23.あたしの可愛いモン娘⑦犬娘
ミリィとミディが早々に退散したせいで、あたしは少し暇になってしまった。
とりあえず服を着て犬っ娘を待つことにする。
今のうちに名前を考えようか。
7番目のあたしの部下になるわけだけど、この世界で初めて見た魔物。
どうしようかなー。
ココアとかチョコとかいろいろ思いつくけど……。
犬っぽい美味しそうな名前になっちゃうんだよなあ。
本人の希望も聞いて考えるべきか。
コンコン。
しばらく悩んでいると犬っ娘が来たようだ。
あたしは素早くドアを開けて迎え入れる。
「いらっしゃーい。入って入って」
「はい、失礼しますね」
「さっそくなんだけど、どんな名前がいいか希望はある?」
「え!? いきなり名付けていただけるのですか?」
「うん、もうお話はたくさんしたし名前はつけるって決めてたんだ。それに名前をつけてから試したいことがあるしね」
この子は一度死んで能力を失っている。
合体することでその能力が戻ったりしないかなと考えているわけだ。
「はい……ありがとうございます。でも名前ですか……。つけていただければなんでもいいと考えていましたので、すぐには思いつかないですね」
「そっかぁ……じゃああなたの特徴を教えてもらおうかな。失った特技って何だったの?」
「わたしは隠密に長けていました。体を透明にしたり気配をなくしたりできるんです。潜入にはうってつけの能力でした」
透明……みんなが憧れの透明人間になれるのか。
それはいい能力、まるで忍者だね。
忍者犬か……。
忍び……こういうのはどうだろうか。
「シノン……って言う名前はどうかな?」
「シノンですか。とても素晴らしい名前です。それを名付けていただけるのですか?」
「うん、あなたはシノンだよ。よろしくね」
「はい!」
「じゃあ……目を閉じてくれるかな。誓いとして……あることをするからね」
「はい……お願いします」
素直に目を閉じる犬っ娘。
何をされるか知っている感じだ。
というわけで遠慮なくいただきます。
犬っ娘のふわふわした毛をなでるように顔に手を添えてと。
いつものようにゆっくりとキスをした。
「んん……」
犬っ娘は体をぴくっと震わせながらあたしのキスを受け入れる。
これであなたも……あたしと人生を共にしていくんだよ。
「ユウナ様……シノンは……幸せです」
「うん、あたしも幸せだよ」
「能力を失ったわたしではたいしてお役に立てませんが、よろしくお願いしますね」
「あ、それなんだけどね……」
シノンにあたしの能力をすべて話して聞かせた。
合体でどうなるか試したいことも伝えて、さっそくやってみようかな。
「神獣合体! シノン!」
「はい!」
シノンがあたしの中に入ってくるいつもの感覚。
慣れたけどやっぱり気持ちいいなあ。
――これがユウナ様との合体……なんだか力があふれてくる感覚です――
じゃあシノンがこの体動かしてみてね、失った能力がどうなっているかもね。
――はい、やってみますね――
あたしの体は鏡の前に移動した。
シノンが集中しているのを感じる。
次の瞬間、鏡に映っていたあたしの姿が消えた。
これは……透明になっている?
――ユウナ様! できました。シノンは以前と同じように能力が使えます!――
そっかあ、予想通りあたしと合体したら能力が使えるんだね。
いろいろやってみてね。
――はい! とても嬉しいです。やってみますね――
今度は鼻に集中しているようだ。
鼻から大きく息を吸い込むと……。
なんだかいろんな香りが鼻に入ってくるぞ。
むむ?
