表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

12.壊せない壁

 目覚めると顔がやわらかい感触に包まれていた。

 なんだろう?目を開けてるのに視界は塞がれている……。

 んー?ミリィに抱きつかれて寝たんだったかな?

 このやわらかさは……おっぱい!?

 ミリィったら、抱きつくのが大好きなんだね。

 あたしを抱き枕にしちゃってるんだ。

 じゃあしばらくはこの感触を楽しませてもらおうか。

 ミリィのおっぱい……あたしより少しおっきいなあ。

 ちょっとうらやましいぞ。


「むにゃむにゃ……ユウナ様……。うちの耳かじっちゃだめだにゃあ。食べ物じゃにゃいのー」


 どんな夢を見ているのやら……。

 たしかに食べたくなるような耳だけどさあ。

 というか、ミリィにはそんなことすると思われているのだろうか。

 うんうん、あたしのことをよくわかってくれてるね。


 さて、このままのんびりまどろむとして……今日の予定はどうしようかな。

 まず目覚めたリリアさんには絶対会おう。

 あとはアクアとチルちゃんにもあいさつしなきゃね。

 そういえば、麒麟みたいにテレパシーで会話できないのかな?

 ちょっと試してみよう。

 アクアー、聞こえたら返事してー。


――あら?ユウナ様の声が聞こえたような……気のせいでしょうか?――


 おお、通じたぞ。

気のせいじゃないよー。あたしが話しかけてるよー。


――ユウナ様なのですか?びっくりですわ……こんなこともできますのね――


 うん、試してみたんだけど、仲良くなった子とはできるみたいなんだ。

 おはよう、アクア。


――おはようございます、ユウナ様。目覚めはいかがですか?――


 うん、すっきりだよ。

 でもまだ隣でミリィが寝てるけどね。


――あらあら、あの子ったらユウナ様の朝食の準備も忘れて眠ってますのね――


 んー?もうそんな時間なのかな?

 昨日たくさんはしゃいで疲れてから寝坊したのかな。


――そのようですわね。では、わたくしが朝食を運びにまいりますね。ユウナ様に直接お会いしたいですし――


 あ、そうしてほしいな。

 あたしもアクアに会いたかったんだ。


――うふふっ、それではしばしお待ちくださいな――


 よし、アクアが来てくれるぞ。

 このテレパシーは便利だね。

 次はチルちゃんにも話しかけてみよう。

 おーい、チルちゃーん……。


――くー……すやすや……――


 ん?寝息が聞こえる?

 つまりは寝てるのかな?

 夜遅くまあたしの服を仕上げて寝ているのかもしれない。

 よし、起こしちゃ悪いからそっとしておこう。


 んー……アクアが来る前にちゃんと起きて服を着るべきなのかな?

 裸で寝ている2人を見たらどんな反応をするんだろう?

 ラブコメっぽく驚いて逃げていくかな?

 それとも大人っぽいアクアだから、あらあら……って感じでにっこりしてるのかな?

 わたくしもー!って飛び込んできてもらうのが理想だなあ……。

 アクアは水から出られないから出来ないけどさ。


「むにゃあ……ユウにゃ様ぁ?あれ?いないにゃあ」


 ミリィが起きてさっそく寝ぼけている。

 あたしはあなたが抱きしめてるんだよー。


「ミリィ、ここだよー」

「むにゃ?枕からユウナ様の声がするのにゃ」

「枕じゃないよ、あたしだよー」

「んにゃっ!?ユ、ユウナ様!


 ようやく抱きしめているのが枕じゃないと気付いたミリィ。

 いつもこんな寝方をしているのかな?

