プロローグ(3)
書く前からすでに疲れているので、とてもひどい文を書いてしまう気がします。というか、頑張ってもそんなのしかかけません。すみません…でも、そんなんでも読んでくれたら嬉しいです。
目の前に広がるのは果てしない草原、そして…
「嘘、なんでこんなところに?しかも、あれは…もしかして、プリスの言っていた十万人の軍隊なのですか?」
恐る恐る訪ねてくるセシリア。
「うん。どうやらそういうことみたいだね。」
クルスシアは落ち着いて言葉を返す。
「いったい…どうやったのですか?」
まだ現実が飲み込めていない様子のセシリアを見て苦笑いするクルスシア。
「まあ、そういう反応をしても仕方ないよね。」
その様子から、この程度の事は彼にとってはなんてことのないものなのだ、そう感じて、改めてクルスシアが伝説の科学者なのだと思う。
「ほら、空間把握技術って、僕の開発した技術でしょ?」
「え、ええ。」
「いろんな人や国が作る空間把握技術の道具は、基礎となるものがあるから、ある程度はみんな一緒なんだよ。」
「そ、そうなのですか?!」
初めて知ったことを聞いて驚くセシリア。
「私、空間把握技術を使うために必要な道具は形状がたくさんありますから、それぞれ全く違うものなのかと…」
そう言って、自分のネックレスについた石のようなもの、つまり彼女の道具を見つめる。そこには不思議な模様が描かれている。
「確かにそうだね。でも、僕の道具も。君の道具も、見た目が違うだけで大体は同じなんだよ。例えるなら、車かな?見た目が違って、ボディはたくさんあっても、エンジンが動力でガソリンを使っているのは同じでしょ?」
自分の右手につけた指輪、つまりクルスシアの道具をセシリアに見せる。これもセシリアのものと同じような模様が刻まれていた。
「なるほど…でも、なぜそんな話を?」
クルスシアが自分の聞いていることとは違う話をしてついる理由がいまいちつかめないセシリア。
「簡単だよ、どんな空間把握技術も、粒子を動かせる道具がなくては使用できない。そしてそれらは見た目は違っても大体中は同じ。それで…」
「それで…?」
「僕は道具の、空間把握技術を使う上では欠かせない部分に、製作者の意思を入れたんだよ。」
「ますたーこまんど?なんですか、それは??」
質問をしてくるセシリア。
「僕を認識して、意思を反映する仕組みのことだよ。つまり、全ての空間把握技術は、既存のものも、新しく作られたものも…全て僕の支配下にある、ということさ。」
これでわかったかな?という、クルスシアの視線になんとも言えない表情をするセシリア。
「全ての、空間把握技術、が、クルスシアの、支配下??え?え?」
(あー、パンク寸前だけど…まあいいか、戦いまでそんなに時間はないからね。)
セシリアを無視して話を続けるクルスシア。
「それで、君の言っていた質問に対しての答え、こどうやってここへ来たのか、についてなんだけど…」
「は、はい。」
セシリアは考えることをやめたようだった。そのあまりにもスケールの大きい話に、考えても無駄だと悟ったのだろう。
「さっき言った製作者の意思には、もう一つの力があるんだよ。」
「一つ目ですでに凄まじいのに…もう一つ、ですか?」
「そう。これが君の質問への答えになる。」
「は、はい…」
すでに少々頭がパンクしているセシリア。
「製作者の意思によって、普通にはできないことを、僕だけができるようにしているんだ。」
「クルスシアだけ、が?」
「うん。この仕組みは、僕が製作した道具でしか使えない能力なんだけどね。製作者能力っていう粒子を限りなく精密に、通常の空間把握技術の100倍、くらいかな、操ることができるようにするものだよ。さっきの、転移粒子を操る精度を上げることで可能になる、移動したい場所と今いる自分たちの肉体の粒子をそっくりそのまま入れ替える、というものだよ。彼の居場所は、ここへ来る前に彼に居場所発信をつけていたからわかったんだよ。」
つまりはそういうこと、と締めくくるクルスシア。
「え、はい、なるほど…?」
しかし、突拍子のなさすぎる話についていけていないセシリアだった。
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「なんだとっ?!なぜやつらがここにいる!」
偵察兵からの、500メートルほど前方に2人の人物がいる、そう聞いたプリスは双眼鏡を手に取り驚愕した。
「くそっ!この私ですら今さっきここに到着したのだぞ…!私よりも遅くあの城を立ったはずの奴らが、なぜ、すでにここにいる!」
怒りて臨時的に設置されたテントの中で机を叩くプリス。
しかし、今の彼にはあの2人がどのようにしてここまで短時間でこれたのかを考える時間も、自分の身に着いた居場所発信装置に気づくこともできなかった。
「急いで、全科学武装兵に伝えろ!少し予定よりは早いが、今から戦争だ。相手は…伝説の科学者だ。」
プリスの言葉に緊張が走る上官たち。そう、この場においてプリスは最高位の指揮権を持っていた。そして、その彼は、かのクルスシアを、倒せねばビクトール王国は支配できない、そう考えたのだ。
(それに、今からビクトール王国に進軍しても、あいつが止めようとするだろうから…結局は同じことだ!!)
