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16.あたしの可愛いモン娘④羊娘

 コンコン。

 羊っ娘が来たようだ。

 あたしはドアを開けて迎え入れようとする。

 ドアの前でエプロンドレス姿の羊っ娘がスカートのすそを持ち上げてお辞儀していた。

 かわいいなあもう……。


「本日はお招きいただきありがとうございます。ユウナ様」

「ようこそ、入って入ってー」

「失礼いたします」


 とりあえず椅子に座ってもらって、あたしも正面に座る。

 あらためて姿を確認してみよう。

 羊のようなぐるぐるした角。

 羊のようなもこもこの髪。

 あの髪って羊毛になるのかな?

 だとしたらチルちゃんが糸にして服にも使ったりできる?


 さて……見つめっぱなしも悪いし面接だ。

 まずはこれまでのお礼からかな。


「あなたのおかげであたしもリリアさんもすごく助かってるんだ。ほんとありがとうね」

「いえ……それがわたしの役目ですから」

「そっか……それでね、あなたにはあたしと他のみんなの心のケアをお願いしたいんだ。これから人間との戦いになると……みんなの心に負担がかかりそうで」

「はい、お任せください」


 いつも通りの笑顔で答えてくれる羊っ娘。

 あたしは悩む必要もなくこの子を採用だ。

 名前どうしようかなー。

 あ、その前にいろいろ聞かなきゃいけないんだった。


「ありがと。じゃあ一応いろいろ教えてね。あなたの特技は……夢で心を落ち着かせることなんだよね? 他にも何かあるのかな?」

「そうですね。でも実のところそれは特技というより……ただできるだけなんです。本当の特技は……悪夢を見せることなんです」

「え……?」


 悪夢を見せる?

 相変わらずの笑顔で悪夢と言われても戸惑ってしまう。

 優しそうなこの子にそんな能力が?

 全く不要な能力だよね?


「どうかされましたか?ユウナ様」

「あ……ごめん。少し驚いたんだ……。でも悪夢を見せる能力って使う機会ないよね?」

「そんなことはありません。とても役に立つんですよ」

「えっと……?だれにどう使うのか聞いてもいい?」

「そうですね……ユウナ様にはお話しておいたほうがいいでしょう。あれは700年前のことです……」

「えと……ちょっと待って……」

「はい……」


 なんだって?

 この子700歳以上生きてるの?

 驚きの連続に戸惑ってしまう……。

 少し深呼吸してと……。


「ごめんね……じゃあ続けて」

「はい。700年前も今と同じようにわたし達魔物は人間に嫌われていました。ただ、魔物は人間を襲わないということを人間達は気付いていたんです」


 むむ?

 昔は今より平和だったのかな?

 なんで今はこんなことになったんだろうか。


「そして魔物が脅威でないとわかると……次第に人間達は魔物のことを気にしなくなってしまいました。やがて……人間達の間で争いが始まってしまったんです。」

「戦争……。人同士で?」

「はい……それを見たプロメイティア様は悲しみにくれてしまいました。おそらくはアルティアナ様も悲しんでいたはずです」


 ん?

 話の途中で口をはさむのは悪いけどひとつ確認しておきたい。


「あなたはプロメイティア様に会ったことあるの?」

「はい……今はお隠れになっていますが、昔はよく現れていたんです」


 ふーむ……。

 なんで隠れたんだろうか。

 アルティアナに振られたショック?

 この子なら知ってそうだけど……それはまた後だ。


「あ、脱線させてごめんね。話を続けて」

「はい。それでわたしはプロメイティア様に相談して能力をいただきました。悪夢を見せる能力です。それを使って人間達に悪夢を見せました」

「どんな……悪夢?」

「魔物たちは恐ろしい存在で……放っておけば人間達を滅ぼしに来る……そんな悪夢です。その結果人間達の戦争は終わりました。人々は団結して魔物の脅威に立ち向かうようになったのです」