 弟君も被害にあってそうだ。

 あたしはミリィの抱擁からようやく解放される。

 なかなか楽しい時間だったよ。


「ユウナ様、ごめんにゃさい……よく弟にも寝像が悪いと注意されるのにゃ」

「いいんだよ。あたしの抱きしめ心地はどうだった?」

「むにゅむにゅでふにふににゃあー」

「ふふっ」


 よくわかんないけど、良かったんだね。

 さて、こうしていたいけどちゃんと起きよう。

 でもその前に……ちゅっ。


「にゃう……朝から嬉しいことだらけにゃあ」

「おやすみのキスの後はおはようのキスで起きるんだよ」

「わかったにゃー」

「それじゃミリィ、お仕事だよ。服着せて」

「にゃいっ!」


 ミリィに服を着せてもらうあたし。

 相変わらず慣れない手つきなので、すごく時間がかかる。

 でも、この間にミリィの裸をじっくり見ちゃうのさ。

 やっぱりあたしより胸おっきいよね。

 というかあたしが小さいのかな……。

 まあいっか。ぺったんこチルちゃんだっているわけで……。

 あんな小さな子と比べるのもどうかと思うけどさ。

 無事着替え終わり、ミリィにもメイド服を着せてあげる。

 よし、アクアが来る前に着替え終わったぞ。


「にゃああ!!ユウナ様ぁ、朝食の準備忘れてたのにゃあ!」

「うふふ、知ってるよ。アクアが持ってきてくれるってさ」

「にゃう……申し訳ないのにゃあ」

「昨日はたくさん遊んで疲れたもんね。許してあげるよ。それとも、ミリィはしょっちゅうお寝坊してるのかな?」

「そ、そんにゃことないの。いつもは弟が起こしてくれるのにゃ……」


 ふむ。昨日見た時は弟のお世話をしてるお姉ちゃんって感じだったけど……。

 実際は弟の方がしっかりものかもしれないな。

 あたしの中でミリィはドジっ子に認定されつつあった。


 コンコン。

 お、来たかな?

 ミリィが部屋のドアを開ける。


「お食事を持ってきましたわ」

「アクアだ。おはようにゃー。お魚の匂いがするにゃ」

「これはユウナ様のですわ。お寝坊さんはお魚抜きですの」

「にゃんだってー!」


 ふふ、この2人仲がよさそうだね。

 それにしてもアクアの食事の運び方がすごいな。

 台車に乗った水槽に使っているのは昨日見たとおり。

 どうやって運ぶのか疑問だったけど、なんと水槽から水が生き物のように飛び出て食事を運んでいる。器用に水を操るんだねえ。今度合体してあたしも水を操れるか試させてもらわなきゃ。


「アクア、おはよう。ありがとうね」

「ユウナ様、おはようございます。今すぐご用意いたしますね」

 

 アクアは器用に水を操って、テーブルに食事のお皿を並べていく。

 まるで大道芸だなあ……お金取れるね。

 あ、ちゃんとミリィの分のお魚もあるみたい。

 あんなこと言ってたけどやっぱり優しい子だよ。


「アクアはもう食事終わったの?」

「はい、朝は魚を捕まえやすいので皆で潜って食事をするんですの」

「なるほど、楽しそうだね」

「よろしければ今度ご招待しますわ。ちゃんとその場で食べられるようにさばきますので」

「おお、ちょっと行ってみたいかも」

「ではいつでも言ってくださいね」

「うん!」


 いやあ、楽しみが増えたぞ。

 バーベキューパーティーもあるしお魚パーティーもか。

 なんかあたしここで遊んでばっかり?

 でもここってそんな感じに平和な空気なんだよなあ。

 人間と戦争?してる感じは全くないんだ。

 だからとりあえず楽しもう。

 

「うちも行きたいにゃあ」

「ミリィはいつだったか水に入ったら怖すぎて気絶しちゃったじゃない」

「うみゅう……猫は水に弱いのにゃ」

「ふふ、今度合体したら行けるかもね」

「それだにゃ!ユウナ様おねがいしますにゃ」

「合体?それはなんですの?」

「あたしの能力でね、2人で合体して1人になれるんだ。そしたら強くなれるんだよ。アクアも今度やってみようね」

「なんだかすごそうですわね。よろしくお願いします」


 うん、こうやってみんなと合体してあたしの能力を確認していくんだ。

 それがこの世界を救うのに役に立つ!かもしれない。

 そうしたいなあ。


「ユウナ様、冷めないうちにどうぞ」

「そうだね、いただきまーす」

「いただきますにゃ」


 あたしとミリィは仲良く食事を開始した。

 お魚とごはんと野菜スープ。

 シンプルだけど朝ごはんにはちょうどいい。

 お魚は新鮮でおいしいしね。

 アクアはニコニコと見守ってくれている。

 なんだか家族って感じだなあ。

 今度チルちゃんも呼ぼうっと。


「ふう、ごちそうさまでした」

「ごちそうにゃまでした」

「はい、おそまつさまでした。片付けますね」

「うん、ありがとうね」


 また水の大道芸を見せてもらう。

 あれって上手く使えば戦いで敵の戦意をそげそうだなあ。

 水場で呼べばいいのだろうか。


「ねえ、海の水ってしょっぱいよね?」

「そうですわね。だから魚の味付けには困らないんです」

「な、なるほど……。アクアはしょっぱくないお水でも大丈夫なのかな?」

「はい、川へ泳ぎに行くこともありますわ」

「なるほどー、じゃあ水がある場所なら召喚できるね」

「そうですわね。いつでもお呼びください」

「うん」


 どうせなら水槽ごと召喚できたらいいのにな。

 ん?もしかして出来るかな?