プリスが1人で考えていると、上官たちから報告が入る。
「全科学武装兵、準備整いました!いつでも進軍できます!!」
その言葉を聞いて、満足気な表情で立ち上がるプリス。
「いくら伝説の科学者だとしても…十万の科学武装兵は相手にできまい!こちらの勝利は成功したようなものだ!」
科学武装兵とは、全ての兵士がなんらかの科学的武器を持ち合わせた部隊のことだ。その武器の一例としては、空間把握技術もあり、この大規模な部隊において、大きな強みの一つと言えた。
そして、テントから出るプリス。遥か先まで一列に揃った兵を見て言う。
「目標、前方の2人!女は生け捕りにし、男の方は殺せ!!さぁ、全軍、進撃せよ!!!」
オオおおおお!!プリスの言葉に反応して、雄叫びをあげながら勢いよく進み始める兵士たち。しかし、進むと言っても歩きではない。空間把握技術、〈飛行〉を使った高速移動で、だ。目標は、たった2人の少女と少年。この時、ロゼッタ帝国の者全てが勝利は自分たちの者だと疑っていなかった。
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「ど、どどどどうしましょうクルスシア!話をしてたら進軍してきちゃいましたよ!」
慌ててクルスシアにすがるセシリア。
「うん、そうだね。」
返事をするクルスシアは全く慌ててはいなくて、ひどく冷静だった。
「ちょ、ちょっとぉ!!何冷静に言ってるんですか!このままだと、ビクトール王国支配されちゃいますよ!」
「大丈夫大丈夫。まぁ、僕に任せてよ。空間把握技術〈拡声〉!」
自分の指輪が光りだしたのを確認すると、大きく息を吸い込むクルスシア。
敵軍は、すでに残り400メートルを着るであろう地点まで来ていた。
「え?なんで、今それを…??」
セシリアには見覚えがある技。これはスピーチの時などで使う、文字どおりのメガホンだ。
『ロゼッタ帝国軍のものに告ぐ!!僕は攻撃をする気のない者には何もしない!!戦う気のない者は、今すぐこの場から立ち去って欲しい!!!!!』
彼の忠告は、ロゼッタ帝国軍にも十分に聞こえる声だった。しかし、そこにいるのは自分たちの勝利を疑わない者だけ。たった1人で何ができる、まさに各々がそう思っていたのだ。
ロゼッタ帝国軍は再び雄叫びをあげてさらに勢いよく進行を続ける。
そして、それを見て悲しそうにするクルスシア。
「はぁ、せっかく逃げる機会を与えたのに…結局はいつも力づくか…」
その言葉を聞いて先ほど、彼が空間把握技術を行使した理由がわかったセシリア。彼は、敵である彼らにでさえも、逃げるチャンスを与えたのだ。彼女はクルスシアの優しさに感動しつつ、彼と同様の悲しさを抱いた。
しばらくすると、クルスシアは顔を上げて右手を、正確には右手につけていた指輪を敵に向ける。
「空間把握技術、製作者の意思〈空気障壁〉!!」
そう言うと、クルスシアの指輪から閃光がでて、ロゼッタ帝国軍全体を包み込み、弾ける。
しかし、その光はすぐに消え、ロゼッタ帝国の軍隊の方も、何事もなかったのかのように進軍し続けていた。
「クルスシア、今、何をやったの?」
「なんでもない。じきにわかるさ。」
セシリアの質問に答えないクルスシア。その直後、クルスシアの顔はすぐに300メートル手前まで来ている軍隊を睨む。
「僕の作ったビクトール王国に手を出したらどうなるか、その身をもって教えてあげるよ。」
一瞬だけおぞましい笑みを浮かべる。
「クル、スシア?大丈夫、なの?」
その表情が恐ろしく、いつも見ている顔とは違い、ぞっとしたセシリア。
「うん、大丈夫だよ。だから、君は後ろに下がってて。」
「わ、わかった。」
すぐにいつもの表情に戻ったクルスシアに言われて少し後ろに下がるセシリア。それを確認すると、クルスシアは再び右手を前に出す。しかし、今回は左手で右手を支えるように掴んでいた。
「空間把握技術、製作者能力…」
そう言って手に力を込めるクルスシア。すると、右手の指輪から光が放出される。それは、これまでのような全ての場所に向けて光るものではなく、ロゼッタ帝国軍の頭上付近に集中されていた。
