18.男神の愛
コンコン。
来たかな?
面接ではないけど、犬っ娘が遊びに来てくれたはずだ。
ドアを開けると予想通り犬っ娘が立っていた。
ミリィと同じように、基本は人間で犬耳としっぽがついていて体毛もある。
白というか銀色っぽ体毛で全体的に柴犬って感じがする。
鼻の頭が黒いのが犬っぽくて何か可愛いぞ。
「いらっしゃい、中へどうぞ」
「はい、失礼します」
犬っ娘は緊張した感じで部屋に入ってくる。
緊張のためかしっぽは垂れさがっているのかな?
「そんな緊張しないでね。ここに呼んだのは、あなたとお話したかったからだよ」
「そ、そうですか……」
犬っ娘は緊張が少し解けたのか笑顔になり、しっぽがゆらゆらと左右に揺れ始めた。
わかりやすくて可愛いぞー。
さて、あたしの話したいこと……。
この世界に来て最初に見た魔物は、目の前にいる犬っ娘にそっくりだった。
あたしの目の前で殺されたのを見たわけだけど、別人とは思えない。
それを確かめよう。
「まずはこのお花を見てくれるかな?」
「これは……キキョウの花でしょうか?」
そう、あの魔物はこの花を持って死んでいたんだ。
「うん、これを見てどう思うかな?」
「そうですね……。この花にはとても大きな思い出があります。でも……どうしてユウナ様がこの花を?」
「ごめんね。あたしの勘違いかもしれないけど確認したいことがあって。その思い出、よかったら聞かせてもらえるかな?」
「はい、かまいません。わたしが以前ここより遥か南の地で偵察任務をしていた時のことです。怪我をしてしまった時に……とある人間に助けられたのです」
ほうほう、怪我をした魔物を助ける人間もいるんだね。
なんだか希望が持てる話だよ。
「その時にその花を煎じた薬を作ってくださいました。そのお方は薬にもなり綺麗なキキョウの花がだいそう好きで、わたしも同じようにその花が好きになりました」
「なるほど、それはいい思い出だね」
「はい……しかしそれからしばらくしてそのお方が亡くなったことを知りました」
「そっか……つらいこと思い出させちゃったね」
死因を聞きたいけど……なんだか聞きづらいな。
魔物を助けたせいで迫害されて殺された恐れもあるぞ……。
「いえ……。それでわたしは時々お墓参りにキキョウの花を持って行っていました」
「なんだかいい話だね。最近は行っていないの?」
「行きたいのですが……行けなくなってしまいました……」
「え? どうして?」
「えっと……」
犬っ娘は言っていいものかどうか悩んでいるような表情。
なにか言いずらい理由があるのかな?
「嫌じゃなかったら教えてほしいな。あたしあなた達のことを色々知っておきたいんだ」
「そう……ですね。ユウナ様はわたし達魔物の特性を知っておく必要がありますので、お話しておきます」
「特性?ぜひ教えてほしいな」
「まず先ほどの続きからお話しますね。わたしは人間に見られないよう、夜中にお墓参りに行っていました。しかしある日……普段はいない強そうな人間が警備をしていて……わたしは……」
どこかで聞いた話のような……。
「あなたはどうなったの?」
「はい……殺されてしまったのです」
「え!?」
殺されたって……じゃあ目の前にいるこの子は何?
というか殺したのってやっぱり、あたしを護衛してたランベル将軍?
