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13.あたしにできること

 あたしはなにもない空間に立っていた。

 ここはどこ?あたしは……だれかはわかる。

 これは夢なのだろうか?

 だとしたらいつ寝たんだろう?

 さっきは何をしてたっけ?

 たしか……リリアさんとお話して……。

 そうだ、リリアさんが死にたいと言い出したんだっけ……。

 その後あたしの顔を見たくないと言って……。

 あたしはその後どうしたんだっけ?

 ちゃんとお部屋へ帰った?

 だめだ……覚えてないよ。


 まあ、あたしのことはいいとして。

 リリアさんのことはいったいどうしたら……。

 あんなにも思いつめていては、どうしようもないよ……。

 どうしたらいいの……?


――あなたはどうしたいのですか?――


 ん?この声はだれ?あたしの心の声かなにか?

 あたしはリリアさんを助けたいよ。

 別に嫌われたままでいいから、なんとか人間たちのところへ戻って元の暮らしに戻ってほしいの。


――ではそうしましょう。皆に相談すればいいアイデアも出るでしょう――


 うん、そうだよね……。

 頭のいいグリモアさんとかいいアイデアを考えてくれるかな?

 でも怖いよ……。失敗したらどうなるの……。


――弱気になっていると、うまくいかない可能性があります――


 それはわかってる……だけどね……。


――まずは思い出しましょう。あなたが助けたい人のことを――


 リリアさん……あたしがこの世界で最初に会った人間……。

 あれ?いつの間にか目の前にリリアさんが立ってるよ?


『勇者様、よくお似合いです。女性の勇者様ですのではりきって服を用意いたしました』


 あたしもいつの間にか真っ白なドレスに着替えていた。

 そう、あたしがこの世界で最初に着た服はこの純白のドレスだ。

 リリアさんに着せてもらって気持ちよかったなあ。

 また着せてもらいたいな……また、仲良くしたいな……。

 いや……そんな贅沢は言ってられない。

 まずはリリアさんを無事に帰すことだけ考えよう……。

 リリアさん……必ず助けるからね。


『勇者様、魔物を倒して私達を救ってくださいね』


 ごめんね、それはできないんだ。

 だって、あなた達の言う凶悪な魔物はここにはいないんだもん。

 だけど、魔物を倒さずに救う方法を見つけるよ。

 勇者だから……ね?


『それでは勇者様は、私達を裏切り魔物の元へ着くのですね……』


 目の前にいるリリアさんの顔が恐怖に歪んでいく。

 あたしは見てないけど、あたしが裏切ったと思った時のリリアさんはこんな表情だったのだろうか?信じていた相手に裏切られた時の顔……。

 不謹慎だけど、あたしは少し嬉しいなと思った。

 だって、少しの間しか一緒にいなかったあたしをそんなに思ってくれてたんだなって。

 今はもう、信用0なのかな?


『ユウナ様……私を殺してください』


 結果的にこんな恐ろしい言葉を聞くことになった……。

 でも、これをあたしにお願いするってことは……えっと?

 まだあたしを少しだけ信用してくれている?

 でなきゃあたしに頼まないよね?

 って自分に都合よく考えすぎなのかな?

 でもなんだろう……なんだか落ち着いて思考が出来る。

 あんなに取り乱していた自分が嘘みたいだ。

 不思議な夢だな……。


 あらためて目の前にいるリリアさんをじっと見つめる。

 あたしの今の目的は決まった。

 リリアさんを助けるんだ!

 あたしは嫌われたって構わないし、一生恨んでくれていい。

 だから元の生活に戻ってね。

 よし、やるか……と思うけどここはいったいどこなのやら?

 おーい、声さんはどこだ?


――はい、決意が固まったようですね。それではお目覚めください――


 というわけで目覚めたようだ……。

 ここはどこかのベッドの上かな?

 目の前にいる可愛い女の子は……羊っ娘かな……。


「ユウナ様、お目覚めですか。心配いたしました」

「えっと……なんであたしここにいるんだろう?」

「リリアさんの部屋の前に倒れていたらしく、ここの医務室へ運んでこられたのです」

「そっか……部屋出てすぐに倒れちゃったんだね……」

「それで勝手ながら、夢の中で治療をさせていただきました。お気分はいかがでしょうか?」


 そういえば羊っ娘の能力って夢を操ったりとかだったっけ?