 今度やってみなきゃね。


「ユウナ様?今日の予定はいかがされますかにゃ?」

「えっとね、今日はあたしが連れてきちゃった人間のリリアさんのところへ行くんだ。だから今日は自由にしててね。なにかあったら呼ぶよ」

「わかったにゃー」

「わかりました。わたくしは海のパトロールへ行ってまいります」

「うちは砦の偵察に行くにゃ。あ、病み上がりだから安全な場所の担当にゃよ」

「そっか、2人とも頑張ってね」

「それでユウナ様におねがいがあるのにゃ。召喚でここに帰還できるのか試させてほしいのにゃ」

「なるほど、やってみようか。いつ頃?」

「夕方ごろかにゃ?」

「うん、できたら便利だね」


 なるほどね。

 昨日の実験では部屋にいるのを召喚した後、帰還させると部屋に戻った。

 召喚した後そのままでもいいのか……帰還は必須なのか……。

 確かめるにはちょうどいい


「それではユウナ様、失礼いたします」

「いってくるにゃー」

「いってらっしゃーい」


 2人を見送ると、部屋が少しさみしくなった。

 さあ、リリアさんのところへ行ってみよう。

 部屋を出ると、リリアさんの部屋の前に羊っ娘が立っていた。

 少し落ち込んだ顔をしている?


「おはよ、今日もリリアさんのお世話してくれたのかな?」

「ユウナ様、おはようございます。リリア様ですが目をお覚ましになられました」

「そっか、どんな感じかな?」

「はい、お体の方も精神の方も安定されているようです。今は朝食を置いてまいりました。ただ、わたしを見て怯えられましたので外で待機しております」

「そっか、なんかごめんね。魔物に対してなにか誤解してるみたいなんだ」

「いえ、慣れていますので大丈夫です。それより中へどうぞ」

「うん、ありがと。行ってみるね」


 羊っ娘、慣れてるとは言うけど大好きな人間に怖がられてつらいんだろうな。

 この子は部下にして抱きしめてあげねばなるまい。

 そう誓って、ノックをして中に入った。


「おじゃまします」


 中に入ると、ベッドで起き上がってぼーっとしているリリアさんがいた。

 こちらを一瞬見て、少し悲しそうな困ったような顔をした。

 リリアさんを裏切った勇者がやってきたんだ。仕方ない……。

 もっと拒絶されることだって覚悟してきたんだ。

 羊っ娘が言うように顔色はいいようだ。

 あたしが知っている綺麗なリリアさんのまま……。

 でも、食事はしてないみたいだな。

 さて、なにか話しかけなければ……。


「リリアさん、元気そうでよかった……。気絶してたから心配してたんだ」

「……」


 何も答えてはくれない……。

 でも、謝らなくっちゃね。


「リリアさん、こんなことになって本当にごめんね。あたし、魔物たちがあんなひどい目にあっているのが耐えられなくて……だから助けちゃったんだ」

「……」

「えっと……こんなこと言っても許してもらえるわけないよね。だけど……謝らせてね。あたしのせいでごめんなさい!」


 あたしはリリアさんに向かって深くお辞儀をした。

 しかし何も言い返してはくれない……。

 こっちを見てもくれない。

 何も反応してくれないんだ……。

 やばいよ……泣きそうだよ……。

 リリアさんの声が聞きたいの……。罵倒でもなんでもいいからさ……。


「どうしてなのでしょうね……」


 あ、リリアさんがぼそっとだけで一言話してくれた。

 どうしてって言うのは?ここに連れてきたこと?あたしが裏切ったこと?

 あたしは言葉の続きを待った。


「本来ならばあなたや魔物たちに恐怖し震え、私は裏切ったあなたに文句を言うはずなのでしょうね。でも、そういった感情が湧いてこないのです。私はすでに魔物に洗脳されているのでしょうか?」


 えと……羊っ娘がかけてくれた魔法のおかげで落ち着いているはずだっけか。

 ただ、それを言うと……魔物に洗脳されたってことにされてしまうだろう。

 リリアさんの中にある魔物への誤解から、ほぼ確実にそうなる……。

 でも、誤魔化したりはしたくない。

 正直にあたしの気持ちを話そう。


「リリアさん、信じてもらえないと思うけどあたしの話を最後まで聞いてね」

「……」


 返事はないけど、拒否もされてないんだ。続けよう。


「人間たちはね、魔物たちのことを誤解しているんだよ。魔物たちは本当は優しいの。その証拠に、ここは魔物のお城なのにリリアさんもあたしも歓迎されている。ちゃんと寝てる間の世話もしてくれたし、おいしい食事も出てるんだよ」


 リリアさんは食事をちらっと見た。

 おなかがすいているのかな?

