アスペルガー症候群は共感能力がある
アスペルガー症候群の人は人の気持ちがわからないのだ、という話を本で読んだことがあった。
しかし、ぼくは実際にアスペルガー症候群の人にあったことがある。
その人は、障碍者手帳を持っているレベルの、自称ではなく、本物のアスペルガー症候群の人だったのだが、どうも人の気持ちがわからないとは違うように思った。
確かに、いわゆる「健常者」とは違う感じはしたが、それでも嫌な感じはしなかったし、話したりメールをやり取りする中で、人の気持ちがわからないとか、こっちの気持ちをわかってくれないとか、そういうことはなかった。
つまり、こっちがちゃんと説明すれば、それなりに納得してくれたし、その納得の程度は、ぼくが「健常者」のみなさんとお話するときに相手からもたらされる納得とたいして違いはないように感じた。
でも、これは印象論であるから、そう感じただけで、実際深く付き合うと違うのかもしれないとも思ったのであったが――
以下のツイートを見て、考えが少し変わった。
けんつ@kentz1
ASDがあるひとは共感性が乏しいわけではなく、ASDのひとはASDのひととは共感しやすいという研究結果、ASD群とTD群の戦争という感じしかない
これはなんのことかと調べると、おそらく以下の研究のことであった。
(以下、引用)
自閉スペクトラム症がある方々による、自閉スペクトラム症がある方々に対する共感
米田英嗣 白眉センター特定准教授、小坂浩隆 福井大学特命准教授、齋藤大輔 同特命准教授、間野陽子 ノースウェスタン大学研究員、ジョンミンヨン 連合小児発達学研究科院生、藤井猛 国立精神・医療研究センター病院精神科医員、谷中久和 鳥取大学特命助教、棟居俊夫 金沢大学特任教授、石飛信 国立精神・神経医療研究センター室長、佐藤真 大阪大学教授・福井大学特任教授、岡沢秀彦 福井大学教授らのグループの共同研究において、自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder:ASD)がある方々に、ASDの行動パターンを行う人物を記述した文と、ASDではない一般的な行動パターンを行う人物を記述した文を読んで、自分に当てはまるか、自分と似ているかを判断してもらう際の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて計測しました。その結果、ASDがある方々はASD特徴がある人物を判断する際に、共感や自己意識と関連する脳部位が活動することがわかりました。
本研究成果は、2014年11月5日に「Social Cognitive and Affective Neuroscience」電子版に掲載されました。
概要
ASDがある方を対象とした従来の研究では、ASDがないTD(定型発達、Typically developing:TD)人物を対象に作られた文章課題を用い、ASD群とTD群を比較し、TDの人が作った基準によって結果を解釈する研究が多かったといえます。TDの人たちが自身と類似した他者について理解しやすいのと同じように、ASDがある人たちも自身と類似したASD特徴がある他者について理解しやすい可能性が考えられます。本研究グループの一連の研究から、ASDとTDの人たちを対象とした物語理解の研究において、ASDがある人はASDがある登場人物の記憶検索に優れることが明らかになってきました。
そこで、本研究では、ASDがある方々は、ASD特徴がある方々について考えるときに共感が起こるかどうかを脳科学的手法で検討しました。ASD特徴がある人物の行動パターン記述文(ASD文)と、TDの人物の行動パターン記述文(TD文)を、ASDの成人と、年齢、知能指数を合わせたTDの成人に読んでもらいました。呈示された文に関して、自分にあてはまるか(自己判断課題)、文の主語である人物が自分と似ているか(他者判断課題)どうかを判断してもらいました。その結果、ASDの成人はASD特徴がある人物を判断する際に、自己の処理、共感に関わる腹内側前頭前野が有意に活動しました (図)。
この結果から、ASD の成人は、自身と類似した ASD 人物に対して共感的な反応を示していることがわかりました。さらに、ASD人物を判断する場合、自閉症スペクトラム指数が高いほど、腹内側前頭前野の活動が高くなることがわかりました。したがって、ASD傾向が高い人ほど、ASD人物に対して共感的に理解している可能性が示唆されました。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141105_2.html
(引用終了)
くわしい論文、というか簡単なまとめは以下から手に入る。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/documents/141105_2/02.pdf
これはどういうことかといえば、以下のようなことである。
「1.言語理解、文章理解の研究
ASD者は、他者の感情理解に困難を持ち、他者に対して共感を示さないと言われるが、自分と類似していない定型発達(TD)者に対してのみ共感を示しにくいという可能性が考えられる。
日常的な出来事が書かれてある物語文(ASD登場人物の物語、TD登場人物の物語)を高機能青年ASD者に物語文の理解と記憶力を確認し、TD群と比較検討した。ASD群では、ASD登場人物の物語を理解しやすく、質問に早く答えられた。さらに内容と結末に一貫性のある物語の方がより理解できた。ASD者は、自分と似たASD傾向のある人には共感できる可能性があり、物語を記憶する際に文脈と一貫性のある形で貯蔵している傾向(物事の過程や内容よりも結論を重視する傾向)がみられた(Komeda, Kosaka et al., Molecular Autism, 2013)。
この課題におけるfunctional MRI(fMRI)研究では、内側前頭前野等に両群間で交互作用が認められ、脳内ネットワークでも両群間で有意差を認めた。TD群が自分に似たTD登場人物に共感する内側前頭前野に、ASD群も自分に似たASD登場人物の読解中に賦活が認められ、脳科学的にも、ASD者は共感する能力があることを証明した。」
http://www.med.u-fukui.ac.jp/cdrc/katsudou_bumon3.html
実のところ、人の気持ちがわからないというのではなく、多数派である「健常者」の考えがわからないだけなのでは?ということだ。
また、実際のアスペルガーの人のホームページ(以下)に書いてあったことは、とても共感できた。
http://asperger.maminyan.com/zakki002.html
ぼくは「健常者」に属するが、書いてあることは、とても納得できる。
要するに、思うこととしては、アスペルガーの人とのコミュニケーションというのは、健常者側の話し方を変えることでも変わる可能性があるのではないだろうか、ということだ。
もちろん、身体障碍と違い、個人差が非常に大きい、まさに個性が存在する障害なので、常にそれでうまくいくとは思わないが(だって定型発達の人とも話が通じないことはある)、うまくいくことだってあるんじゃないかと思うのだ。