 リリアさんを落ち着かせてくれたのもこの子の能力なんだよね。

 今回はあたしも救われたわけか……。

 なんていうか、やる気にあふれているというか、前向きな気分だ。


「うん!すごくいい気分だよ。あなたの能力ってすごいんだね」

「いえ、気休め程度ですよ。後はユウナ様次第です。がんばってくださいね」

「がんばるよ、ありがとうね。それで……リリアさんのことなんだけど……」

「そちらはお任せください。出来る限りのことはしておきます」

「うん、お願いね」

「はい。あ、ちょうどお昼の時間なのですがどうされますか?こちらかお部屋のどちらで食べますか?」

「あ、お部屋で食べるよ」

「では、戻って待っていてくださいね」

「うん、ありがとね」


 医務室を出て、部屋に戻る。

 グリモアさんに相談に行きたいところだけど、食事時間は失礼かな?

 とりあえず腹ごしらえだ。


 コンコン。

 お、さっそくやってきたぞ。

 ドアを開けると、料理を運んでくれたのはチルちゃんだった。

 羊っ娘が来ると思ってたけど、気を遣ってくれたのかな?

 なんてできる子だろうか。


「おねえちゃん、お昼持ってきたの。体の方は大丈夫?」

「大丈夫だよー、ありがとね。チルちゃんこそちゃんと寝た?」

「うん、寝る頃には朝になってたけど……さっきまでたくさん寝たよ。ちゃんとおねえちゃんの服も完成したの」

「そっか、それは後で見せてもらうとして、ごはん食べよう。チルちゃんもお昼まだだよね?」

「うん、2人分持ってきたから一緒に食べようね」


 料理を並べていくチルちゃん。

 ちっこい容姿に似合わず、てきぱきと作業をこなしていく。

 よく考えてみると、服を作れるくらいに手先が器用なんだもんね。

 今日は野菜だらけのようだ。サラダに煮物に炒め物。

 チルちゃんは虫の魔物だから、草というか野菜ばかり食べるのかな?

 準備が終わったらしく、仲良く隣に座って食事開始だ。


「いただきまーす」

「いただきます」


 うーん、おいしい。

 気持ちが前を向くと食事もおいしくなるのかな?

 リリアさんも、ちゃんと食事しているといいな……。

 急いで食べて、リリアさんのことを何とかしよう。


「おねえちゃん、おいしいかな?」

「うん、おいしいね。作ってくれた人と育ててくれた人に感謝だよ」

「そっかぁ、えへへ……。この野菜育ててるのチルのお友達なんだよ。ちゃんと伝えておくね」

「うん、お願いね」


 チルちゃんのお友達はやっぱり虫関係かな?

 土を綺麗にするミミズとかいたりするのだろうか?

 ちょっと怖いけど、会ってみたいかも。

 だって、元が何であれここにいる子たちはみんな可愛いしね。

 さて、今日はいちゃつきたいのをこらえて急いで食べよう。


「ごちそうさまでした」

「おねえちゃん、食べるの早いね」

「あ、ごめんね。チルちゃんはゆっくり食べててね。今日は急ぐ用事があってさ」

「あ、さっき噂に聞いたけど……人間が作った砦の件かな?」

「ん?違うけど……それはなに?」

「なんかね、砦がこのお城に近づいてきてるとか聞いたよ」


 砦が近づく?

 動く砦でも作ったの?