 食事はお粥っぽいものと良く煮込まれている感じのスープ。

 病人向けって感じのものだ。


「リリアさん、とりあえずお食事をしないかな?ほら、見てみてよ。魔物が凶悪だったらそんな食事作れないよね?リリアさんを騙すための罠って思っちゃうかもしれないけど……そんなことはないの」

「そうですね……魔物が作ったとはいえ、食事は粗末にはできません。いただきます」


 リリアさんは食事のお盆を手にとり食べ始める。

 ほっ……これで少しは安心だ。


「リリアさん、あたしがいたら邪魔だろうから……少し外にいるね」

「……」


 また何も言ってくれないが、あたしは部屋の外に出た。

 ふう、どうしたらいいんだろう……。

 羊っ娘もまだ外で待っていてくれたようだ。


「ユウナ様、いかがでしたか?」

「とりあえず食事してくれたよ。でも……あたし嫌われちゃってるんだ……」

「そうですか……。わたしの力が及んでいないようで申し訳ないです」

「え?なんで?あなたのせいじゃないよ」

「わたしはリリア様の悪夢を食べました。魔物への恐怖、ユウナ様への恐怖と悲しみ。表面上はその感情が出なくなるくらいに食べましたが、心の奥底にある恐怖までは食べることができませんでした。わたしにもっと力があれば……」


 悪夢を食べるか……。

 なんともやさしい子だね。

 だからリリアさんはあんなに落ち着いていたんだな。

 でも、あなたが落ち込まなくてもいいんだよ。


「それをしてくれただけでも十分だよ。だってあんなに落ち着いてたんだからさ。ありがとね。あとはあたしがなんとか話してみるよ」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 羊っ娘がにっこりと微笑んでくれた。

 うん、かわいいな。

 って今はそんなことを考えてる場合ではない。

 それにしてもこの子の能力って、人間と魔物を仲良くさせるには使えそうだよね。

 次回は絶対にこの子をスカウトだな。

 そのためにまずはリリアさんに元気になってもらうのだ。

 羊っ娘には休んでてもらおうかな。


「じゃあさ、ここはあたしに任せて。あなたも他に仕事があるんだよね?」

「はい、お気遣いありがとうございますね。ではなにかあれば呼んでください。わたしはたいてい医務室におります。場所は誰に聞いてもわかりますので」

「うん、わかった。なにかあれば行くね」


 羊っ娘を見送り、あたしはリリアさんの食事を待つ。

 さっきからいろいろ悩んでるけど、なにもいい考えが浮かばない……。

 とりあえずあたしの正直な気持ちを話そう。


 しばらく待って、そろそろいいかなと部屋をノックする。

 返事はないけど、入ろう。


「リリアさん、嫌かもしれないけど入らせてね。お話をもう少し聞いてほしいんだ」

「はい……聞かせてください。食事をして少し落ち着きました。おいしい食事だったと伝えていただけますか?私から言うのは怖くて……」

「うん……伝えておくね。喜ぶよきっと」


 リリアさん、魔物はやはり怖いんだね。

 でも仕方がない。

 とりあえずあたしの話を聞いてくれるだけありがたいや。


「リリアさん、私はひどいことしちゃったよね。そして、今からもひどいこと言っちゃうと思うけど聞いてね。あたしの正直な気持ちだから……」

「どうぞ……」


 今度は返事をくれた。

 ちゃんと聞いてくれるんだね。よかった……。


「リリアさんが信じている教えだけどね、少し間違いがあると思うんだ。ずっとずっと昔から伝わってるから、伝わる途中で何かの間違いがあったと思うの。魔物はさっきも言ったように凶悪じゃないし、しかも人間を殺すなんてできないって言ってるんだよ」

「そう言われても信じられません……。魔物はやはり凶悪なのですよ」

「でも考えてみてほしいの。魔物が凶悪だからって怖がっている人は確かにたくさんいたよ。でも、実際に襲われたって人はいたかな?あたしはほんの少しの人にしか聞いてないけど、実害があった人はいなかったよ?」

「それは……」


 リリアさんは考え込む……。

 あたしの予想だといないはずなんだ。

 だって、襲うはずがないから。


「私の知っている人にはいませんが、そういった話ならいくつか聞きました……」


 そう言うリリアさんは不安そうだ。

 言葉も歯切れが悪い。


「しょせんは噂話じゃないかな?リリアさん達はずっと教えにしたがって生きてきたから気が付いていないんだろうけど、他の世界から来たあたしにはとっても異常な状況なんだよ?」

「異常ですか……」


 リリアさんは悲しそうな顔でそうつぶやく。

 う……今の言い方は酷だったのかな?