「それが……今もずっと続いてるのかな?」

「そうです。わたしの悪夢は、魔物への恐怖を魂に刻み込みました。それは子孫にも影響し、人間達は理由もわからないまま魔物への恐怖心を抱いているはずです」


 人間達が魔物を異様に恐れている理由が判明した。

 人間の戦争を止めるためにこの子は魔物を犠牲にした……。

 悪夢が役に立つってこういうことだったのか。

 なんてなんて優しい悪夢……。

 うう……泣いちゃいそうだよ……。

 でも羊っ娘は相変わらずの笑顔だ。

 この子はきっと……自分のしたことに後悔なんてないんだろう。


「それって……魔物はみんな知ってるのかな?」

「このお城ではヴェリア様とグリモアさんくらいでしょうか」

「そっか……さすがにみんなには言えないよね」

「そうですね……悲しむ方もいると思います。でも……きっとみんな戦争を止めたことを喜んでくれるはずです」

「うん……」


 きっとそうだね……。

 このお城の子たちはみんな人間大好きで……優しいもんね。

 あたしはこらえきれずに泣いてしまっていた。


「ユウナ様!大丈夫ですか?少し重い話でしたよね……今……ケアします」

「しちゃだめ……」

「え……?」

「あなたは笑っているけど……きっとつらかったはずだよ。だからあたしもこの悲しみを心にとどめておきたいの……。共有していたいんだ……」

「ユウナ様……」

「でも……ちょっとだけお願いしていいかな?抱きしめてほしいんだ」

「はい……ユウナ様」


 羊っ娘の腕があたしを優しく抱きしめる。

 羊のもふもふを感じるかなと思ったけど……人間に抱かれるのと変わらないかな。

 でも……気持ちいいな。

 服の上からはわからなかったけど、羊っ娘のおっぱいは大きい……。

 あたしは顔でその感触を楽しんだ。

 しばらくして……ちょっとだけ落ち着いた。

 そう言えばこの子は人間であるあたしを抱きしめてもいつも通りだな。

 他の子たちは触るだけですごい反応を示したのにね。

 長生きしてるから、他の子よりだいぶ大人なのかな?


「ありがとね……落ち着いたよ」

「はい、よかったです。あの……わたしの能力を使わなくても癒せたのは初めてです……。不思議ですね」

「不思議じゃないよ。あたしだって何の能力もないけど……こうやって抱きしめて喜んでもらうことできるしさ」

「あ……」


 あたしは逆に羊っ娘の頭を抱き寄せてみた。

 さっきまでと変わって慌てたようになる羊っ娘。

 うふふっ、やっぱり他の子と同じだ。

 なんだか愛おしくなって……頭をなでたくなった。

 なにか褒めてみようっと。


「人間の戦争を止めたあなたってすごいんだね。がんばったね。えらいえらい……」

「あ……」


 あたしの何十倍も生きている羊っ娘を子供のようになでてみた。

 頭のもこもこ……気持ちいいなあ。

 って羊っ娘がなんか震えてる?


「うう……ユウナ様ぁー」

「え?」


 羊っ娘が急に泣き出してしまった。

 どうしたんだろう?


「えっと……あたし変なこと言ったかな?」

「いえ……今まで戦争を止めたのは当たり前のことだと思っていたんです……。わたしの使命だって……。でもユウナ様に褒めていただいて……なんだか急に嬉しくなって……。わたしは……褒めてもらえることをしたんでしょうか?」

「うん、そうだよ。あなたはがんばったんだから……あたしが褒めてあげるよ」

「はい……嬉しいです……。わたし……本当は怖かったんです……。人間達に自ら嫌われるようなことをするの……。だからこそ褒めていただいて嬉しくて……」

「やっぱりそうだよね。つらい時は我慢せずあたしに言ってね。こうやって抱きしめるしかできないけどさ……」

「はい……それだけで十分です」


 なんだか本心を打ち明けられた気がして嬉しいな。

 この子がみんなの心を癒して……あたしがこの子の心を癒すんだ。

 まず最初の一歩はもちろん名前だ。


「じゃあ……あなたの名前を考えようね」

「名前……ありがとうございます。あ……そう言えば戦争を止めてひとつだけいいことがあったのを思い出しました」

「どんなこと?」

「わたしの悪夢を見た人間達にこう呼ばれたのです。『ナイトメア』と……。意味はわかりませんし、きっと悪い意味なのでしょうね。でも……名前をもらえたようで嬉しかった……」