 まあいいや、グリモアさんに会いに行ったときにこれも聞こうか。


 食休みしつつ、チルちゃんが食べるのを眺める。

 行儀よく食べる子だなあ。

 あたしとしては、ほっぺたにごはんつぶをつけて食べるちびっこが見たい。

 とりあえずそういった欲望は今度叶えるとして……。

 チルちゃんもようやく食べ終わったようだ。


「じゃあおねえちゃん、服着てくれるかな?」

「もちろん!楽しみにしてたんだ」


 あたしは素早く全裸になる。

 チルちゃんがまず下着を取り出す。


「おねえちゃん、着けてあげるね」

「よろしくね、チルちゃん」


 チルちゃんはやっぱり器用だな。

 あたしはいい感じに下着を着けてもらえた。

 おっぱいもしっかり寄せてあげてくれたし、衣服に関してこの子はプロだ。

 肌触りが以前のものよりもすべすべでいいぞ。

 メインの服はどんなかなー?

 

「じゃあ、完成した服がこれなの。どうかな?」

「おお!?なんだかこの服……光り輝いてない?」

「チルね、糸を作るときに時々すごく綺麗な糸が出来るの。それをたくさんためておいたんだけど、今回全部使っちゃったんだ。えへへ」

「そんな貴重な糸をいいのかな?」

「うん!名前を付けてくれた人にあげるって決めてたんだ。この服がおねえちゃんを守ってくれるよ。この糸は魔法の力もあるみたいだし、汚れないんだよ」

「すごいねえ、チルちゃんありがとう」

「ふみゅー」


 チルちゃんの頭をなでなでする。

 なんかすごい服を作ってくれたなあ。

 さっそく着せてもらう。

 シルク素材のワンピース、なんだか羽根のように軽いぞ。

 スカートも短くなって動きやすい。

 

「うん、気に入ったよ。ありがとうね、チルちゃん」

「よかった……。がんばった甲斐があったの……」

「寝る時間惜しんで作ってくれたんだよね。ほんとありがと」

「ふにゅう……おねえちゃん……」


 チルちゃんをふんわりと抱きしめる。

 よし、着替えたし行こうかな。


「チルちゃんはこの後予定あるのかな?」

「えっと……特にはないよ」

「じゃあお姉ちゃんと行こうか。グリモアさんがどこにいるかわかる?」

「たぶんお部屋だと思うんだけど……行ってみる?」

「うん、案内してね」


 チルちゃんと手をつないで、案内してもらう。

 グリモアさんの部屋はきっと本がいっぱいるんだろうなあ……。

 部屋にたどり着き、ノックする。


「ユウナ様ですね、どうぞ」

「おじゃまします。ってなんであたしだってわかったの?」

「城内のことでしたら、基本的に把握しておりますので」

「そ、そうなんだ……」


 え?あたしってば部屋でいろんな恥ずかしいことをしてるんだけど……。

 み、見られてたりするの?

 あたしの慌てた表情を見てグリモアさんは言い足してきた。


「部屋の中については基本的にのぞくことはありませんのでご安心ください」

「あ、そうなんだね……」


 ふう、一安心だ。

 基本的にってことはリリアさんの部屋は見てるのかな?

 だったら話が早いのかも。

 グリモアさんは机でなにかを書いているようだった。

 お部屋は予想どおり本だらけだ。


「それでユウナ様、どのようなご用件でしょうか?」

「実はね、リリアさんのことなんだけど……」


 あたしは今朝の一件を説明した。

 その上で、リリアさんを帰す方法を相談した。


「了解いたしました。難しい問題ですが考えてみますね」

「うん、お願いね。手間取らせちゃうから、あたしに手伝えるお仕事とかあったら何でも言ってね」

「そうですね……」


 グリモアさんは少し考えて、なにかを思いついたように言ってきた。


「ユウナ様、少しお願いしたいことがあります。うまくいけば、ユウナ様の望みも叶うかもしれません」

「え?それだったら何でも言って」

「まず、偵察隊が今朝報告をしてきた内容をお話します。人間達が建てている砦がつい最近完成していたのですが、それがこのお城に少しずつ近づいてきているというのです。つまり砦が移動していると」

「ああ、さっき噂で聞いたよ」

「いったいどのような力を使っているのか……大変脅威なのです」

「あー、もしかしたらなんだけど……。あたしより先に召喚された勇者がいるらしいんだけどね、その勇者が重力を操るらしいんだ」

「重力ですか……それなら納得がいきます。とても恐ろしい力ではありますが……」


 ふむ、勇者には勇者と麒麟が言っていた。

 ここはあたしの出番だね。


「わかったよ、あたしがなんとかしてみるね。でも、これであたしの望みが叶うって言うのはどういうこと?」

「ユウナ様が使役しておられる麒麟様の力は絶大です。砦を破壊することでその力を人間達に見せつければ……休戦の協定を結ぶことが可能かもしれません」

「ということは?」

「休戦の条件にリリア様を安全に返すことが出来るかもしれません」


 ふむふむ。

 良さそうな案だけど……でもなんかおかしくないかな?