 でも、言わなきゃ……。


「ご、ごめんね。リリアさんのこれまでの人生を否定するような言い方になっちゃたけどさ……。でもこれがあたしの正直な気持ちなの……」

「そうですか……ユウナ様の目、ここに来てから見た時と同じ。まっすぐで綺麗な目……。きっと嘘をついていないし私を騙す気などないのでしょうね……」

「うん、もちろんだよ。それにあたしだけじゃないの。ここに来ていろんな魔物とお話ししたけどさ、みんなすごくいい子なんだよ。リリアさんの看病してくれてた子だって、ずっと心配そうな顔で、徹夜で付き添っててくれたんだよ。さっきも心配そうにずっと外で待ってたしさ」

「そうですか……ユウナ様……とても楽しそうですね」

「う、うん……。リリアさんが苦しんでるのに楽しんじゃってたんだ……ごめんね。でも、きっとリリアさんもみんなと仲良くなれるよ」

「私はもう元の場所に戻ることはできないでしょうね。おそらくは魔物のスパイとして殺されるのでしょう」

「え!?や、やっぱりそうなるのかな?リリアさんは人質として連れてこられたのに?」

「過去にも例があったため、よく知っています。間違いありません」


 うう……予想はしてたけど、残酷すぎるよ……。

 人間のばかー、教えのばかー!

 そうなるとリリアさんが生き残るには……。


「私が生きるには、もうここで魔物たちと一緒に暮らすしかないのでしょうね」

「えと……最初は嫌かもしれないけど、そうしてみようよ。きっと楽しくなるよ?あたしもいるからさ……。それに、うまくいけば帰れるようになるかもしれないし……」

「……」


 リリアさんはまた黙りこんでしまった。

 このまま説得してなんとかここに居てくれるようにしたい……。

 でも、なんて言えばいいんだ?

 あたしも何も言えずに黙りこんでしまう……。


 そんな気の重い沈黙を破ったのはリリアさんだった。

 決意したようにこう言ったのだ。


「ユウナ様……私を殺してください……」


 え?なんて言った?

 気のせいじゃなかったら……とても恐ろしいことを言ったよね?


「リリア……さん?何を……」

「同じ人間に殺されるのは嫌です。魔物に殺されるのも怖いです。だから第3者とも言えるユウナ様に殺していただきたいのです」

「そうじゃなくて……なんで死のうとしてるの?」


 どういうことだ……?

 すごく落ち着いた感じで言っている……。

 羊っ娘が消すことが出来なかったという心の底の恐怖。

 それは死にたくなるほどの恐怖ってことなのかな?


「私のこれまでの人生は否定されました。もう生きる意味などないのです。アルティアナ様の教えでは自殺は禁じられています。ですから頼むしかないのです」

「あたしの信じてるものだって、人を殺すことなんて禁止に決まってるよ!魔物だって人間は殺せないの……。だからここにはリリアさんを殺すことができる人も魔物もいないんだよ……」


 あたしはもう泣いているようだ。

 だってだって……あたしが1人の人間の人生を台無しにしちゃったみたいなもんなんだもん。

 

「そうですか……では私はこれから行き地獄を味わうことになるのですね……。残酷なことですね……」

「えっと……えっと……」

「ユウナ様……私を殺していただけないのであれば、もう顔を見たくありません。出て行っていただけますか」


 そう言って顔を背けるリリアさん。

 どんな表情をしているのかはわからない……。

 あたしはもう何も言えない……。

 完全に拒否されているのだ。

 あたしはふらふらした足取りで逃げるように部屋を出ていく……。


「ごめん……ね……」


 最後に何とかこれだけを絞りだし、ドアを閉めた。

 鍵、かけておこうかな……。

外に出てなにかあってはいけない。


 でも、どうしようか……。

 いろいろと最悪な結果を予想していたけど……こんなことになるなんて……。

 あれ……?なんだかうまく立てない……?

 景色もゆがんで……。

 あたしはそのまま倒れていった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