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25.決意を胸に

 リリアさんを助けた3日後。

 あたしは麒麟の背に乗って中央都市セントトゥークへと向かっていた。

 目的は一つ。

 勇者を召喚するための魔法陣と装置がある神殿を破壊する。

 リリアさんによると勇者を召喚できるのはあそこだけだそうだ。

 しかもあれを作るのに200年以上かかっていると聞く。

 つまり、あれを一旦壊してしまえば長い期間平和になるんだ。

 もちろん召喚できなくなるってことは帰還もできなくなる。

 でも構わない。

 あたしはリリアさんや名前をつけた魔物たちとここで暮らすって決めたから。


 麒麟はいつも通り高速で空を飛び、数時間で北の都ノースリアを通り過ぎる。

 中央都市セントトゥークへは3日もあれば行けるだろう。

 前回と同じく透明になっているので、誰にも気づかれないだろう。

 時々広い場所に降りて休憩をしたが、基本的に麒麟は疲れないらしい。

 どうもあたしの体から出る魔力のおかげで常に体力全快となれるそうな。

 不思議だねえ。


 途中でシノンがお世話になったという人間のお墓参りに行った。

 もちろんその人間が好きだったというキキョウの花を摘んでだ。

 この墓がある村は、あたしがこの世界で初めて魔物を見た場所。

 魔物の死を見て、この世界に疑問を思った場所。

 その時死んだ魔物……シノンは結果的に生きていたわけだけど、あの時の出来事がなければあたしは魔物の世界に行ってなかったかもしれない。

 だからシノン、あなたに出会えてよかったよ。


――はい。わたしがお世話になったこの方が巡り合わせてくれたのだと信じています――


 そうだね……。

 あたしもお墓にしっかりと手を合わせた。

 この人も人間と魔物が仲良く暮らせる世界を望んでくれていただろうか?

 いつかそんな日が来ることを願っててほしいな。

 あたしもがんばるけど、きっとすぐには無理だからさ。

 そう考えて墓を後にした。




 その後何も問題なく中央都市セントトゥークに到着だ。

 あたしが召喚された神殿に到着する。

 あの長い階段にはうんざりしたものだけど、空を飛ぶと楽でいいや。

 ここを壊せばもう勇者は召喚できなくなるはず。

 そして当然召喚された勇者も帰れなくなる。

 あたしは恨まれるだろうけど……覚悟の上だ。


――ユウナよ、本当にいいのだな?――


 うん、召喚の魔法陣と神殿を破壊しちゃおう。

 麒麟なら簡単だよね?


――実のところかなり骨が折れる作業だ。ここはアルティアナ様の祝福を受けし場所だからな。ユウナの魔力をかなり借りることになるぞ――


 うん、いくらでも使ってね。

 これが終われば魔力なくなったって大丈夫だしさ。


――魔力が尽きれば我はユウナとこうして話もできなくなる。少しは残してほしいものだな――


 そっか。

 じゃあほどほどに使い切ってね。


――まずは神殿内にいる人間を追い払うところからだな。それは他の魔物たちに任せよう――


 そうだね、全員召喚して人間を追い払いつつ近づかないようにしてもらおう。

 幸いここの庭には池もあるのでアクアも呼べる。

 もしピンチになった子がいたらすぐに送還すれば大丈夫かな。


「ではいくよ。全員召喚!」


 今現在はシノンと合体した状態だ。

 一旦分離しよう。


 猫娘ミリィ。あなたは人間を逃がしつつ、ケガ人を治してね。

 猫男の娘ミディ。お姉ちゃんのサポートだよ。

 人魚娘アクア。池の水でみんなをサポートしてね。

 蚕娘チルちゃん。あの長い階段を逃げる人が転ばないように糸で上手いことしてね。

 羊娘メア。ここを守りに来る兵士達を怯えさせて逃がしてあげて。人間のためにさ。

 鳥娘ピィ。上空からの偵察は任せた。

 犬娘シノン。まだ力戻ってないだろうから無理せずにチルちゃんをサポートしててね。

 みんな任せたよ。

 あたしは……。


「神獣合体! 麒麟!」


 麒麟の力でもこの神殿を破壊するには手間取ると言っていたわけだし、これがベストだ。

 なんだか自分が最強の存在になった気分だ。


――ふむ、力がみなぎるのを感じるぞ。これならば……はあああああああっ!――


 あたしの体から魔力が外へ飛び出して拡がっていく感覚。

 今何したの?