 圧倒的な力を見せつけた側が人質を解放して休戦をお願いする?

 この疑問をぶつけると、次のように言われた。


「人間達との戦いでは、幻術を見せつけることで凌いでいることはご存知ですか?」

「うん、こないだ聞いたよ」

「その幻術内では我々が防戦一方……つまり人間が有利な展開となっており、こちらの戦力はかなり削がれていることになっています。つまり、我々は圧倒的不利な状況になっていると言えるわけです」

「ふむふむ……」

「そこへ突如登場したユウナ様のおかげで我々は大逆転勝利となります。しかし、攻勢に出る戦力は残っていないので休戦を申し出るわけです」


 なるほどなるほど……。

 それならどちらも戦力が減っているから休戦ということが成り立つんだな。


「わかったよ、あたしと麒麟が圧倒的な戦力を見せつけて砦を壊せばいいんだね」

「はい、後のことは我々にお任せ下されば、うまく処理してみます」

「うん!お任せするね」


 この後は細かい作戦を相談しておいた。

 砦の移動速度から何日くらいの余裕があるのか。

 移動の予測ルートから、迎撃に向いた地形はあるのか。

 できればアクアの力を借りるために川の近くがあればいいとも言っておく。

 また明日にでも情報をくれるとのことだ。

 あたしは戦闘の特訓でもしておきましょうかね……。

 あ、そうだ。今回のとは関係ないけどひとつ聞いておきたいことがある。


「グリモアさん、なんで幻術で人間に負けた状況にしているの?勝った状態にして逃げてもらえばいいのに」

「人間に不快な思いをしてもらいたくないからです……。それに、人間が不快に思う幻術を使う場合……術の行使者が罪の意識で倒れてしまいます……」

「そ、そうなんだね……」


 うーむ、常に人間に優しい子たちだなあ……。

 ここはあたしががんばってみんなを守らないとだね。


「じゃあグリモアさん、あたし戦闘の特訓してくるね。また情報が入ったらよろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」


 この部屋に来て一言も話していないチルちゃんの手を取り部屋を後にする。

 緊張してたのかな?


「チルちゃん緊張したかな? ごめんね、連れてきちゃって」

「ううん、大丈夫。グリモア様からの伝言は基本的に文章で来るから、直に声を聞くことって滅多にないんだ。だから緊張しちゃった」

「なるほど、たしかにあたしの部下募集の時もそうだったね」

「うん、でもグリモアさんかっこいいなあ……。あ、おねえちゃんほどじゃないけどね。えへへ」

「ふふっ、よしよし」

「ふにゅー」


 チルちゃんと仲良く歩きながら、あたしは外へ向かった。

 神獣合体をチルちゃんと試すのだ。


「チルちゃん、あたしの能力はね。みんなと合体して強くなれるんだ。やってみるね」

「うん……なんだかすごそうだね……」


 あたしはチルちゃんの目を見つめ……。


「神獣合体、チルちゃん!」

「はい!」


 返事はチルちゃんがあたしを受け入れてくれる合図だ。

 チルちゃんの体が光に包まれ……あたしに飛び込んでくる。

 やっぱり……気持ちいいぞっ!


 光がおさまり、あたしは体を確認する。

 なんだか小さくなったような……?

 そして胸がぺったんこだ……。

 ミリィの時は大きくなったのに今回はなくなったか……。

 合体相手にいろいろ影響されるのかな。

 チルちゃん、気分はどうかな?