ロゼッタ帝国軍の頭上に投影され続ける光は次第に線となり、その線が重なっていき、幾つかの大きな正方形の面になった。それらは、十万の兵をも軽く覆い、影を作る。そして、その状況を確認したクルスシアは右手を素早く上に上げる。すると、今まで正方形だった幾つかの面は高さをつけていき、巨大な、立方体となった。
「な、なんだ…これは?」
兵士の1人が動きを止めて上を見上げる。そして、それにつられていくように1人、また1人と動きを止めていくロゼッタ帝国軍の兵士達。
そして、それは最高位指揮権を持つプリスでさえも同じであった。
「なんだ、これは…十万の兵の頭上に3つの巨大な方体、だと?!しかも、完全に全ての兵を覆い尽くしている!!」
その異常な光景を見て改めてあの少年が伝説の科学者なのだと思うプリス。
クルスシアの後ろでも驚愕している人物がいた。
「あ…なに、あれ?いや、え?巨大、すぎま、せん?」
もはや文になっていない言葉を並べるセシリア。彼女もまた、クルスシアのことを、改めて伝説の科学者だと認識したのだった。
その様子は御構い無しに、この状況を作った張本人は立方体を維持するために集中していた。そして、しばらくすると、クルスシアはキッと空を睨む。
「〈箱崩し《バースト》〉!!!」
そう言って、開いていた手を一気に閉じる。
その瞬間、キュウウゥゥゥっという音を立てて一瞬で、巨大な立方体3つがが小さくなり、一気に爆発する。それは、空気の衝撃波による、強大な爆発だった。
「う、そ…ですよ、ね?」
セシリアは目の前で起きたことが信じられない、といった様子だった。
「あの、クルスシア、あれ、どうやってあんな爆発を…」
うまく言葉がまとまらないセシリア。しかし、その質問の意味を汲み取って、前を向いていたクルスシアが振り向く。
「やってること自体は大して難しくはないさ。空間把握技術で粒子の薄い膜を作って、それを面にして、立方体にした。あとはそれを一瞬で圧縮するだけ。そうすれば、急激な圧縮によって空気は大規模な爆発を起こす。そう言った原理だよ。今回みたいなたくさんの敵がいるときにはとても便利な技なんだ。」
いつも通りの口調で語るクルスシアに、呆れるセシリア。
(粒子による面の形成?!空気の圧縮?そんなことするのに、どれだけの集中力と体力がいるのか…しかもそれを短時間で…)
空間把握技術は、基本的には道具に埋め込まれたコンピュータによって使用者の意図通りに粒子を制御しているが、コンピュータでは制御できないレベルの規模のことをやろうとすると、人間の脳を使ってコンピュータと同じことを使うことになる。そのため、普通の人間では、大規模な空間把握技術は使えない。粒子1つ1つの制御という、あまりに膨大な情報量に脳が耐えきれなくなってしまうからだ。
(なのに、クルスシアはあんなにすごい空間把握技術を…)
「これで、3分の2くらいの敵戦力は削れたかな…」
クルスシアがそう言うと、爆発によって出ていた煙が引いていく。彼の言葉通り、残った兵士はだいぶ少ないようだった。
そして、その中に1人、一際目立つものがいた。プリスだ。
「ぐぅ…なんて力だ。あと一歩防御体制をとるのが遅れていたら、とそらく私もやられていたでしょう。」
そう呟くプリス。
「どうやら、部下達では彼の相手はできなそうですね…仕方がありません。私が相手をしましょうか…」
1つため息をついてポケットから小さい銃を取り出す。
「空間把握技術、〈武器武装〉!!」
プリスがそう言うと、小型の銃が光り出す。
そして、光が治る頃には、それまでの大きさとは比べ物にならない、バズーカのようなライフルがプリスの手の中にあった。彼は周りにいるまだ動けそうな者を集める。
「粒子砲を行う!充填しろ!」
プリスがそう言うと、20人ほどの兵士がプリスの持っているライフルに向けて空間把握技術で粒子を送り出す。
