりも、真っ赤になっていて、その液体が、ブシャーーという音を立てて吹き出す。目の前に広がる赤い色。やがて、僕の意識が状況を把握し始める。僕の胸元、つまり心臓からは、血液が吹き出していた。
直後、凄まじい痛みが僕の胸をつん裂く。
「うッぐァアアあああああああああああああ!!!!」
あまりの痛みに、絶叫しながら、イスから芝生へとまともな受身も取れずに落ちる。そして、その衝撃によって、体の中から口へと、どろっとしたものが一気に流れ込んでくる。
「ゴボァッ、ゴフッ!!」
再び口から大量の血液が出てきて、あっという間に芝生が赤色に染まる。
自分の血で息ができず、さらなる苦しみが僕を襲う。
「ゴバァッグヴッボゴォアァァァァ!!!」
声にならない絶叫が出る。その時、涙でにじんだ目から、うっすらと、僕を見つめる人影が見えた。
「こんな気持ち、いつぶりかな…ねぇ、クルスシア?」
そのセリフは、さっき僕が言っていた言葉を、僕を馬鹿にするように真似していて、しかし、とても明るい口調だった。
二、三日かけてしまったせいで、だらだらと長くなってしまいました。あと、相変わらず話の展開とか意味わかんないですね。わかっているけど治せない…と、それは置いておいて。とりあえず、次回からは二、三日に一回更新するようにしたいと思います。