――なんだか気持ちいいの。おねえちゃんと一緒になるってこんななんだね……――


 そうだよ、これからもたくさんすることあるから慣れておこうね。

 ではまず身体能力のチェックだ。

 走ったり飛んだりして見た結果……普段のあたしそのままだった……。

 チルちゃんは運動が苦手なのかな?


――うん……チルはいつもお部屋での作業ばかりで外には出ないから……――


 そっかそっか。

 じゃあこの状態じゃあ戦闘するには向いてないんだね。

 次は、糸を出す能力を試すかな。

 チルちゃん、ちょっと糸を出そうとしてみて。

 この体はチルちゃんも動かせるんだよ。


――わかった。やってみるね――


チルちゃんに体を委ねると、あたしの口から糸が飛び出してきた。

 おおう……喉の奥のどこからともなく出てくる糸……。

 不思議と気持ち悪くはないなかな。

 チルちゃんと合体した状態では自然なことなんだろう。

 とりあえず糸の出し方の感覚は分かった。

 えーと……意識をこう集中して……。

 お、出た出た。

 次はチルちゃん、同時に念じて糸を出すよ。目標はあの木ね。


―わかったよ、おねえちゃん―


 チルちゃんと意識を同調させて、糸を念じる……。

 木に巻きつく糸……見た目はさっきと変わらないかな?


――わあ!すごいよおねえちゃん。チルが普段出してる糸より丈夫そうなの!――


 お、チルちゃんがそう言うなら間違いないね。

 こうやって2人で意識を合わせればチルちゃんの能力を引き出せるからね。

 これが共同作業ってやつだよ。


――なんだかいい響きだねー。はじめての共同作業って――


 なんだか体の中が熱くなる。

 チルちゃんが照れているのかな?

 とりあえずこれを練習しようか。


――うん!たくさん糸出したいな。持って帰って使うね――


 こうしてしばらく一緒に糸を出す練習をした。

 狙った場所へ素早く糸を出せるようになった。

 今度ミリィを相手にして、動いてる相手を捕まえられるか試してみなきゃね。

 たくさん出した糸を回収してチルちゃんの部屋へ行くことにした。


 部屋に入ると、たくさんの糸や布や革といった素材や加工道具があった。

 これはまさに職人さんのアトリエだ。

 なんだか糸で作られたハンモックのようなものもあるぞ。

 さなぎのような形だが、ベッドなのかな?


――うん、とっても気持ちいいんだよ。今度おねえちゃんも一緒に入らないかな?一緒に寝たいなあ――


 うん、ぜひぜひお邪魔させてもらおうかな。


――わーい、じゃあ今度少し大きくしておくね――


 よろしくね。楽しみが増えたよ。

 さて、ここに来た目的……チルちゃんの服を作るのだ。

 あたしが頭で思い浮かべたイメージをチルちゃんが形にできるのか。

 これを試してみようと思う。

 さて……どんな服がいいのかなあ?

 色は白が好きなのかな?


――うーん……白以外を着たことがないの。おねえちゃんがあうと思った色なら何でもいいよ。チルの糸は染めても綺麗だよ。そっちに染めてある布もあるの――


 ふむふむ。たしかにカラフルな布や糸もある。

 綺麗に染まってるね。

 あたしが今頭に思い浮かべているのは、近所の小学校の制服だ。

 上下一体型のセーラー服のようなデザイン。

 青い生地に白い線が入っていて、大きな白いリボンが付いている。

 あたしはそれを着たチルちゃんを頭に思い浮かべる。

 頭には赤いベレー帽のような可愛い帽子。


――わ、なんだか見たことないタイプの服だけどかわいいね。えっと……これならなんとか作れると思うよ――


 そっか、じゃあ今から作れるかな?


