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お悩み解決隊結成




「ん……おはよう」


「あー、おはようさん」


 目を覚ますと、未だに見慣れない天井が広がっていた。何時かとは違い、電気は点いておらず、ランタンの微かな光だけしかない。

 起き上がると、隣に寝ていたコウも同じように起き上がり、挨拶を交わした。


「床がかてぇよな、毛布がないよかマシとは言え、せめて布団くらいありゃあなぁ」


「確かに。まぁ贅沢は言えないから、毛布にくるまるしかない」


 この場所……いや、この異世界に来てから一日が経った。怪物に追いかけ回された疲れも、もう癒えている。


 今、僕達二年二組、四班が寝ているのは学校一階の一年三組教室。あの後『鍛冶能力』東郷さんと『建築能力』江島さんの二人によって、一階が修復され、一階各教室を各班の寝床として使用している。


「……おはようございます……今何時ですか……?」


「兄さん……あ、もう起きちゃってるんだ。通信できない……って言うことは七時以降かなぁ」


 皆起き出した。無口な大塚さんも、起きている。

 他の教室に居る他の班も、起きている頃合いかもしれない。


「そう言えば……コウ。頑張りなさい」


「大塚さん? あぁ、そういや俺、探索組になったんだったか」


 昨日の話し合いで決まったのは寝る場所、それに加えてあの洞窟を攻略するメンバーだ。僕は戦闘で役に立たないから居残りだったりする。


「ま、ウィンドウシールドを使えば、問題ないさ 」


「ぐっ……」


 苦い記憶がよみがえるから、それあんまり僕の前で出さないでほしいんだけど……ウィンドウ。能力の説明文が出るあれ。僕が頭をぶつけたあれだ。


「あれを盾にするって発想が出たのははお前のお陰だ。もしかしたら、お前が俺を助けることになるかもなー」


「からかうために言ってないか、お前……」


 そんなことを考えていると、部屋の電灯が灯された。今井さんが点けたらしい。

 時計の指し示す時間は八時。朝で、窓からは朝日が差し込む時間。


 ま、朝日どころか光一つ差し込んではこないが。


「……皆、朝御飯食べに行こう、お腹減ってきたし、速くしないと無くなるかもしれないよ」


「ん、そうだね、阿東。じゃぁ行こうか」


 歯磨きは食後で良いか。

 しかし、風呂入ってないから凄いべたつく……真夏だってのに。学校に風呂は無いから。


 そんなことを考えながら、朝食を食べるため、二階の教室へ。二回にある理由は、食料を調理する家庭科室に近いから、だそうで。


「やっほー」


 教室に入ると、誰かに声をかけられた。

 聞き覚えのあるような無いような声。一体誰だったか。


「私よ、私、柏木こな。四ヶ月クラスメートやってるのに忘れたのかしら」


 一人の少女が大きく手を振っている。

 柏木こな……名前に聞き覚えがある。確か女子生徒だったはずなんだけど。


「………………なんで性転換してないの?」


「してるわよ? 私の能力の変化で、元の姿になっているだけ。一応言っとくと、私が記憶してないと無理だから、貴方を元の姿にとかは無理よ」


 変化能力かー、それが良かったとは言うまい。

 昨日、助けられたしね。塗装能力にも愛着湧いてきたんだ。


「羨ましい」


 大塚さんがポツリと一言。

 性別変わったのが昨日聞いたが相当嫌だったらしい、彼女。気持ちはわからなくもない。

 そう呟くと、大塚さんは適当な席に着いた。


「しかし、がらーんとしてるね」


 阿東が辺りを見回す。

 確かに、柏木さん以外だーれもいない。いや、配膳係らしいどらお……オカマの人とポッチャリとした感じの女子は居るが。


「そりゃそうですよ、もう八時なんですから、もう皆食事とか済ませてます」


 話をしながら席に着く。名も知らぬ生徒の机で、食堂代わりとは言っても、普通の教室で。

 ふと、机の……何だっけ、教科書とかしまう場所を覗いてみる、と教科書が入っていた。多分もう誰にも使われないんだろうなぁ……。


「そう言えば、俺達の机ってどうなったんだろうな……別に何か入れてた訳じゃないが、気になるよなー」


「日本にあるのかも……もしかしたら、消滅してたり……夜になれば兄さんが教えてくれるよ、きっと」