 ナイトメアってまんま悪夢の化身って感じだね。

 でも羊っ娘はとても嬉しそうだ。

 じゃあ……こうしてみようかな。


「あなたにとって素敵な思い出なら……そこから名前を取ろうか」

「どういった名前でしょう?」

「メア……。あなたの名前はメアだよ」

「では……多くの人間とユウナ様……たくさんの方がつけてくれた名前となりますね……。嬉しいです……ユウナ様」

「気に入ってくれたならよかったよ。メア」

「はい……」

「メア……」

「はい……」


 お互いに見つめ合っていいムード……。

 これは……いいのかな?


「メア……目を閉じてね」

「はい……」


 メアの頭にはあたしの手を絡めたまま……。

 そのままあたしの方に近づけて……キスをした。

 声は出さないものの、メアの体がびくんと震える。

 でも嫌がってはいないはずだ。

 だってあたしの体につかまってるメアの手が強くあたしを抱きしめている。

 キスを終えて唇を離すと、メアはまたあたしの胸に顔を押しつけてきた。

 真っ赤になった顔が可愛いな。


「メアは甘えん坊だね」

「はい……わたしは古参の魔物です。甘える相手が今までいなくて……ユウナ様に甘えてもいいでしょうか?」

「もちろんだよ、いつでもおいで。メアが甘えん坊ってことは……あたしとメアだけの秘密だね」

「はい……2人っきりの時はこうさせてくださいね……」

「じゃあお話の続きはベッドの上でしようね」

「はい……」


 あたしの胸から離れようとしないメアをひきずるようにベッドまで移動した。

 今からいいことが……残念ながらはじまらない。

 まだまだ聞いておくことがあるんだ。

 ベッドに抱き合ったまま寝転がって会話を再開する。


「ところで魔物の人間に対する恐怖って取り除けないの?」

「魂に強く根付いてますが……時間をかければ取り除くことも可能です」

「そっか……それなら人間と魔物が仲良くなることもまだ可能なんだね」

「そうですね……」


 時間はかかるか……。

 でも取り除けるならよかったよ。

 だめだったらあたしの望む平和な世界なんて無理なんだから。

 そういえば……魔物という共通の敵がいたから人間の間では平和になったということはだ……。

 人間と魔物に共通の敵がいたら仲良くなれる?

 でもそんなのいないしなあ……。

 あたしが麒麟と一緒に世界の敵になればあるいは……。

 ってさすがに無理か。

 そもそもそんな方法とったらみんなを悲しませちゃう。

 他になにか考えよう。


「そうだ。ねえメア、あなたの能力で人間が魔物を好きになるようにはできないの?」

「怖がらせるのに比べると……かなり難しいですね。少人数なら可能ですが……その人間が迫害されてしまいます」

「そっか……でもいい方法があるよ。あたしの能力『神獣合体』を使うとあなたの能力が格段に上がるんだよ。あたしの魔力たくさんあるらしいからさ」

「ユウナ様の無限ともいえる魔力……たしかにそれなら可能かもしれませんね。でも……やはりだめですよ」

「どうして?」

「アルティアナ様が悲しまれます。愛する人間と……嫌いな魔物が仲良くするなどあってはならないのです……」


 えっと……それを言われてしまうとあたしが目指す平和な世界は実現不可能だ。

 あとはアルティアナに魔物を好きになってもらうしかないけど……きっと無理。

 むう……詰んでない?