――うん!おねえちゃんはずっと頭で思い浮かべててね。体はチルが動かすよ。これも共同作業だよね?えへへ――


 うんうん、一緒に作ろうね。

 あたしは詳細な部分までしっかりイメージを固める。

 体はチルちゃんにより自動で動いていく。なんとも不思議な気分。


――チルね、いつもデザインを考えるのが苦手だったんだ。だから今日はすごく早く作れそうだよ――


 チルちゃんの言うように、あたしの手はすごい速さで正確に布を切断していく。

 型紙とか作らずにいきなり切ってるんだもんなあ。

 よし、順調になるようにイメージをし続けねば……。


 こうして、2時間ほどで服が完成した。

 可愛いのが出来たなあ。


――出来たの!新作なのにこんな短時間でできるなんて……おねえちゃんすごいんだねえ――


 いやいや、すごいのはチルちゃんの実力だよ。

 あたしは少し手伝っただけ。

 さ、次はかばんも作っちゃいたいけど……疲れてるかな?


――全然大丈夫だよ!チル集中したら1日中作業してたりするんだ。それに、今はとっても調子がいいんだ。おねえちゃんの中にいると力があふれてくるよ――


 そっかそっか、これはあたしの中にある大量の魔力のおかげなのかな?

 麒麟先生はいるかな?


――うむ、ユウナの中にある魔力は膨大だ。周りに浮遊している魔力を取り込み、回復もしているようだ。どんどん使うといい――


 お、麒麟先生から回答が来たぞ。

 なんだかあたしってすごい奴?

 では、チルちゃん作業をしようか。


――今のが外にいる麒麟様の声なんだね?チルにも聞こえたんだ。かっこいいね――


 なるほど……やっぱり合体中は麒麟の声が聞こえるんだね。

 さて、あたしはかばんというかランドセルのイメージを頭に浮かべる。

 色はもちろん赤だ。


――ふむふむ、これは革なんだね。えーと……牛さんの革……あ、ちょうど赤く染めてあるやつがあるよ――


 ほう、都合よくちょうどいい素材があるものだね。


――うん、虎のお姉ちゃんになんかすごく面積の小さい革の服を依頼されてね。たくさん余っちゃったんだ――


 虎のお姉さんか……なんだかかっこよさそうだ。

 面積の小さい革の服?

 なんだかあぶない大人の世界の予感?

 まあ気にするまい……虎のお姉さんに感謝だ。

 あと金具とかあるけど……これも使えるものあるのかな?


――金属の加工は苦手だけど、開け閉めだったら革でも似たようなのは作れるよ。それに糸を操って開け閉めするからなくてもいいしね――


 なるほど、チルちゃんにお任せで問題なさそうだ。

 では作ってみようー。


――がんばるよ!――


 そんなわけで1時間ほどでランドセルが完成。

 器用だねえ……革の切断とか難しそうなのにさくさくって切ってたよ。

 では……さっそく身に着けてもらおうかなー。


「合体解除!」


 チルちゃんがあたしから出て、あたしの体は元通りに大きくなる。

 合体したのに縮むって、いろんな物理法則を無視してるよね。


「にゅう……おねえちゃんの中癖になりそうなの……」

「ふふ、またやろうね。じゃあ着替えようか」

「うん……おねえちゃん手伝ってね」

「任せなさい」


 まずは脱がせよう。

ってもチルちゃんが自分で糸を体に巻いているのでほどいてもらうだけだが……。

 ここで下着を作ってないことに気がつくが、これは今度作ってもらおう。

 チルちゃんに服を着せてボタンを止めていく。

 これはセーラーワンピースと名付けよう。

 リボンをまっすぐ結んで完成だ。

 頭にはベレー帽。背中にはランドセルを背負わせる。

 

「どうかなチルちゃん」

「うん!とっても可愛らしいの。このかばんもたくさん糸が入って便利そうなの。ありがとねおねえちゃん」

「いいのいいの。チルちゃんが可愛い方があたしも嬉しいから」

「えへへー……。ねえ、これお友達に見せて気に入ったら同じものを作ってあげていいかな?今度お揃いの服作る約束してたんだ」

「うん、お友達も可愛くしてあげてね」


 この服を着たちびっ子たちが並んで歩くところを想像すると……楽しくなる。

 チルちゃんも嬉しそうだし、またこうやって服を作ってもらいたいな。

 そのために、今ある問題を解決していかないとね。

 そろそろ夕飯の時間かな。

 ミリィやアクアが戻ってきたら、一緒にご飯を食べながら作戦会議だ!

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