プロローグ(1)
初めて書きます。色々と間違ってたりおかしなところがあると思いますが、それでも良い方は読んでください。
2070年、急速に発展したロゼッタ帝国によって追い詰められた諸国は1人の天才科学者によってビクトール王国という国にまとめられた。これが、長きにわたって続く2カ国戦争の始まりである。
そして同時期、その天才科学者が発明した新技術により世界は再び大規模産業革命を迎える。空間に存在するあらゆる粒子を操ることでさまざまな事象を起こせる技術、それが「空間把握技術」だ。
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ー2355年ー
「ーー現在、ロゼッタ帝国とビクトール王国の2カ国戦争は休戦状態にあります。しかし、かの帝国は、私たちのいる、このビクトール王国にいつ攻撃を仕掛けてくるかわかりません。」
大勢の民衆の前で演説をしているのは茶色の艶やかな髪に肩を出したドレスを着ている美少女。第22代目ビクトール王国女王、セシリア・ビクトールは15歳とは思えないほど民衆の支持を集めていた。
「私は、できるのであれば戦争はしたくありません。ロゼッタ帝国が協定を持ちかけてくるのであれば、私は喜んでその協定を受け入れます。しかし、戦争を挑んでくるのであれば…私は、戦争を受け入れてみなさんと共に戦うつもりです!」
女王の言葉に沸き立つ民衆。それは、彼女の美しい姿だけでなく、凛とした態度、女王としての気品、演説、これらのすべてが影響しているからだろう。
「ーーそして、私は、代々受け継いできたこのビクトールの名にふさわしい政治をすることを誓います!」
最後の決めの一言により、民衆の興奮は絶頂に達するのだった。
「ふぅ〜」
装飾は少ないが華やかな椅子に座り、一息つくセシリア。
「お疲れ様でございます。」
そう言って、紅茶を出す執事。長い髪を後ろの紐で止めている男。メルトキア・プリスだ。
「今日の演説、流石でした。やはりお嬢様は民に好かれていますね。」
「ありがとう、プリス。でも、私が民に好かれているなんて…そんなことないわよ。私は必死にビクトールの名を汚さないようしているだけで精一杯だもの。」
「そんなことはありません。お嬢様は、よく公務をこなされております。それに、お嬢様のそのような謙遜されるところが民衆を惹きつけるのですよ。」
「そうかしら。そうだと良いのだけれど。」
プリスの言葉を聞いてすこし笑みを浮かべるセシリア。
「どうぞ、紅茶です。」
「ありがとう。」
プリスの注いでくれた紅茶を飲むセシリア。
「相変わらずあなたの注いでくれた紅茶はおいしいわね。」
「ありがとうございます。」
嬉しそうにするプリス。彼の注いだ紅茶はセシリア好みらしく、ここ最近ついた女王の専属執事にもかかわらず打ち解けているのはこの紅茶のこともあるのだろう。セシリアが一段落ついたのを見ると、プリスが真面目な顔つきになって話し出す。
「ところで、なのですが。お嬢様、すこしお話がございます。」
「な、なにかしら?公務は、もう終わらせたわよね?」
若干焦るセシリア。
「いえ、公務のことではありません。そちらはすでに終了しております。」
「そ、そう。よかった。」
ほっと安堵の息を吐く。
「実は、2カ国戦争に関係することなのですが…」
2カ国戦争、その言葉を聞いて顔つきが変わる。2カ国戦争については子供の時から親に聞かされていた。その頃から戦争は怖いものだ、人がたくさん死ぬものだとして教え込まれてきたセシリアにとっては2カ国戦争という言葉の響きはとても恐ろしく、忌々しく感じられたのだ。
「耳を傾けていただけますか。」
えっ?話は聞いているけど、と言いそうになったセシリアはプリスの口に手を当てる様子から、頭を動かし、プリスの口元に耳を近づけた。
「実は…ロゼッタ帝国のスパイが、ビクトール王国に入り込んでいるという情報が入ってきました。」
そんなプリスの小声に大きく驚くセシリア。
「っ!!情報は確かなの?」
プリスに合わせて小声で答える。
「はい。ハクルからの情報ですので。」
「そう、ベクターからなのね…」
ベクター・ハクル、ビクトール王国の王族直属の諜報機関の一人だ。王族直属だけはあり、その情報に関して間違えがあった事は今までにない。
「ですから、お嬢様。誰が敵かわかりませぬゆえ、くれぐれもお気をつけ下さい。」
プリスの言葉にゴクリと唾を飲み込むセシリア。誰が敵かわからない、それはセシリアが嫌いとする、人を疑え、と遠回しに言われているようなものだった。
「わかった、わ。私も気をつける。だから、あなたも気をつけてね。」
