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最終話

私は犯人を体育館裏に呼び出した。

証拠はあるのか、と言われれば厳しいが、私が分かることを重ねていったところ、あの人しか思いつかない。

私が待っていると、犯人が姿を現した。

「や、や、や、山本君!!ぼ、僕になにか用かな!?」

清潔で整った衣服、真面目そうな顔立ち。そう、犯人は――

「委員長。貴方に聞きたいことがあるの」

「あ、ああ!なんでも言ってくれたまえ!!」

委員長は顔を赤くして凄く焦っている。これはほぼ確定だろう。

「委員長、私ね、今日こんな本を借りたの」

そう言って、私は今日借りた本を委員長に見せた。そう、この『やさしいトマトの育て方』を。

「は、話が見えないんだけど……」

委員長がたじろぐ。私は委員長に告げる。

「委員長、貴方トマトを全部隠したでしょう」

委員長の顔が赤色から一気に青くなる。嘘はできないタイプだな。

「ど、どうしてそんな結論になるんだ!」

委員長が大きな声で反論する。なら、一つづつ説明してやろう。

「まず、昨日の委員長の行動から説明するね。委員長が持っていたあのブルーシートはトマトの水除けでしょう?」

「……そうだよ」

「トマトはもともと雨の少ない国の作物。一度に多くの雨を受けてしまうと、実が割れてしまう」

そう本に書いてあった。

「……ああ、その通りだよ」

だから、農家の人はトマトを大抵はハウスで育てるのだ。

「委員長は、昨日大雨が降ると聞いて、トマトが大雨に凄く弱いことを思い出した。だからブルーシートを被せて雨が当たらないようにしたんだ」

「……」

「だけど、そのブルーシートははがされてしまった。

そして次の日、畑が気になって校門が開く6時に畑に着いた委員長は畑を確認して驚いた」

私は続ける。

「ブルーシートが無くて、トマトの実が割れてしまってるって」

「……」

「そこで責任を感じた委員長は同じグループの人が来る前にトマトを回収して隠した。違う?」

「……僕がやったっていう証拠はあるのかい?」

「ないよ。」

そう、証拠はない。もしかしたら、深夜に学校に車で乗り付けた人が盗んだのかもしれないし、誰か別の人が学校に隠しているのかもしれない。

私は名探偵じゃないから、正確に答えなんて出せない。これは単に可能性の話だ。だから――

「委員長。正直に言って。私、委員長を信じてる。ここで委員長が自分がやってないと言ったら私はそれを信じて、委員長に謝るよ」

委員長の誠意に賭ける。仮に間違っていても、謝ればいい。

委員長はしばらく顔を歪ませていたが、しばらくすると、はっきりと告げた。

「ああ、僕がやったんだ」


委員長は明日クラスの皆に謝ることを約束してくれた。

「せっかくいいトマトを育てようとしたっていうのに、僕の準備不足のせいでパアさ……」

委員長は自嘲気味に笑う。

「でも、委員長のせいじゃないよ、あの下級生の子の……」

「違うさ。本来ならもっと早い段階で屋根を作るべきだったんだ。それなのに、僕はそのことを忘れていた。

急場しのぎのブルーシートじゃああんなことになるのも当然さ」

やはり委員長は人間ができている。あ、そうだ。あと一つだけ聞きたいことがあったんだ。

「でも、ひとつ分からないことがあるの」

「なんだい?」

委員長はリラックスしている。これならなんでも答えてくれるだろう。

「別にトマトが割れたからと言って食べられないわけじゃないのにどうして隠したの?」

そう、そこだけが引っかかる。トマトが割れても、見た目と食感が悪くなるだけで、味には大して影響がない。

だったらどうして隠したのだろう。発表にも差し支えるだろうし。

確かに、割れたトマトなんて食べたくないが。普通のトマトでさえ嫌なのだ。

[そ、それは……]

「どうして?」

私は首を傾けて尋ねる。そんなに隠すようなことなのだろうか?

「ク、クラスの皆に割れたトマトを食べさせるなんてそんなマネ僕にはできないからね!あははは!」

委員長は物凄い引きつり笑いをしていた。きっと、プレッシャーから解放されたショックからなのだろう。

「へえ、委員長はやっぱり偉いね!」

しばらく体育館裏には委員長の引きつり声が続いていたのだった。

【下校】

「まさか、犯人が委員長とはね」

あの後、委員長と別れた後、私は恵と帰っていた。

「明日のホームルームでクラスの皆の前で謝るらしいよ」

「へえ……」

トマトは学校の用具入れの中に隠していたらしい。

「それにしてもよくトマトが割れちゃってたなんて気付いたね」

「ああ、笹本のお蔭だよ」

笹本のカタバミが繁殖する際の言葉を思い出したのだ。

カタバミは際に実を破裂させて繁殖する。だが、あの時、笹本は言っていた。

『何事も例外は付き物である』と。その言葉を思い出して、他に割れるような要因がないか調べたらビンゴだったというわけだ。

「すごいね祥子!名探偵じゃない!」

「わ、私は自分のできることを積み重ねただけだよ」

そう、私はできることをやっただけだ。それに、証拠は見つけることができなかった。

最後には委員長の良心に頼ることになってしまった。

「それにしても、突然祥子が『ここは私一人だけに任せてくれないかな?』だもん、びっくりしちゃったよ!」

恵が頬を膨らませて言う。う……そう言われると弱い。

「ごめんね、もし間違ってた場合が怖くて……」

まあ別にいいよ、と恵はすぐに許してくれて、にっこり微笑んだ。ありがとう。

恥ずかしくなってきたので、話題を少し変える。委員長の事だ。

「呼び出したときの委員長ってばすっごい緊張してて、びっくりしちゃった」

いくらなんでもあそこまで緊張するものなのだろうか。

あんな態度では自分が犯人であると宣伝しているようなものであるのに。

恵の返事がないので、ふと、恵の方を見る。恵は笑顔をやめて怖い顔をしている。一体どうしたのだろう。

「……ねえ祥子?委員長をどうやって呼び出したの?」

恵の目が険しくなり、厳しい声で私を問い詰める。

「え?普通に呼び出したよ?大事な話があります、放課後体育館裏に来てくださいって」

いつもと違う恵の態度に驚きながら答える。何をそんなに怒る必要があるのだ?

それを聞くと、恵は大きなため息を吐いて、ボソッと言った。

「流石に委員長可哀想だなあ……」

「え?何か言った?」

良く聞こえなかった。すると、恵は困ったような笑顔で、

「いや、なんでもないよー。祥子はいつまでも祥子だなあって」

「?」

恵はたまによく分からないことがある。一体どうしたというのだろう。

「ほら、早く帰ろっ!私お腹すいちゃった!」

と、恵が早歩きを始める。

「待ってよ恵!」

私も負けじと駆け出す。

「待たないよー!」

空は青く澄みきり、私の視界には2つの太陽が輝いていた。


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