「アルティアナ様は……あなたたち魔物にとってどんな存在なのかな?」

「私達を創ってくださったプロメイティア様の……愛する女神様です」

「だからあなた達もアルティア様のことが好きなの?」

「そうなりますね」


 やっぱり詰んでるか……。

 それにしても、自分を嫌う相手を好きになれるってすごいな……。

 健気な子たちだよ……。

 なんとかしたいけど……今はまだ方法が思いつかないな。

 とりあえず……健気なこの子を抱きしめようっと。


「あんっ……ユウナ様?」

「あたしのことも好きになってほしいな」

「えっと……もう……好きです……よ」

「そっか……嬉しいな」


 真っ赤な顔でそう言うメアが愛おしい……。

 あたしはおでこをメアのおでこにくっつけて目を見つめる。


「あたしも……メアのことが好きだよ。両想いだね……」

「はい……嬉しいです……」


 そう言ってまた涙を流すメア。

 案外泣き虫なんだね。

 よしよし、頭のもこもこをなでなで……。

 ついでにいたずら心が出て……お尻もなでなで……。


「ひゃっ!ユウナ様……あの……」

「メアのお尻ぷにぷにだね。触られるの嫌かな?」

「いえ……ユウナ様ならどこを触られても構いません……。あんっ……」

「ふふっ、メアってば可愛い声出すんだね」

「うう……だって生まれて初めて触られたんですよ……」


 何百年も生きてるのに初めてか……。

 不思議な感じだけど、なんか嬉しいな。


「じゃあこれから……いろんな初めてをもらっちゃうね」

「はい……ふつつかものですが……」


 そう言ってメアは目を閉じた。

 あれ?今言ったこれからを今すぐって意味でとられた?

 あたしは今後じわじわのつもりで言ったんだけどな……。

 えっと……どうしたらいいんだろう?

 と、とりあえずキスしながら考えよう。


「んん……」


 あたしの唇で塞いだメア唇から甘い声が漏れて……あたしは少し興奮する。

 もっと声聞きたいな……。

 舌いれちゃおうかな。


「んんっ……!?」


 少し驚いたような声。

 あたしは舌でメアの舌を探し求める。

 それに気づいてくれたのか、メアの舌がおそるおそるあたしの舌に触れてきた。


「んっ……」


 今度はあたしが声を出してしまった……。

 舌同士が触れ合うと……なんだか体に電流が走ったような気分だ。

 キスってすごいんだなあ。

 少し放心していると……今度はメアの舌があたしの舌を押し返してきて、あたしの口にメアの舌が侵入して……。

 なんだか立場が逆転しちゃった。

 でも……メアの方が年上なんだしリードしてもらおう。


「んんっ……んー……」


 あたしって割と色っぽい声が出せるんだなあと感心する。

 しばらくメアの思うがままにされて……なんだか眠くなってきた……。

 そのままキスをしながら……あたしの意識は落ちていった。





「ユウナ様……起きてください」

「んんー?メア?あたし眠ってたのかな?」


 なんだかとても気持ちよい目覚めだ。

 なんで寝ちゃってたんだっけ?


「申し訳ありません……。先ほどあまりの気持ちよさにわたしの体から魔力が漏れてしまい、ユウナ様と2人で眠ってしまったようです」

「魔力って漏れたりするんだ」

「はい、わたし達魔物は年齢を重ねるごとに魔力が増えて制御が難しくなっていきます。ただ……長く生きてきた中でこんな失敗は初めてです……。本当に申し訳ないです」


 なるほど。

 制御できなくなるくらいあたしとのキスが良かったのかな?

 なんだか嬉しいよ。

 そういえばアクアも魔法の制御ができなくなりかけてたなあ。

 

「いいんだよ。メアの気持ちいいのがあたしにも伝わったみたいでよく眠れたからさ。また今度一緒に寝ようね」

「はい……嬉しいです」


 さて、そんな長くは寝てなかったようだけど……もう少しで終了時間だ。

 残った時間でちゃちゃっとあたしの能力を説明しておいた。

 あとは……また時間のある時にみんなを紹介すればいっか。


「それじゃあメア、これからよろしくね」

「はい!ありがとうございました。それでは失礼しますね」


 もっといろいろ聞きたいことはあったけど、おいおいでいいかな。

 なんだかあの子の口から出る言葉は覚悟して聞く必要がありそうだし……。

 でもいろいろ重要なことを教えてもらえてよかったな。

 頼りにしようっと。

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