「優しきお言葉、ありがとうございます。」
そう言うと、セシリアの耳元から離れていくプリス。そして、何事もなかったかのように一言。
「なにかあれば呼んでください。では、私はこれで。」
「ええ、お疲れ様。」
そう言って、プリスが部屋からでていくのを確認する。
「はぁ〜スパイ、ね。」
大きなため息とともに自分の周りにいるらしい存在を口にする。
(誰彼構わず人を疑うのは好きじゃないのだけれど…)
そしてまた一つため息をつく。
「はあぁ〜」
これからどうしようか、家臣をひとりずつ疑っていくの?でも、そんなの家臣に対して失礼しますなのでは…そういった永遠につづくとも思える内容を考え続けるセシリア。
しかし、しばらくそのことを考えているとふと、彼女の脳裏に昔の思い出がよぎる。
「そうだわ!お父様とお母様が言っていたじゃない!」
そう言うと彼女は、勢いよく立ち上がり、改めて周りに人がいないか確認する。
「よし、誰も見てない、わよね。空間把握技術『飛行!!」
彼女の言葉に反応して、首につけていたネックレスの先に着いた模様の描かれた丸い物体が光る。そして、それと同時に彼女の体が中に浮き出す。
「確か、西の方の森の秘匿地だったわよね?」
秘匿地、それはビクトール王国の領土の内その存在が国家機密とされている場所のことだ。その場所を知るものは少なく、王家直属の者ですら知りえないようなものだ。
「いざ、出発!」
セシリアは天井のないーー晴れの日は開いていて日を取り入れるが、雨の日は閉じるーーの城を飛び出し、西の森へと向かった。
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まだ幼いセシリアに向かって話すハンサムな男。目元がセシリアとよく似ている。第21代目ビクトール王国 王 エルド・ビクトールだ。
「いいかい、セシリア。ビクトール王国のことで何か困ったことがあれば、西の森の秘匿地にいる人のところへ行くんだよ。あの人ならきっとセシリアを助けてくれるからね。」
「その方は、どんな人なのですか?」
セシリアの質問に答えたのは美しい女性だった。セシリアと同じ髪が綺麗な茶色で、口元がよく似ている。第21代目ビクトール王国 王女 メル・ビクトールだ。
「ふふ、とても優しくてかっこいい人ですよ。でも、とても強いんです。きっとあなたも好きになるでしょう。」
メルがそう言うと怒ったようにエルドが口を挟む。
「あなたもって…メルはあの人のこと好きなのかい?」
「ええ。もちろん。」
即答するメルにガクッとうなだれるエルド。
「そ、そうかぁ…私は悲しいよ…」
「あらあら、そんなに落ち込むの?大丈夫よ、エルド。私はあの人を好きだけど、あなたの思うような、そう言う意味じゃないわ。」
「ほ、本当か?!」
「ええ。」
そのやり取りを聞いていたセシリア。
「私はお母様もお父様も好きですよ!」
笑顔で言う。
「まあまあ、そうですか。私もセシリアのことが好きですよ。」
「うむ、私もだ。」
3人で微笑み合う。そんな、とても暖かい風景。数少ない、セシリアとその両親のとの記憶だ。
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セシリアは西の森、秘匿地の方へと飛び続けていく。
(あれから少しして、お父様もお母様も事故で亡くなってしまったけれど…あれは楽しい思い出でした…)
幾多の木々の上を通り抜けていくと秘匿地の入り口と思われる霧の幕に入る。秘匿地には霧がかかっており普通の人間は入らないような仕組みになっているが、秘匿地の存在を知っている者はその霧が見せかけであると知っているために通り抜けられる。
セシリアが霧を進んでいき少しすると霧の壁はすぐに消え、景色は再び美しい森へと変わる。
そして、その森の中で家のようなものがあることに気づくセシリア。
「あの家…もしかして!」
空間把握技術の出力を少しずつ下げて、地上へ降りていく。セシリアの足が地面に着く頃には、家の全体像が見えた。
家は木造で、二階建てのようだった。丸太の皮を削ってそのまま並べたような木の家に少し驚くセシリア。
(このご時世にこんな家があるなんて…でも、どこか懐かしみを感じる…)
歩いて家に近づいていくと、庭のようなものが見えてきた。その庭には、綺麗な手入れが行き届いた芝生がたくさん生えている。そしてその庭の中心には四つの白いイスが少し大きめの白いテーブルを囲むようにして置かれていた。そのうちひとつのイスには、少年が座っており、何やら本を読んでいるようだった。