はじめは何も変化はなかった銃だったが、送られる粒子が増えるにつれて、次第にその銃口が伸びていく。
2分ほどすると、ガチャッ!という音がして、銃口が伸びきる。そして、それを地面にセットするプリス。
「ククク、これは空間把握技術を使った粒子充填型砲台、粒子砲だ。1人の粒子充填でも1つの森が消え失せるレベルのものだが、今は20人以上の充填があった。間違いない、あの少年は今度こそ終わるだろう!!」
そう呟くと照準をクルスシアに合わせるプリス。
(今までは土地が消滅して使い物にならなくなってしまうことを恐れていたが、今はそんなことを言っていられる余裕はない。したがって、土地がどうなろうと、あの伝説の科学者ごと消滅させる!)
引き金に指を当てるプリス。今度こそ、終わりにするつもりなのだろう。
そのころ、セシリアは次に迫り来る攻撃について恐怖していた。
「クルスシア!大変よ!!あの人達、私たちに向けて粒子砲を撃とうとしてる!そんなことされたら、この先にあるビクトール王国まで被害が出かねないわ!」
セシリアの異常な剣幕に少しも悩む表情をみせないクルスシア。
「大丈夫大丈夫。なんとかするよ。」
そのあっけらかんとした顔に危機感を覚えるセシリア。
「なんとかって…そんなことできるわけ、」
ないじゃない、そう言おうとして踏みとどまったのは、先ほど見た光景が頭に浮かんだからだ。あれだけ大規模な爆発を起こせたんだから、次もなんとかなるのでは?そんな気がしてくる。
「あっ!来ますっ!!」
セシリアが指さした先には、引き金を引こうとしているプリスがいた。
「クックック、今度こそ、終わりです!!」
そう言って引き金を思いっきり引くプリス。
その瞬間、何人もから集めた粒子が圧縮された後に爆発し、長く伸びた銃口から音速を超えた弾が飛び出て、あたりに衝撃波が起きる。300メートル先の少年めがけて。
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時間は少し戻り、引き金を引こうとしているプリスを見たクルスシア。
「僕と同時にセシリアも同時に消そうとしてる?!もう生け捕りにする気はなくなったのか…仕方ない。」
そう言うと、再び手を前にかざす。
「空間把握技術、製作者の意思〈防御障壁〉!!」
クルスシアがそう言うと指輪から光が発せられ、一瞬のうちに一枚の少し板を作り出す。厚みは5センチほどだが、幅と高さはクルスシアとセシリアをすっぽり隠せるほどはあった。
クルスシアが障壁を展開させたのと同時に、プリスによって銃弾が発射され、瞬時にクルスシアとセシリアの元へたどり着く。
その瞬間、キュイイイイイィィィインン!!という大きな音を立ててクルスシアの前で展開されている障壁と凄まじい勢いで進みながら回転する弾丸が衝突する。動きが止められる弾丸だが、その回転は止まらない。そして、クルスシアの方は涼しい顔をしている。
「空間把握技術を開発したのは僕なんだから…僕に通じるわけないでしょ…」
そう一言だけ呟くと少し足に力を入れて踏ん張るクルスシア。すると、弾丸の回転速度がみるみるうちになくなっていき、しまいには完全に動きがなくなる。そして、地面に落ちる。
「う、そ…普通なら山1つ消える威力のはずなのに…」
クルスシアの常人離れした力に驚くセシリア。
「弾丸の威力を逃したんだよ。あとは単純な力比べさ。何もしないと障壁は力で押されてしまうから、常に僕を障壁ごと〈転移〉させてたんだよ。だから競り負けなかった。それだけさ。」
淡々と説明するクルスシアに呆れるセシリア。
そして、プリスはというと…
「嘘だ…ありえん、そんなことは。この威力を打ち込まれたら…普通は跡形もなく消滅するのだぞ?な、なのに、き、ききき、傷ひとつついていない、だと?こ、これが、伝説の科学者の力、なのか…」
ガクッと膝から倒れるプリス。そして、それを見ていたロゼッタ軍の者も、もう助からないと思い、逃げ惑うもの、絶望するものがいた。
そんなプリスの様子を遠くから冷徹に眺めるクルスシア。