ううむ……混乱してくるぞ。
まずひとつひとつ確認して行こう。
「殺されたのって……もしかして8日ほど前だったりする?」
「え……たしかそのくらいだったかと……。どうして知っているのでしょう?」
「こないだ、あなたに似た魔物を見たことあるって言ったよね? その殺されたところをあたしも見てたんだ……」
「そう……でしたか……」
「ごめんね……助けられなくて……」
「いえ、きっとその時のユウナ様は何も知らずに見ていただけなんですよね」
「うん……」
どうしようもなかったとはいえ、なんとも申し訳ない気持ちだ。
そして……もうひとつの最大の疑問もぶつけよう。
「それで……あなたは殺されたのにどうしてここにいるの? それが魔物の特性?」
「そうです。わたし達魔物は寿命以外で死ぬと定められた場所で蘇ります。わたしの場合はこのお城ですね」
「蘇るんだ……。あ、そういえばあなたが殺された時にもう一人いなかったかな?」
「はい、あの子は南のお城で蘇っているはずです。情報交換をしているために一時的に合流していましたので」
「そっか……南って遠そうだね」
「そうですね。行くにはかなり苦労する場所です」
「だよね……。でもどうして蘇るの?だれかの魔法?」
「プロメイティア様のお力です」
なるほど……男神は自分が創った魔物たちが大好きなんだろうな。
するとこの子たちは死なない不死身の存在?
「蘇ることでデメリットはあるのかな?」
「はい、魔力は枯渇し……能力も失います。わたしは人に見つかることなく偵察する能力を持っていたのですが、それが使えなくなりました」
「あ……だからお墓参りには行けなくなったんだ」
「そうですね。今のわたしは生まれたての魔物程度の能力しかありません。ですので雑用くらいしか役に立てないんです。だからユウナ様の面接に行くこともできなかったんです」
「なるほど……つらいことなのにお話してくれてありがとうね」
「いえ……知っておいていただいた方が良いことですので」
能力をなくすってかなりのデメリットだなあ。
ミリィは魔力を奪われたけど、死んだわけではないからすぐに復帰できたんだな。
蘇ることができるとはいえ……死んじゃだめだな、うん。
「ユウナ様……もし他の魔物が命をかけてユウナ様を守ろうとした場合は好きにさせてあげてくださいね。わたしたちは死んでもたいしたことはありません」
「え……でも……」
「能力を失うなんて些細なことです。愛する方を守れることの方がよっぽど嬉しいのですから」
「うん……覚えておく」
「はい」
犬っ娘は満面の笑顔だ。
やっぱりいい子たちだ。
自分のことより相手のことばかりを考える魔物たち。
あたしはこの子たちみんなを守れるように強くならなきゃな。
「いろいろ教えてくれてありがとう。良かったらこのお花もらってくれないかな?」
「いいのですか? いただきます」
嬉しそうにキキョウの花の入ったコップを受け取る犬っ娘。
可愛いなあもう。
「そうだ。あなたはあたしがこの世界に来てから初めて出会った魔物になるんだよ」
「そうなんですか、それは光栄です」
「能力なんてなくてもいいからさ……今度面接に来てほしいな」
「ありがとうございます。ぜひ参加させてください」
よし、能力がいらないのは本当だ。
こうやって話をしただけで、あたしはもう犬っ娘を気に入っている。
次に来てくれたら即採用だよ。
「それではユウナ様。失礼しますね」
「うん、またお話しようね」
「はい!」
犬っ娘は部屋から去って行った。
いい時間を過ごせたことにあたしは満足だ。
さて、今日の予定は大体終わりだ。
夜はまたみんなとお話しつつ作戦でも考えよう。
そして今日の夕食はにぎやかだった。
猫っ娘ミリィ。
人魚のアクア
蚕っ娘チルちゃん。
羊っ娘メア。
鳥っ娘ピィ。
あたしの部下というかお友達というか恋人というか……ペットも? 増えたなあ。
ちゃんとみんなを平等に可愛がれる様にしなくちゃね。
全員の紹介を済ませて、砦攻略について話し合う。
ピィが仲間になってくれたおかげで、あたしが空を飛べることも作戦に組み込めそうだ。
メアにはもちろん全員の心を安定させておいてもらう。
3日後の砦襲撃に向けて、あとは修行するだけだ。
そしてみんなにはあたしの最も重要な目標を話しておく。
リリアさんを元の生活に戻すんだ。
みんなは当然のように協力してくれると言ってくれた。
ありがとね、みんな。
でも……生き返れるからって命をかけようとはしないでね。