「あの人、かしら?」
イスに座っている少年に近づくと、その少年は本を閉じ、こちらを向く。
「君は、セシリアだね?」
肩にかかった布はマフラーのようで、どこか民族衣装を思わせ、しかしその下に着ている服は、まるで白衣のような四つのボタンがついたもの。顔は整っているが、少し幼さが残っている。綺麗な白髪で、老人のそれとは明らかに違う美しい髪で、少し長めだった。
(私と同い年、くらいでしょうか。)
「は、はい。そうですが…」
私がそう答えるとやっぱりね、と呟く。
「僕の名前はクルスシア。よろしく。」
「え、えっと、ご存知のようですが、セシリア・ビクトールです。よろしくお願いします…」
何が何だかわからないセシリアをよそに、クルスシアという少年は話を進める。
「たぶん君は、困ったことがあれば僕のところへ来るように言われていたんだね?」
少年はイスに腰掛け、彼女を自分の前に座らせる。
「ええ、その通りです。じゃあやっぱりあなたが?」
「うん、君の両親が言っていた困った時に助けてくれる人とは僕のことだろう。」
「そ、そうですか…!」
(驚いた…私と同じくらいの年に見えるのだけれど、お父様とお母様と面識があるなんて。)
「それで、何に困っているんだい?」
「あ、えっと…」
多少不思議な空気感ではあるが、ここへ来た目的は問題を解決するため。そのことをあらためて思い出し、ロゼッタ帝国のスパイがビクトール王国にいるかもしれないことをクルスシアに伝える。
「なるほど、スパイねえ。」
顎に手を当てて考えるクルスシア。すると、ニコッと笑うと一言。
「わかった。僕がなんとかしよう。」
初めて見たはずのクルスシアの笑顔はとても懐かしく感じられた。
「本当ですか?!ありがとうございます!」
「いいんだよ。それで、他に、困っていることはあるかい?」
そう言われて悩むセシリア。
「えーっと、特には…あっ?!」
「何かあった?」
「あー、い、いえ。大したことではないので…」
一瞬悩んだ表情を見せた後にすぐ苦笑いをするセシリア。
「いいよ、言ってみて?」
セシリアの顔を覗き込むようにして見つめるクルスシア。
「…」
少しの間をおいて、躊躇するようにしてセシリアが話しだす。
「その…友達が、欲しくって。」
「え?」
目を丸くするクルスシア。思っていたものと違い、拍子抜けしたことが見て取れた。
「私、女王ですから、同年代の子と遊ぶ機会がなくて…って、こんなの女王らしくないですよね?やっぱりなかったことにしてください!」
無理して笑うセシリア。それを見て目を丸くしていたクルスシアが口を開く。
「僕でよければ、友達になるけど?」
「えっ?」
「君が暇になった時、そうだね、食事の時なんかに会うのはどうだろう?食事も振る舞うよ?」
「い、いいんですか?」
「うん、君さえよければだけど。僕としても1人で本を読む生活が続いていたから。たまには人と会話をしたいんだ。それに、僕にも友達と呼べる人はいないからさ。」
「でも、ご迷惑では…?」
「まさか、この程度迷惑でもなんでもないよ。むしろ僕にとっては、友達ができるなら願ったり叶ったりだからね。」
「そうだったんですか?じゃあ、私たち、今から友達ですね?!」
少し照れくさそうに笑うセシリア。
「うん、そうだね。友達だよ。」
若干の引きつった顔のままのクルスシア。しかし、そんなクルスシアをよそいきなり話し始めるセシリア。
「友達ですから、談笑くらいしますよね?!」
二人の談笑が始まった。
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「ーーそれで、やっぱり執事のしばりっておおきいですよね?!」
「え?う、うん。」
話し始めて1時間は経っている気がするクルスシア。談笑、と言うよりもクルスシアが一方的にセシリアの愚痴を聞く形になってしまっていた。
「ね、ねえセシリア?だいぶ話し込んでるけど…そろそろ公務に戻らなくていいの?」
クルスシアにそう言われてハッと我に帰るセシリア。
「そ、そうでしたっ!今日は時間がないので、この辺で帰ります。それで、明日の朝、また来てもいいですか?」
完全に打ち解けた、といった様子のセシリア。
「もちろん。食事を用意して待ってるよ。」
「ありがとうございます!期待してまーす!」
クルスシアは空間把握技術によって去っていくセシリアを見続けていた。
そして、彼女が見えなくなると暗い面持ちでつぶやく。
「ロゼッタ帝国のスパイ、か。」
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ーー2ヶ月後ーー
