おちまいなにょっ。
ジンさんにだっこをしてもらって昨日ごはんを食べた広間にくると、既に昨日会った人たちがもう来てた。
「イフ様。ジン様。おはようございます。」
「ああ。おはよう。」
「エイル。おはようー♪」
エイルさんがイフさんとジンさんに挨拶した後、ジンさんの腕の中にいる私と目が合った。
「ユキちゃんも、おはようございます。今日はジン様にだっこしてもらっているんですね。」
「みゃあっ。」
「うんっ。今日はミントの香りしないみたいでね。だっこしていいか聞いてみたら、1回鳴いてくれたんだよ。」
嬉しそうにお返事した私と、これまた嬉しそうにさっきの出来事を話した。
年長組って感じのマナさんやアルフさん、補佐役のリアンさんたちは微笑ましそうにジンさんの言葉に耳を傾けている。
きゅるりぃ・・・。
「みぁ・・・。」
「ふふ。ユキのおなかの虫は今日も元気のようですね。」
マナさんは水色のサラサラの髪を揺らしながら綺麗に笑ったけど・・・って、笑われたっっ!?
だってぽんぽんスカスカ・・・。
「今日は料理長に頼んで生の赤身の魚を切り身にしてもらいました。一応バランスも考えてアクのない野菜も添えてもらいましたよ。」
ふぇ・・・やしゃいっっ!?
アクがなくても苦いのとか嫌だよ。
ジンさんが席について、テーブルの上に降ろしてもらうとエイルさんはずずいとお皿を目の前に出してくれた。
お刺身は好き、これ見た目はマグロっぽい。
となりのは・・・なんだろ?インゲン豆?
もしかしてこれってグリンピース???
ブロッコリーらしきものもある・・・。
ここってほんとに違う世界なの・・・?
イフさんも席について籠に入ってるパンを手に取ったのを見て、私もぱくりとお刺身を口に入れる。
「みぁっ。みゃぁっ。んにゃっ。」
おいちぃー♪
新鮮ー!
おいちーぃ♪
夢中になると鳴き声を漏らしながら食べてしまう癖は物心ついた時から直らないけど、いいんだもん。
ぽんぽんもいい感じで膨らんで、お約束のにゃんこの嗜みの毛づくろいをしようと舌をぺろりと出した瞬間・・・。
むにゅ・・・。
イフさんが私の舌を人差し指と親指で掴んだ・・・。
「にゅぅぁ・・・。」
やめてよぉーと抗議しようと舌を掴まれたままで上目遣いで見上げたんだけど・・・確かに今抗議しようとしたんだけど・・・ぅぅぅ。
魔王降臨。
前の前のご主人様が、とんでもなく恐ろしい相手に使う言葉は確かそれだったと思う。
イフさんがとんでもなく怖い顔で私を見下ろしていた。
「・・・ユキ。まだ食べ終わっていないだろう。」
「みぁ・・・ぅ。」
震えながらもチラリとさっきまで私が顔を突っ込んでいたお皿に視線をむけると確かにまだ残ってる。
残ってるんだけど、赤い色はひとつもなくて、あるのは緑色だけ。
お野菜やだーっ。
私にだって食べられる草はあったんだよ。
前のご主人様はお外に出してあげれないからって『猫の草』っていうのを植木鉢に育ててくれてたりもしてた。
だけどそれは食べるためにあるんじゃないんだってばぁーっっ。
毛玉をぺってするためだけに食べてたんだよぉーっ!?
はーなーしーてーーーーぇっっ。
「みにゅぁーっ!」
私の舌を掴んでるイフさんの手をどうにか離してもらおうと前足2本でテシテシしたりグイって押したりしてるけど離してくれない・・・。
爪立てないように頑張ってるせいで強硬手段にも出られなくて舌が乾いてきて気持ち悪いーっっ。
「ちょ・・・。イフ。そろそろ離してあげないと・・・。はぁ・・・。困りましたねぇ・・・。」
「でも嫌がることされても噛み付きも引っ掻きもしないなんて、なんて出来た子なんでしょうね。」
横からアルフさんが助け舟を出してくれるけど、その向かいではマナさんが感心してる・・・感心してないでイフさんを止めてぇー・・・。
「みぃ・・・みぃぅ。」
情けない声になってきた私に気づいてイフさんは溜息をついて手を離してくれた。
舌の違和感に何度もペロペロと口周りを舐めている私にイフさんは人差し指で私のおでこをつついてきた。
「料理長がお前のためだけに用意した食事だ。きちんと食べろ。」
「・・・みぁ。」
そう言われたら頑張るしかないじゃない・・・。
叱られたことに少しシュンとしてしまった私の頭を人差し指でちょいちょいと軽く撫でたイフさんは、フォークの先にグリンピースより一回り大きい大豆くらいのグリンピースもどきを私の口先にちょんちょんとつついてきた。
「ほら。食わず嫌いじゃなくて本当に食べられなかったなら次の食事には入れないようにしてもらう。だが口に入れないうちから嫌がるのはいけないことだ。口開けろ。」
「イフってば・・・。ユキの食べたいもの食べさせてあげればいいのに。」
「ふふ。ジン。そんなこと言うものではありませんよ。イフはユキのためにわざと厳しくしているのですから。」
ジンさんの言葉にアルフさんがお返事しているのを横目に私は覚悟を決めて口を開いたけど、生まれて間もない子猫サイズの私の口に大豆ほどのグリンピースもどきは少し大きくて、四苦八苦しながら奥歯で噛んで必死に口に押し込んだ。
「・・・大きすぎたか。」
味はやっぱりグリンピースで、ざらざらする舌触りにやっぱりおいちくないーって目で訴えてみたけど、イフさんはこっちを見てなくてつるつる滑るイフさんからしたら小さなグリンピースもどきをフォークで苦戦しながらも割っていた・・・。
おいちくないにょーっ。
もう一度目の前に、今度は半分にされた豆(もう豆でいい)を口元にもってこられたけど、フンっとすねたように丸くなった私に、イフさんの眉間の皺が増えてしまった。
「嫌いなのか・・・。これは次から却下だな。ユキ、もうこれは食べなくていいから次はこっちを食べてみろ。」
「みぁっ。みゃーっ。」
思いっきり拒否した私にイフさんは無言で眉間の皺をもう1本増やした。
今日はもう食べないにょっ。
おちまいなにょっっ!!