6話目
「ねえ、祥子、私たちでどうにかできないかな?」
恵は休み時間に閉口一番にそう告げた。
「どういう風の吹き回し?」
「委員長がちょっと可哀想で……」
「恵、委員長の事あんまり好きじゃなかったんじゃ……」
たまに委員長の事を睨んでるようなフシがあることを思い出す。
「そ、そんなことないよ!?ただ……いや、内緒!」
「む……」
まあ、隠したがっていることをむやみに聞くのはいけない。
「まあ、暇だし別にいいよ」
実際の所今の委員長は見ていられない。
ぱああ……と恵の顔が綻ぶ。咄嗟に目を背ける。
「えっと、ドラマでは聞き込みをするんだっけ?」
「うん、そんな感じだね!」
ニコニコと恵が笑う。
「とりあえず、委員長、は無理そうだから委員長の同じグループの子に聞いてみる?」
横目で真っ白になった委員長の姿を見ながら言う。流石にあれは話すのは気が引ける。
「その次は……笹本先生の所に行ってみる?先生ならきっと遅くまで学校に残ってるよ!」
「あーはいはい。あとは……昨日グランドで遊んでた下級生の子、とか?」
あの顔は見たことがある。確か2年生だったはずだ。ウチの学校は大して生徒数が多くない。恐らくすぐに見つかるだろう。
「それじゃあそんな感じで行ってみよー!」
ビシッと恵が腕を上に挙げる。恥ずかしいからやめて。
5年1組清水昭義君(委員長と同じ研究グループ)の証言
どうしたの君達?え?トマト事件について教えてくれ?委員長が一番詳しいんじゃ……
ああ、そうだね、委員長落ち込んじゃって話しかけにくいもんね。
えっとねえ……実は僕昨日はすぐに家に帰っちゃったんだ。
いや、僕だけじゃないよ?グループの中で委員長以外皆帰っちゃったんだって!
ちょっと冷たい目で見ないでよ!委員長がなにか作業をしているなんて知らなかったんだから!
それで、今日の朝7時に集合して皆で収穫しようって約束してたんだ。
それで7時前に着くとすっごい落ち込んでる委員長がいたんだ。
で、委員長が畑の方に向けて指を指したから見てみると――
トマトが全部なくなっていたんだよ!(何度も同じ話をしたのだろう、芝居ががっている)
え?今回のトマトの研究について知っていることも全部教えてくれ?
別にいいけど……正直な話うちのグループ委員長以外あんまりやる気なかったんだよねえ。
だから僕らは基本委員長の指示に従って動いていただけさ。
んー、他にはねえ……。あ、委員長昨日の夜に大雨が降るって聞いてすっごい焦ってたよ。
いったいどうしたんだろうねえ。
こんな所でいい?オーケー、またね!
理科教員笹本の証言
ん、どうしたお前たち?何?5年1組のトマトが消えたことで何か知っていることはないか、だと?
探偵ごっこか?まあ、昨日手伝ってもらった礼だ、できることなら手伝ってやろう。
そうだな……昨日はお前たちと別れた後、職員会議が長引いたのとテストの採点で10時位まで学校に残っていたな。
ん?健康に気をつけてくれだと?ああ、分かってるさ、ありがとう相沢。
む、どうして山本はため息を吐く?まあいい。一応ちらっと畑の方を見たが、ちゃんとトマトは残っていた。
それだけは間違いない。第一、昨日の大雨でトマトをわざわざ盗むような奴がいるか?
あの雨は結局今朝の6時位まで続いてたよなあ。家はボロアパートだからな、正直あまり寝られなかった。
あ、ああ、今日はしっかり寝るから怒らないでくれ。
しかし、委員長も詰めが甘いよなあ。トマトを育ててるんだから……いや、こっちの話だ、気にしないでくれ。
まあ、俺が知っているのは、少なくとも10過ぎまではトマトは無事だった、ということかな?
ああ、あと、校門は用務員の方が11時に閉めるから、そこからは入れないな。
侵入しようと思えば侵入できるが。ちなみに再び校門が開くのは朝6時位かな?朝早くから準備する教師もいるからなあ。
おっと、授業が始まるな。お前たちも早く教室に戻れよ!
2年1組松平正君の証言
え?昨日の行動について教えてくれって?
いきなりどうしたんだよ、まあ、別にいいけどさ。
昨日は3時に家に帰ったらすぐにランドセル置いて学校に向かったんだ。
このあたりで一番大きいグランドがあるしな!
そこで5時位までずっとサッカーをしてたぜ?
え?怪しいやつを見なかったって?
そうだなあ、あ、でかいブルーシートを担いだにーちゃんだったら見かけたぜ!
畑の方に向かって歩いてた!
で、5時位までサッカーしてたんだけど、雨が降り出したから皆で帰ろうとしたんだ。
あ!こっからおれのこと褒めていいぜねーちゃん達!
あの怪しいにーちゃんがどうしても気になったから、畑の様子を見にいったんだ!
そしたらさ、トマトの上にでっけえブルーシートが被せてあるじゃん!
せっかく雨が降ってんのに受けられないなんてかわいそうだからそのブルーシートを取っ払ったんだ!
どうだ?偉いだろ!?