「どこに行ったのかと思っていれば、また、見知らぬ少年と会っていた、ですと?危険ですよ!もしもお嬢様に何かあったらどうするのですか!」
ものすごい剣幕で迫ってくるプリス。
「だ、大丈夫よ、お父様とお母様に紹介してもらったわけだし、そ、それに友達だから…!」
少し照れ気味のセシリア。それを見て呆れ果てた、といった表情になるプリス。しかし、セシリアが見ているのは彼ではなく、空中だった。そして、プリスの説教がキリのいいところくると…タイミングを見計らう。
「あっ!私、そろそろクルスシアのところへ行かなくちゃ!公務は終わらせておいたから〜!」
そう言っていきなり立ち上がったかと思えば、空間把握技術を使って文字どおり、城を飛び出した。それを引き止める術がないプリス。
「まったく、あなたと言う人は…」
セシリアはここ最近、朝昼晩ずっとこんな調子だった。
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彼女にとっては、もう見慣れてしまった木々の風景。そして、いつも通り霧を通り抜ける。朝ご飯への期待でドキドキしながら木造の家まで辿り着く。
「あ、やっと来た。」
セシリアを待っていてくれたのだろう。クルスシアが料理を一通り準備してイスに座っていた。
「ごめんなさい、ちょっとプリスのお説教が長くって…」
謝るセシリアをいいからいいから、とイスに座らせるクルスシア。
「今朝は簡単に目玉焼きとトースト、サラダ、あと紅茶だよ。」
「すっごぉーいいい!!」
目を丸くするセシリア。宮廷で普段彼女が食べているものと比べても、劣らない、それだけの力を感じる料理だ。
そして、その前に並ぶ美しい料理の数々。漂ってくる美味しそうな匂い。
「やっぱり、今日もクルスシアが作ったの?!」
「あはは、またその質問?いつもするよね。ここには僕しかいないから、僕が作るしかないんだよ。」
「だって、こんなすごいものを作れるんだもの…にわかには信じられないわよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいよ、僕も。うん。野菜とかは家庭菜園だから味は劣るかもしれないけどね。」
家庭菜園。クルスシアの庭にはたくさんの野菜があり、その一つ一つは農家顔負けのものだった。
「クルスシアって、料理が出来て、野菜も作って…すごいのね!」
(お母様がかっこいいと言っていたのもうなづけるわ…ってあれ?何か、見落としているような…)
一瞬、違和感を感じる彼女だったが、すぐにそのことは忘れて料理を食べ始めるのだった。
2人は朝食を食べ終える。
「この紅茶を飲んだら、私は王城に戻るわね。」
紅茶を優雅に飲むセシリア。
「うん。わかった、でもその前に、少し話があるんだ。」
突然真面目な顔になったクルスシアに少しびっくりしながらも、紅茶を置き話を聞く。
「話って、何、かしら?」
「2ヶ月位前に、君は僕にスパイの話をしたでしょ?」
「う、うん。」
スパイの話。それはロゼッタ帝国からのスパイが王国内に来たという話だ。
「実はその話に進展があったんだよね。」
「本当に?!」
「うん。少し、だけどね。どうやら、スパイは君の周辺にいるみたいだ。」
「私の、周辺?」
「うん。家臣や、諜報機関とかの女王直属機関の中にもいる恐れがある。」
「直属機関のなかにも?!」
女王直属機関とは、女王から直に命令を受けて行動をする機関のこと。その存在は公には伏せられているが、ビクトール王国を支える重要な役目を持っている。
(もしも、その機関の中にスパイがいたりしたら…)
そんな恐ろしいことが身近に起きているという事実は、セシリアにとって、あまりにも非現実的だった。
「くれぐれも気をつけて欲しい。もちろん、万が一君が襲われるようなことになったりすればその時は君を助ける。なるべくそうならないようにはするけど…」
「わかりました。気をつけます。でも、あなたも無理をしないでくださいね?私、友達に何かあったら…」
「わかった。無理はしないよ。」
「そうですか、ならいいんです。」
ふっと安堵してまた紅茶を飲み始めるセシリア。すべての紅茶を飲み終えると別れの挨拶をして王城へと戻っていく。いつも通り、それを見送るクルスシア。
そして、また1人になる。
(思った通りだ…セシリアは優しい。いい女王だ。メル、エルド。君たちによく似ているよ。)
彼は、悲しそうに紅茶を飲み始めた。
自分で読んでみても何がなんだかよくわからないですね。これからはもう少し分かりやすくなるように心がけます。