 

――周囲にいる魔物を活性化させた。これで皆普段の数倍の能力が発揮できるぞ――


 それは素晴らしい。

 さすが最強の神獣だよ。

 魔物を統べるリーダーって感じだ。

 じゃあ行こうね。


 神殿からは突然の魔物襲撃によって人が逃げ出してくる。

 階段で転ばないように逃げてねー。


――転んでも大丈夫なように糸張ったよー。人間に怪我はさせないの――


 よしよし、えらいぞチルちゃん。


――ユウナ様。神殿の中はほぼ無人ですにゃあ。もう少し回ってみますが逃げ遅れはいないと思いますにゃあ――


 うん、ありがとねミリィ。

 人数不足かと思ってたけど、なにか人の形をした水があちこちにいるような……。


――わたくしの水人形です。弱い存在ですが、驚かすには十分ですわ――


 よしよし、さすがはアクアだよ。

 あたしはたくさんの本がある場所を訪れていた。

 ここには神殿や魔法陣の設計図もあるはず。

 これを全部燃やしてしまおう。

 歴史的価値のある本もあるんだろうけど、選り分けてる暇はないからごめんね。

 麒麟の能力を借りてあたしは火を吐き出す。

 気分はドラゴンだ。

 あっさりと燃やしつくし、次は冷気を吐き出して消火する。

 麒麟は自然破壊が嫌いだから普段はこれらの能力を使わないらしいけど、凄まじいな。

 さて、次は魔法陣だ。

 どこにあるんだろう?


――この神殿は巨大な魔法陣の上に建っている。神殿全体を破壊せぬよう床を破壊するところからだ。時間がかかると言った理由はそれだ――


 それはめんどそうだ……。

 でもやるしかないね。この石を砕くにはどうしたらいいんだろう?


――爪を立てるなり拳で砕くなりやってみるといい。我の巨体にあった力がユウナの小さな体に凝縮されていると思っていい――


 なるほど……。

 試しに思いっきり床を殴ってみる。

 激しい音と共に床の石が砕けた。

 たしかにこれは簡単だ。

 この石の片づけ……アクアにお願いできるかな?


――かしこまりました。水でその石を運びます。これで階段にバリケードを作っておきますね――


 うん、よろしくね。

 時間かかるから間違いなく兵士達が来ちゃうから。

 下手したら勇者も来るかもしれないからね。


 神殿の床を破壊し始めて30分ほど……ようやく半分かな。

 なかなか大変な作業だ。


――それでも予想より早い。ユウナの体にある魔力はすさまじいな。何故こんなにも魔力があるのか不思議でならぬ――


 そうだねえ……魔物から魔力を集めるって言ってたけど、こんなに集まらないよね。


――ユウナ様! 兵士の大群が階段を上って来ています――


 空で見張っているピィからの連絡だ。

 とりあえず急いで魔法陣を破壊しなくては……。

 みんなにはこのまま時間を稼いでもらおう。

 チルちゃん、ここに人間が来たら危ないから登ってこれないように守ってあげてね。


――任せてね。今日は糸が良く出るの。麒麟様のおかげだね――


 よろしくね、でも危なくなったらすぐ逃げてね。

 さて、床の破壊を再開だ。


 それからさらに30分ほど暴れた。

 もう魔法陣の大半は見えているかな。

 この魔法陣はどうやって破壊すればいいのかな?