「元の世界、どういう騒ぎになってるやら」


「ニュースになって、私たちの顔写真とか出ていたりするかもしれませんね……憂鬱です」


 四班全員、近い席に着いて料理ができるまでの間、世間話をする。元の世界か……両親とかも心配してるだろうし、勉強も遅れる。

 少なくとも、さっさとこの学校生活からは脱したい。異世界だとしても、光も射さないここじゃぁね。


「あら、そんなに気になるなら拾った携帯で確認してみれば良いじゃない」


 柏木さんが話しかけてきた。

 そう言えばこの時間帯にここに居るってことは、この人も遅くに起きたんだろうか。


「忘れてた……その手があったか。見てみる?」


「僕の能力の存在意義が……兄さんと話せるってだけで充分あるけどね! 見てみよ、見てみよう」


 阿東が詰め寄ってきた。

 そんなに気になるのか、こいつ。ポケットから携帯電話ことスマートフォンを取り出す。名も知らぬ先生のものである。


「なんでどうして言ってても仕方ない、電波が何故かあるのには突っ込むまい、良い?」


「オーケー」


 電源をオンにして、電話帳とかアプリとか、そういうのからは目を逸らして、地球のマーク、インターネットをタッチする、と。


「学校でなに見てんだよ!?」


 いかがわしい感じのページが表示されて、思わず携帯電話を投げ捨てた。けど、放っておくわけにもいかず、すぐ拾った。直ぐにすべてのタブを閉じる。


「わ、わ……何あれ……」


「はは、良いもん見れたじゃねぇか」


 反応が真逆だ。喜んでるコウと、そんなもの始めて見たと言わんばかりの阿東。

 自分は冷静を装って、インターネットを再度タッチして、ニュースサイトを探す……けど多分顔赤くなってる。


「あ、あった。何々……奇怪、回丘第二高校の半分が消失!? 残った校舎はあり得ないバランスで成り立っている!? だって」


「大部分がこっちに有るのに、向こうにも校舎は残ってるのか、やっぱ魔法とかそういうのなんだろうな」


 うんうんと頷くコウ。

 四班のみならず、柏木さんやオカマの人やポッチャリとした人……石沢って言うらしい人までこっちに来て話を聞いている。


「八月二十八日、回丘第二高校が突如消失……ここはいいや。様々なおかしな点が目立ち、電気が使用されているらしい点など……」


 怪奇現象として、様々な専門家などがインタビューされていた。でも、誰もが不可解な出来事としていて、宇宙人の仕業とか言う人までいるとか。


「卒業生や、町の人々にもインタビュー……卒業生のT.Iさんは、異世界にでも行ったのかもしれない、とコメント……」


「当たってやがる……まぁここが異世界っていう確証はないんがな。続きは……H.Sさんのコメント。僕も色々怪奇現象に遭遇してきたけどこんなのははじめて……だと」


 昔から、小学校の大量殺人だとか、大地震だとか、高層ビルが数個破壊されて死者多数とか、物凄い事件が多発してたけど……呪われてるんじゃ無いの、この町。


「ニュースを見る限りだと、よく解っていない、てのが現状みたいだね。でも生徒達は全員生きているみたいだよ」


「行方不明の私達は、死んだと思われてる見たいですけどね……」


 ニュースには特に、現状を打開する方法は乗ってなかった。起こったことを書き、インタビューを載せた感じ。コメント欄は……デマじゃないかとか、今日はエイプリルフールじゃないぞ、とか。


「信じられてないみたいねぇ。はい、ハル君、他の皆も。今日の朝食はホットケーキ。家庭科室に残ってたもので、アタシが作ったのよ」


 調理実習の残りとかか。それにしても、オカマの人、料理できたんだ。席に置かれた皿の上にあるホットケーキは、凄く美味しそうに見える。


「シロップとバターさえあればねぇ……」


「だな、でも無くても充分美味そうに見えるぜ」


「あら、ありがとう、お姉さん、惚れちゃうわ」


 コウとオカマの人……まぁ今は正真正銘女の人だけど……の話を聞き流しながら、六切れに切り分けられたホットケーキの人切れにフォークを突き刺して口へ運ぶ。


「いただきます……んっ、あれ、これシロップもバターも無い……はずじゃ?」


 口の中のホットケーキの味は、バターとシロップがかけられたホットケーキの味のそれだ。程よく甘くて……うーん?


