どうすればいいにょ。
神様、逃げてしまってごめんなさい。
神様、もう一度生かしてくれてありがとう。
私、きっときっとこの場所で幸せになります。
気持ちを新たにふにゃんと鳴いて意気込んだ私に、王様はクスクスと笑いながら隣りにいたリュウキさんに私をイフさんの元に帰すようにと差し出した。
イフさんは少し下がったリーフさんと同じ場所で私が帰って来るのを待っていてくれてる。
えと、私歩けるんだけど自分で帰っちゃだめかな・・・?
だって私を手のひらに置いた王様が差し出してもリュウキさんは眉間に皺を寄せて戸惑っている。
「どうしたの?ほら・・・って、リュウキ。もしかしてこの子が怖いの?爪も立てないし噛まなかった。大丈夫だぞ。」
そう言って無理やりリュウキさんの腕に私を押し付けた王様はにっこりと微笑んだ。
リュウキさんに押し付けられた私は勢いあまって手の中でも腕の中でもなく、胸に抱え込まれた状態になっている。
ふわりとリュウキさんの新緑のような香りと、少し早いトクトクと刻む鼓動になんとなく落ち着くなぁと思う。
ハッとしたリュウキさんはバッと私を両手で掴むと体から離してしまったけど、なんだか少し残念・・・。
やだーっ。
もう少しだけそこがいいー・・・っ。
そういう気持ちになってしまって、パタパタと前足を動かして求めてみたけどじっと見つめ合う形になってしまった。
私、リュウキさんにいろんなこと聞きたいの。
昔のご主人様のこと知っているの?
どうして私の昔の名前を知っているの?
リュウキさんは地球っていう星の日本っていうところにいたことあるの?
伝わったらいいのにと、じーっとリュウキさんの目を見ていたら、リュウキさんの視線が私の後ろへと向いた。
ひょいっ。
「みゃ?」
「・・・イフ。何のつもりだ。」
私をリュウキさんの手の中から奪うように持ち上げたのはイフさんだった。
「すまない。だがリュウキ殿はユキが苦手のようだったからな。」
「それは・・・。」
リュウキさんが何か言おうとしたけど、イフさんはリーフさんのいる場所まで戻ると王様に向かう。
「ユキに印を頂き感謝する。」
「いや、私もユキが気に入ったよ。ユキ。この聖域の印を持つということは、私や守護精たちと同じ地位を与えられる。そういうことなのだ。ここにいる者はお前を決して傷つけることはない。突然聖域にやってきたユキには不安も多いだろうが私たちがいる。頼りにしてほしい。」
穏やかに微笑んだ王様は、静かに立ち上がって階段に向かおうとした足を止めるとくるりと振り返った。
「時々は私やリュウキのところにも遊びにおいで。」
「みゃあ。」
嬉しい言葉をもらった私はぴこんと耳を立てて『うんっ』と元気よくお返事を返した。
ちらりとリュウキさんを見ると、リュウキさんも静かにサラサラの黒髪を揺らして小さく頷いてくれたよ。
王様ってもっと偉そうでふんぞり返ってて怖い人かと思ってたけど、すごぉく優しくてキラキラだったにょ。
リュウキさんもなんだか懐かしい感じがしたし、今度ゆっくりお話してくれるといいなぁ。
そんなことを考えながらご機嫌でゆらゆらとしっぽを揺らしてたら、頭の上から小さくイフさんが呟いた。
「そんなにリュウキ殿が気になるのか・・・。」
小さな呟きはしっかりと私の耳に届いてしまって、どういうこと?と見上げてみると、イフさんはいつもどおりの無表情に戻っていて、笑ってはくれない。
いったいどうしたんだろ・・・?
なんだか怒ってるような雰囲気だし、笑ってもらえないのもなんだか悲しくてよじよじとイフさんの肩によじ登っておでこをイフさんの頬にごちんとぶつけてスリスリしてみる。
ねぇねぇ。
どうしたの?
わらってほしいにょ。
ゴロゴロゴロ・・・。
必死にスリスリし続けた結果、リーフさんが羨ましそうに見つめて、マナさんとアルフさんは柔らかそうですねーとか言い合って微笑ましそうに見ていて、ジンさんは少しご機嫌が悪くなってたけど、イフさんは1度小さく溜息をついた後、『仕方のないやつだ。』と苦笑いして頬を寄せてくれた。
えへへ。
私ね、イフさんの『仕方のないやつだな』って笑ってくれる顔大好き。
王様とご対面も出来たし、王様とリュウキさんが光と闇の力を持っていることも知れた。
それから聖域がどんなところなのかも分かったし、イフさんたちのお仕事がどんなのかも分かった。
それに何より、私がずっとこの場所に居続けてもいいって認めてもらえたことがとってもとっても嬉しかった。
ひとつだけ、私が人の形になれることをまだ伝えられていないのだけが気がかりだけど・・・。
そこまで考えてハッと気づいてしまった。
リュウキさんがもしも地球という星にいた人だったとしたら『猫』という存在は知っているかもしれない。
もしも知っていたら、私が人になれると知ってしまえば結局は私は『化け物』ということなんだ。
『地球』という星の『猫』という動物は『人』になんて変身出来ない。
その事実をもしリュウキさんが知っていたとしたら、私は・・・どうしたらいいのかな?
ぐるぐると考え込んでしまった私は、いつの間にかイフさんにだっこされてイフさんの自室に戻ってきていた。
どうすればいいにょー・・・。