 

――床に手をかざして後は我に任せよ。ユウナの魔力を一気に流し込み破壊する――


 よし任せた。

 あたしの中にある大量の魔力が両手に集まっていく。

 それが魔法陣に流れ込んでいき……神殿全体が揺れ出した。


――この魔法陣破壊の衝撃で神殿は崩れるだろう。これが終わればすぐに逃げるぞ――


 うん、もうすぐ魔法陣は崩壊しそうだ。

 え!?

 それと同時に麒麟との合体が解け、麒麟はそのまま送還される。

 何が起きたの?


――ぬかった……ユウナよ。今すぐそこから逃げるのだ――


 よくわからないけど……と、とりあえず脱出だ。

 今の状態では普通の女の子でしかない。

 神殿が崩れてきたら助からないぞ。


――ユウナよ、勇者たちにある魔力の正体がわかった。あの魔法陣から常に供給されていたようだ――


 え? てことは今のあたしは魔力が無い状態?


――魔法陣の破壊にほとんど使い切ってしまったようだ。残った魔力は逃げるために使うべきだ。最悪他の魔物を犠牲にしてでもな――


 犠牲にって……。

 たしかにあの子たちは生き返ることができるけど、犠牲になんてさせない!

 あたしは必死に走って外へ出た。


「みんな、作戦は成功だよ。逃げよう!」

「ユウナ様! 麒麟様からテレパシーで状況は聞きました。ピィさんと合体してお逃げください。それ以外のことに魔力は使わないでくださいね」

「え……どういうこと? アクア」

「兵士達が階段を登って来ています。今の状態で突破はできそうにありません。ユウナ様に生き延びていただくことがわたくしたちの願いです」

 

 さっきまで麒麟の能力のおかげで皆の能力が向上していた。

 今はその反動で皆弱っているようだった。

 でもあたしだけ逃げるなんて嫌だよ……。


「と、とりあえずみんな集まって固まってね」


 アクアのいる池の前に皆で集まる。

 なにか逃げる方法を考えなくては……。

 門には兵士が到達していた。

 なんとかはったりで突破できないものかな?

 何も思いつかないまま兵士は庭になだれ込んできている。

 こちらを警戒しているのか遠くにいるのだが……皆弓を構えている。


「ユウナ様! 急がねばピィさんと合体して逃げることも困難となります!」

「そうですにゃあ! ユウナ様だけでも逃げるのにゃ!」

「そ、そんなこと言われても……」


 あたしがこうやって悩んでいたせいで、事態は最悪の方向に向かったのかもしれない。

 兵士達が一斉に弓をこちらに向けてきた。

 これってもしかして全滅……?

 あたしは自分の持っている勇者の力を過信しすぎていたようだ。

 こんなことになってしまうなんて……。

 可愛い部下達はあたしを弓から守ろうとあたしを取り囲んでいる。

 兵士たちのリーダーらしき存在が手を挙げた。

 攻撃の合図だろうか。


「撃てーーーーーー!!」


 みんな死んじゃうのかな?

 えっと……みんなごめんね。

 きっと許してくれないだろうな。

 最後の魔力はこうやって使うね……。


「全員送還……」


 その瞬間ここにいるのはあたしだけとなった。

 魔力が完全に尽きているのを感じる。

 なんとか足りたようだ……。

 きっとみんななにかを言っているんだろうけど、もうテレパシーもできない。

 次の瞬間、あたしの体は複数の矢に貫かれた……。


 あはは……これは死ぬよね?

 でも、みんなは生きてね……。

 あれ? あの子たちってあたしと同じ寿命になってるんだっけ?

 あたしが死んだら一緒に死んだりする?

 それは嫌だな……。

 プロメイティア様……あたしとあの子たちの契約なかったことにできないのかな?

 あたしがんばったから……最後の願い聞いてほしいな。

 この際アルティアナ様でもいいよ……。

 あたしは可愛いモン娘たちのことを想いながら意識を失った。

次回最終話が同時投稿されています。

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