「石沢君の能力、味付けのおかげよ。彼……彼女の能力は幅広い使い方が可能なのよ。因みにアタシの能力はりょ・う・り」


 成る程、だから味が。

 これなら例え食べてるものが乾パンであれど、様々な味が楽しめる。食事面は問題無さそうだ。


「それって! どんなカロリーの高いものも、油っぽくて躊躇するようなものも、普通に楽しめるってことですね! 最高ですね!」


 今井さんが凄い喜んでる。

 話を聞く限りじゃ、食感までは再現できそうにないけど、確かにそういう使い方もあるのか。


「僕は、作るより食べる方が好きなんだけど」


 確かに、石沢さんはそう言うタイプっぽい。

 外見だけで人を判断するのは駄目だけれど。


 六切れのホットケーキを、数十秒で平らげてしまった。それくらい美味しかった。空腹だったのもあるかもしれないけど、言い過ぎではないはず。


「御馳走様でした。美味しかったよ、ありがとう」


「能力と石沢君のおかげよ、でも嬉しいわ」


 朝食をとったら……部屋に戻って歯磨き、その後は顔洗って、九時には居残り組全員で会議だったっけ。

 コウは九時から、探索組と一緒に探索だったか。


「さて、戻りましょう」


「そうだね、大塚さん。じゃ、先行ってるから」


 今井さん達はまだ食べてる。

 食べ終わったし、速く戻って支度しないと。


……………………

………………

…………


 現在時刻午前九時。

 歯磨きと顔洗いを終わらせて、毛布畳んで……支度を終えて、会議の時間である。


 広い会議室……何てものはないので、二階教室……食堂とは当然違う……を使っている。


「さて、これから戦闘や探索に向かない能力の持ち主である私達はどうしようか、話し合いましょう。司会は私、東郷 北が担当するわ」


「書記は昨日ぶりに、僕。柴田衛が担当するよ」


 戦闘に向かない能力。僕の塗装を始め、東郷さんの鍛冶やオカマの人の料理なんか。因みにコウは夜目が聞くし、影操作は撹乱に使えるから探索組。


「先ずは司会である私から。私達は探索組の為に、武器や役に立つアイテムを制作する、と言うのはどうかしら」


「だけどさー、あたしや春っちみたいに、完全に生産にも役に立たないようなのはどうするの?」


 発言したのは島崎菜々さん。能力は鍵開け。鍵がなければやることがないし、今井さんや変化の柏木さんも、同じように生産系でもない。


「……どうしましょうか。取り合えず、生産系の能力者はそうする、と言うことでいいかしら」


 手を挙げる。

 そう言う能力があるなら、使わないのはもったいないだろうし。他の人も手を挙げている。


「満場一致ね。なら次は、島崎達が何をするか、ね」


「そうだね。春君は別に、僕と組めば戦闘もこなせそうだけど……」


 黒板に書き終えた文学少女が話し始める。

 うーん、何もすることがない、っても掃除くらいは出来るんだけど……


「お悩み相談」


 ポツリと呟く声が聞こえた。

 聞き慣れた声。大塚さんの呟きだ。

 …………お悩み相談?