「ビクトール王国に手を出すからこうなるんだよ…空間把握技術、製作者の意思」
そう言って先ほどと同様に右手を前に出すクルスシア。指輪からは今までとは比べ物にならない量の光が放出されており、もう三分の一しか残っていないロゼッタ軍の頭上に容赦なく巨大な立方体が出現していた。
しかし、クルスシアが出現させた立方体は3つではなく、一つだった。ただし、その大きさは、それまでのそれとは比べ物にならなかった…
「な、なんだ…あれは…さっきのと、全然、大きさがちがうぞっ!!!なんだよ、なんだよ、あれ…」
頭上を見た1人の兵が叫ぶ。そして、それにつられてどんどん頭上を見てさらなる絶望に追い込まれる兵達。彼等はここで理解する。自分たちは、決して手を出してはいけないものに手を出してしまった…と。
「ク、クククッ。ふふふ、ふはーっ!はっはっは!!」
中には錯乱してしまったものもいた。この事態を引き起こし、行動を起こした張本人、プリスだ。
「そうか、私はわかっていなかったのか!!ははははは!あーっはっはっはっ!あの国には手を出してはいけなかった!!なるほど、休戦状態が続くわけだ!あははははは!!」
目からは涙を流して自分の行動の愚かさを感じるのだった。
その光景を見てかわいそう、とは思わないが、気の毒だとは思ったセシリア。
「プリス…」
彼女の頭には、ひどいことをされた時の記憶よりも、今まで自分に優しく奉仕してくれていた時の記憶のほうが強く残っていた。セシリアはクルスシアに目を向ける。
クルスシアは相変わらず冷徹な目つきで、絶望しているロゼッタ軍に容赦なく自国に手を出したことへの罰を与える。
「〈破壊〉!!!」
開いていた手のひらを閉じるクルスシア。それに反応して立方体が一瞬に圧縮される。その光景は、先ほど見たもののようで、それとは比べ物にならない、圧倒的な迫力を持っていた。ギャルルルルルルルルルッ!!!!その音は空気が一瞬で圧縮されたことによる衝撃波が生み出したものなのだろう。しかし、その音が鳴り止む前に、辺りに轟音が響く。空気の瞬間圧縮による大爆発が起きたからだ。この攻撃によって、ロゼッタ軍の科学武装兵10万はたった1人に負けた。
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「ふー、これで終わったね〜!」
そう言ってすっきりとした笑顔を浮かべるクルスシア。少し先の方のロゼッタ帝国の科学武装兵がいた場所にはまだ爆発による煙が充満しており、全くその中が見えない。
「は、はい。そうですね…」
セシリアはクルスシアに対して返事をする。しかし、敵とはいえここまでたくさんの人が死んだということを考えると、あまりいい気にはなれなかった。
(ビクトール王国に攻め入ろうとしたとはいえ、ご冥福を祈ります…)
心の中でそう思うセシリア。その表情は暗く、重たかった。しかし、彼は違った。
「さて、問題は山積みだよ!セシリア。まず、次の執事決めでしょ?この場所の収集のつけ方…これを国民に伝えるかどうかとか。公務がたくさんあるよ。あ、でも。今は今回の無事を祝って何か美味しいものでも食べようか…僕、腕をふるうよ!」
「そ、そうですね。ありがとう、ございます…」
嬉々として語るクルスシア。
(なんで、クルスシアはあんなに楽しそうなの?敵とはいえ、沢山の人々が死んだのに…あんな、いつも通りの笑顔で…)
彼の楽しそうないつもの姿を見てぞっとする。
「それで、何を食べようか?勝負事に勝ったんだし、肉がいい?…って、セシリア聞いてる??」
クルスシアに聞かれてハッとするセシリア。
「す、すいません。聞いていませんでした…」
その様子を見て何かに気づくクルスシア。
「セシリア、顔色が悪いね…もしかして、人がたくさん死んだから敵とはいえ悲しい、みたいなこと思ってたりするかい?」
「えっ?!…」
まさに自分が思っていたことを聞かれて動揺するセシリア。
「いいんだよ、セシリアはそんなこと気にしなくて。」
その言葉を聞いて、少しカチンときたセシリア。