ミリィの香りもあり、ミリィがどこにいるかがわかる。
というかあたしが知っている全員の香りを感じることができ、居場所もわかる。
匂いを嗅ぎわけることができるんだ。さすがわんちゃんの魔物だね。
――わおーん! 能力なしでも匂いの嗅ぎわけはできるのですが、ユウナ様の魔力のおかげで精度がすごいです。さすがユウナ様!――
ふふっ、喜んでくれて嬉しいよ。
じゃあ……あたしにもその能力を使う練習をさせてね。
お城の中をこっそり探検だ。
シノンに透明になる方法を聞いて実践……。
というわけで透明になった状態で気配も消し、グリモアさんの部屋の前まで来てみた。
グリモアさんは普段城の中をすべて見とおすことができると言っていた。
そのグリモアさんを欺くことができれば、この能力はかなり使えるってことだ。
では、ドアをこっそりと開けて侵入だ。
グリモアさんは本棚に背を向けていたのでドアが開いたことに気づかないようだった。
こっそりと背中に接近だ。
なにか独り言でも言わないかな……。
「ユウナ様のおかげで城の中の雰囲気が変わって来ていますね……。私もヴェリア様ともっと仲良くなることができるかも……」
おお!
普段クールなグリモアさんがヴェリア様のことを恋焦がれている?
これはいい独り言を聞けた……。
って、覗きはよくないよね。
隠密能力を確かめる目的は達したんだ。
またこっそりと部屋を出よう。
――ふう、とても緊張しました。まさかグリモア様の目まで欺けるとは……。ユウナ様の力はすごいのですね――
ふふっ、これはシノンの力でもあるんだよ。
じゃあもっといろいろやってみようかな。
この能力で他の人を見えなくすることってできないかな?
――近くにいることで、気配を少し遮断することは以前もできていました。ユウナ様の力があればそれも可能かもしれません――
じゃあやってみよう。
お外に行こうね。
麒麟の姿隠せたらいいなってずっと思ってたんだよ。
――麒麟様ですか。たしかにとても目立つ姿ですものね。でもあの素敵な姿を隠すのはもったいな気がしますね――
シノンも麒麟好きなんだね。
麒麟ってば人気者だ。
――そうですね。麒麟様はプロメイティア様が作られた最強の神獣とお聞きしました。麒麟様の近くにいるとプロメイティア様を感じることができる気がするんです。皆同じように言っていまして、だから大人気なんです――
なるほどねえ、それにかっこいいもんね。
よかったね麒麟。
今から時間あるか麒麟にも聞いてみないとね。
――問題ない。城の外で待っている――
大丈夫そうだ。
お城の外に出ると麒麟の巨体が待ち構えていた。
とりあえず背中に乗ってみようか。
――麒麟様のお背中に乗れるなんて感激です!――
そかそか、しっかり楽しむんだよ。
麒麟は大空へと飛びあがる。
では、透明になる能力を麒麟にも使えないか実験だ。
シノン、一緒に集中だよ。
――はい!――
集中した結果、麒麟の姿が見えなくなった。
自分の姿も見えないので、なんだか幽霊にでもなって飛んでいる気分だ。
無事成功だなあ。
次は気配か……。
ちょっとあっちの鳥の群れに向かって飛んでみて。
――うむ。これはなかなか楽しいものだな――
麒麟ってば見た目に反して子供っぽくていたずらっ子なところがあるようだ。
鳥の群れにゆっくりと接近しているであろう麒麟。
麒麟の力なのか、風は起きていない。
鳥の群れに接近したが、鳥は気付くことなく普通に飛んでいる。
しばらく一緒に飛んでみた。
麒麟も心なしか楽しそうだ。
能力の確認もできたってことで、しばらく空中散歩を楽しんでからお城に帰った。
あたしのお部屋にて合体解除だ。
「楽しかったー。シノンはどうだった?」
「はい、とても楽しかったです。でも合体をとくとやはり能力は使えなくなりますね……。でも……あら?」
「どうしたの?」
「今まで完全になくなっていた能力が少しだけ戻っているようです。ユウナ様の魔力のおかげでしょうか。本来なら能力が戻るにはもっと時間がかかるはずなのですが」
「ふふっ、じゃあ頻繁に合体してたら回復も早まるかもだね」
あたしの能力ってすっごくいいなあ。
魔物と仲良くなるのに最適だし、こんなに喜んでもらえることができるし。
プロメイティア様に感謝だね。
「シノン、今度機会があったら一緒にお墓参り行こうね」
「はい! ぜひお願いいたします」
シノンがお世話になった人間のお墓がここより遥か南にあるはず。
いつか一緒に行こう。
そう約束して今日の面接は終了した。
さあ、ますます楽しくなってきたぞ。