「私みたいに、性転換を嫌がってる奴も居る。そう言うやつら、主に探索組のメンタルケア」


「あ、それいいわね。メンタルケアは大事よね、じゃぁ……春君、鋼次郎君、こな、梨央の四人はお悩み解決隊、いいわね?」


 お悩み解決隊……僕と、学級委員と、変化の人と、バカの四人で……解決どころか悪化させそうな面子だ。


「島崎はどらおの手伝いをお願いできるかしら。人手が足りないだろうから」


「りょーかい」


「今井さんは建築の手伝い、お願いできる?」


「はい、わかりました!」


 と、誰がどんなことをするかは、大体決まった。

 次は、生産組が何を作るか、さっき結成したお悩み解決隊が誰の悩みを解決するか、とか。


「生産組……私達は何を作ればいいか、意見はあるかしら?」


「お風呂、必要だと思うよ」


 真っ先に手を挙げて発言した。

 恐らく数日以上はかかる脱出まで、風呂がないのはきつい。


「あっ、確かに、春っち、良く言ってくれたよ!」


「お風呂……確かに必要ね。よし、生産組はお風呂、そして風呂に必要なものを作るわよ! 良いわね!」


 全員が手を挙げて賛成する。

 ふふ、自分の意見が受け入れられるのは嬉しいものがある。


「次ー、お悩み解決隊の行動内容だね」


 文学少女の声。

 彼はそれだけ言うと黒板の方に振り向いて、黒板に書き始める。


「と言っても、だーれが悩んでるのか、まだわからないんだよねぇ。こう言うときは、あれを使いましょうよ」


「……あれ?」

 

 彼女……鋼次郎は、一体何を言って?

 あれ、あれ……解らないときに使うアレ?


「悩んでいる人が、悩みを紙に書いて入れるための箱だよ。それを作ろうよ、作りましょうよ」


「それね」


……………………

………………

…………


「なーんで私がこんなことを……」


「まーまー、こな。良いじゃん別にさ。トイレ掃除とかよか遥かにマシだよー?」


 鋼次郎の一言で、僕達は箱作りに勤しむことになった。今は箱のデザインを皆で考えている。

 長い髪を振り乱して嘆く柏木さんと、彼女を慰めてる高木さん。


「春君は、デザインどういうの? 見せてくれると嬉しいかな」


 デザイン。僕のデザインは……デザインと言えるかは兎も角として、特に何の変鉄もない黄緑色の箱。派手にしすぎるのもアレだし、暗くもない色で。


「黄緑の箱かぁ。私のはこれだよ」


 半ば奪い取るようにして取ったデザインを書いた紙を僕に返して、デザインを見せてきた。予想に反して、マトモな感じである。今はこんなでも、元が真面目な学級委員だったことを思い出させる。


「終わったわ」


「私もー」


 柏木さんと、高木さんも終わったらしい。

 柏木さんのデザインは……細長い黒色の箱。

 高木さんのデザインは、犬の貯金箱みたいな形をしている。


「……全員のデザイン、どれも捨てがたいね」


 鋼次郎が、真面目な顔で全員のデザインを見比べている。因みに鋼次郎の箱は、お悩みがあればここへ、と書かれた黒い箱。


「ねぇ、こなちゃんは、何でこのデザインにしたの?」


「これって机の上に置くことになるんでしょう? でもそれじゃつまらないから、机の教科書置く場所に入るように、って」


 成る程。それは盲点だった。確かにそれもいい。

 高木さんのデザインも可愛らしいし……


「……どれにしようか……そーねぇ、いっそ各階と昇降口に全部置こう!」


 結果、そうなった。自分のデザインの箱を自分が作ることになった。因みに塗装はもちろん僕。一人だけ作業量が違う。


 予想以上の手先の器用さを高木さんが発揮し、デザイン通りの犬の形の箱、柏木さんが確り入るよう測って細長い箱を作って、鋼次郎は凄い達筆で。

 なんか僕だけスケール違う気がしてきた。


「犬の形だから、紙を取りにくいって思うでしょー? でも、実は口から普通に取り出せるんだよ」


「そうなってるんだ……ほぇー」


「ふふん、私の箱も、いちいち箱を机から出すの面倒にならないよう工夫がしてあって……」



 なんやかんや、お悩み解決隊第一回活動は、割りと楽しかった。そして翌日、箱を設置した次の日に、紙は大量に入れられていた。


 それは何故か……


……………………

………………

…………



「男子と女子の制服、逆にしようよ」


 現在時刻午前九時十三分。時が凍りついた。

 発言者は文学少女。場所は会議室こと二階の教室。


「理由は簡単。昨日、探索組が制服のズボンが長いせいで躓いたんだ。もし戦闘中に起こってたら死人が出るかもしれない」


 理由は割りと真面目な物だったため、却下されず通り、実際に交換になった、その為だった。








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