「そんな事…って!人がたくさん、考えられないくらいの人が死んだんですよ?!なのに、どうしてクルスシアは平気でいられるんですか!!どうして、そんな楽しそうにしていられるんですか!!」
クルスシアにとっては、今までで初めて見る彼女の顔、つまり怒った顔。
(自分が敵に拉致されそうだったのに…その人たちのために、そんな顔もできるんだね。やっぱり、君は優しいよ。)
微笑むクルスシア。
「ごめんね、君には言い忘れてよ。」
「言い忘れてた?なにを、ですか!!」
キレ気味のセシリアをなだめつつ話し始めるクルスシア。
「誰も死んでなんかいないよ。」
「えっ??いや、そんなはずは…私は、確かにこの目で見たんですよ!?」
「見たって、彼らが死ぬところを?」
そう言われて少し黙るセシリア。
(そう言われると、直接は見ていない…?)
「で、でも!大爆発が…!!」
「うん、確かに爆発は起こした。でも、彼らは死んでない。」
「で、でも、そんなはずは…」
その言葉に対して、あれを見てよ、そういったクルスシアの指さした先には、煙が消えて見えるようになった、無傷のロゼッタ兵達がいた。
「ほら、ね?今は気絶してるだけだよ。」
「で、でも、どうやって??」
「僕が最初に爆発を起こす前、空間把握技術を使ったの、覚えてる?」
「え、ええ。確か〈空気障壁〉というものでしたよね?」
敵が光に包まれるも、なにも起きていなかった空間把握技術。セシリアはそれを思い出す。
「あの技は一見なにも起きていないように見えるけど、そんなことはないんだよ。敵兵を1人ずつ、空気の障壁で覆っていたんだ。強い衝撃や熱が来ても、死なずに、気絶で済むようにね。」
驚きの事実を伝えられて、今日でもう何回めかわからない、驚愕の表情をした。
「じゃあ、本当に誰も死んでいない…のですか?」
恐る恐る確認するセシリア。
「もちろん。なんなら、向こうに行って確かめてもいいよ?」
そう言われて、クルスシアが先程嬉々としていた理由がわかった。
「そ、そうですか…先程は失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「いいよ、友達でしょ?気にしないでよセシリア。」
「そう言っていただけると…って、あれ?」
ここで何かに気づくセシリア。
「どうかした?まだ何か?」
「い、いえ、もうロゼッタ兵達が生きているということはわかったのですが…最初に敵全員を〈空気障壁〉で覆ったのですよね?」
「うん。」
「ならば、その時に空気の圧縮なり、していれば、すぐに終わったのではありませんか?」
セシリアの問いに、少し間をおいて答えるクルスシア。
「うん、もちろん。やろうと思えばいつでも敵は倒せたよ?」
「なら、なぜ爆発を起こしたのですか?」
「うーん、理由はいろいろあるけど、1番大きいのは、彼らが2度とビクトール王国に攻めてこないようにすること、かな?最初から誰も殺す気は無かったから、どうせなら2度と来ないで欲しいでしょ?だから、派手な技で印象付けたんだよ。」
クルスシアの説明になるほど、と頷くセシリア。
「さすがは、伝説の科学者様ですね!」
「…それさ、やめてくれない?流れで僕も言っちゃったんだけどさ、すっごく恥ずかしいから…」
うずくまって、顔を手で隠して照れるクルスシア。それを見てははーん、と笑うセシリア。
「あ、そういうところは可愛いですね、伝説の科学者様♪」
普段見れないような一面を見て、クルスシアをからかう。
「やめてー!!!いつの間にかそういう風に呼ばれてたけど、呼び始めたの、誰?!」
「いいじゃないですか、伝説の科学者。私は好きですよ、伝説の科学者って言う響。かっこいいですよ!伝説の科学者様!!」
「連呼はやめてー!ていうか、わざとっ?!絶対わざとだよね?!」
しかし、そうは言っても、普段は見せないセシリアの一面をまた一つみれてよかった、とそう思ったクルスシアだった。
(でも、伝説の科学者っていうのは本当にやめてぇーーーー!!)
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女王誘拐未遂事件から、1週間がたった。結局、ロゼッタ兵達は全員無事で、怪我一つ無かった。本来ならば、全員捉えて処罰、といきたいところだが、さすがに十万人もの兵を一気に処罰するわけにはいかず、一般兵は自国にビクトール王国の兵力について存分に広める、ということを条件に開放し、上官やスパイであるプリスなどが処罰されるということになった。
そして、事件については一般報道はされず、王族直属のものだけが知る事件となった。なぜそうなったかというと、それがクルスシアの要望だったからだ。
「本当に公表しなくて良いのですか?」
「うん。本来の僕の目的は陰に隠れてビクトール王国を見守ることだからね。それに、公の場に出ると騒ぎが起きるし…」
ビクトール王国を作ったクルスシアのことは、本名こそでてはいないが、「伝説の科学者」という題名で絵本から小説まで、世界に広く広まっていて、それらは大ベストセラーとなっていた。そのため、伝説の科学者が誘拐されそうになった女王を助けた、となれば騒ぎが起きるのは当然だろう。
「それに、僕が不老不死の技術を開発してたってことは公表したくないんだ…それにつられてたくさんの人が僕を襲いに来るからね。」
「そうですか…クルスシアがそういうのであれば、仕方ありません。報道はやめましょう。」
「そうしてくれるとありがたいよ。」
笑うクルスシア。
「それじゃ、僕はそろそろ行くかな…」
そう言って、城から出て行こうとするクルスシア。なんとなく、もうあえないようなきがして、話しかける。
「また、会えるでしょうか?!」
そう聞くと、セシリアのほうを振り向くクルスシア。
「西の森の秘匿地にある僕の家まで来てくれれば、いつでも会えるよ。」
「そ、そうですよね!いつでも、会えますよね!私、なんとなくもうクルスシア西のえない気がして…あなたはたった1人の、私の友達ですから、いなくなられると困ります!」
「う、うん。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど…僕以外にも友達は作りなよ…」
クルスシアがそう言うとビクッと反応するセシリア。
「だって、みんな、私が女王だから、友達になってくれないんですよ…」
一昨日のことです…そう言うセシリアを見て、話が長くなりそうだと感じたクルスシア。
「その話、他の人にしたら?友達になってくれるかもよ?それじゃあ、友達作り、頑張ってね!応援してるよ!」
そう言い残して空間把握技術で〈転移〉を行って家へと帰っていくクルスシア。
「あっ、クルスシアっ?!」
待って、そう言おうとしたが、すでにクルスシアはいなくなっていた。
「はぁ、執事もいない今、私の話し相手はあなたしかいないのに…」
悲しそうにつぶやくセシリアだった。
これでプロローグは終わりです!次回から本編となり、ナレーション?が主人公クルスシア君になります。ここからはざっくりとした内容しか考えていないので、少々時間がかかっていくと思いますが、引き続き読んでいただけると嬉しいです…